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チュートリアルで詰んだかもしれない.12

清々しい朝が来た。

小鳥は囀ずり空は何処までも青く澄んでいて雲1つない快晴だ。

実にいい朝である。

え?ゲームをどうするか考えたかって?

HAHAHA、俺は学生なのだから学校に行って勉学に励まなければならないのさ。

放課後だ、放課後まで待ってくれ。

きっとログインしたら名案が浮かぶ筈だから!



「聞いてくれよ悠!昨日ダンジョンの宝箱からスゲーの出てさ!エリアボスに勝てるかもしれないんだ!フフフ、お前がスライムを倒すよりも早く次の街が解放されるかもしれないぜ?」

「もう倒した。フレンド申請もしたのに気づかなかったのか?」

「え、マジ!?そういえば皆で宝箱見つけた時に通知があったような無かったような……」

「まぁ後で承認してくれればいいさ。もうフレンド2人もできたしな」

「なら今日は一緒にクエストでもやるか?うちのパーティメンバーにも紹介したいし」

「あー、今日はパス。まだチュートリアルが終わっていないからな」

「スライム突破して達成感でそのままログアウトでもしたのか?」

「いや、割りとガッツリプレイしたぞ?次に俺の前に立ち塞がったのは兎だ」

「あぁ、キックラビットね。確かにあのステータスだと攻撃当てる前にやられるわな。最近やたらと強い個体が出てくるようになったって話もあるみたいだからソロだと辛いんじゃね?」



どうやらボス兎の影響はフィールドに広がりつつあるようだな。

幸いにして多くのプレイヤーはお宝目当てにロマン溢れるダンジョン探索を行っている。

ガチ勢の方々は強めのMobが出現する森の深部でエリアボスに挑むためのレベリングと装備用のアイテム収集をしているらしい。

キックラビットの出現する大草原エリアに来るプレイヤーは、薬草採取や気晴らしにモンスターを狩りにきた生産職くらいのものだ。

だが兎達の変化に気がついているプレイヤーもいる。

今はまだ難易度調整や自分達のレベルが上がったから出現するようになったと予想されているらしいが、ボス兎の存在がばれるのも時間の問題だろう。

そうなれば他のプレイヤーにボス兎を仕止められてしまう可能性はかなり高い。

気は進まないが、やはり今日挑もう。








「最近悠二も光介もゲームし過ぎ、ヒマ、構え」

学校から帰ると姉さんに絡まれた。

うだー!と手を広げながら俺の部屋の前で待ち構えていたのだ。

「どうせ俺も光介も学校なんだから外に遊びにでも行けばいいじゃんか。てか働けよ姉さん」

「やだ、めんどくさい。悠二の椅子で寝れないから却下。これでもパパと同じくらいには稼いでる」

「嘘ぉ!?」

マジかよこの姉……

どうやったら家でゴロゴロしているだけで一家の大黒柱と同じだけの稼ぎを叩き出せるというのだ。

父の稼ぎが低いのか姉が稼ぎまくってるのかも気になるところだが、まあ後者だろう。

そうなるとΩ様に使用料を設定していなかったのが悔やまれるな。

先の言葉からも分かるように姉さんは俺が出掛けてる間、部屋に入り込んでΩ様に横になってだらけている。

Ω様が部屋に設置されるまでの定位置だったリビングのソファーが悲しげに見えたのはきっと気のせいだろう。


「そんなに稼いでるなら自分用のダイブマシン買えばいいじゃんか」

「………買いに行くのめんどくさい。あの椅子と同じの買ってきて?」

「無茶言うなって、Ω様めっちゃ高いし限定生産品らしいから普通ので我慢しなよ」

「……仕方ない、今度雪音さんに頼んでみる」

「何故そこで雪音さん?」

「ワールドワイドなコネをもってるって前に自慢してたから」

「なんてフワッとした理由!」


天白雪音 年齢■■(字が何者かによって塗りつぶされている)

先週俺の当てたカニを食べて帰っていった人のことだが、覚えているだろうか?

うちの母さんの後輩らしく、しょっちゅう遊びにきている人だ。

1度ふざけて、そんな頻度で遊びにきてるから彼氏ができないんじゃね?と口を滑らせた時には死を覚悟したものだ……

皆も見えてる地雷には触れちゃいかんよ?


「ハロー悠君!この前はカニ美味しかったよ~」

「うおっ!いつの間に!」

「雪音さん、いらっしゃい」

「何だか呼ばれた気がしたから来ちゃった☆」

語尾に☆とか……歳を考えろと言いたい。

言ったら地獄をみるはめになるから言わないけどな。

だからその背筋の凍るような目でこちらをみつめるのは止めて頂きたい!



「へー!悠君随分と良い物当てたんだね。これを手配するには私でもちょっと時間がかかるかなぁ。スプルドの第二陣が発売するまでには持ってこれると思うよ」

「いい、雪音さん愛してる」

「マジかよ……」

「ふっふっふー!ワールドワイドなコネは伊達じゃないのだぜぃ!」


まさか本当にΩ様を手配できるだけのコネを持っているとは思わなかった。

いきなり現れたり、妙なコネを持っていたりどうなっているのだろうか?

いや、雪音さんだけじゃないか。女性陣が謎すぎる。

ゴロゴロしているだけで父と同じだけ稼ぐ姉さん。

自称ワールドワイドで魅力的すぎる女、雪音さん。

そしてそんな雪音さんに先輩と慕われている母さん。

ちょっと出掛けてくると言って一週間ほど帰ってこなかったりすることがあるのだが、その前後で大きな事件が起きただの解決しただののニュースが流れるのは偶然だと思いたい。


家は本当に一般家庭なのだろうか?

父さんはそこそこ大きい会社でサラリーマンをしているのが確定しているから安心できるのだが……

いや考えるのはよそう。

ファンタジーはゲームの中だけで十分だ。

雪音さんが来たことで姉さんも俺を解放してくれたことだし、さっさとチュートリアルを終わらせよう。

感覚設定は……GMコールでなんとかなるといいなぁ。





「牢屋?何で捕まってるんだ俺?」

「起きたかライリーフ。まさか自分から牢に入りたがるプレイヤーがいるとは思わなかったぞ」

「えーっと……?」

「おいおい、勘弁してくれよ?お前がその牢に入るために俺の名前を使ったって言うから非番なのに呼び出されたんだぞ?」

「ああ!バルザさんか!衛兵の鎧着てないからわからなかったぜ」

「ははは、前に捕まえた悪党にも似たことを言われたっけな」

「あー、やっと思い出した。金がなくて宿に泊まれないから牢屋にぶちこんでくれって頼んだんだったな」

「今回だけだからな?宿代をケチるプレイヤーで牢があふれちゃかなわんからな!他言もすんじゃないぞ」

「うっす、スンマセンした!」



牢から出た俺は、人気の少ない所を探して街を歩き回った。

屋台から漂ってくる串焼き肉のいい匂い。

武器や防具が飾ってある店。

プレイヤーらしき人達の出している露店など、様々な誘惑を断ち切り歩いた。

ん?今何か違和感を感じた気がする。

何にだ?

匂いか?確かに以前よりよく感じることができる。

だが違う、これは感覚設定が100%に固定されたためだろうし、考えてから初めて気がついた。

屋台が原因ではなさそうだな。

武器や防具の店に飾ってある物に感じたのだろうか?

ふむ、特におかしな物はなさそうだ。

じゃあ露店か?

多くのプレイヤーらしき人達が所狭しと並んで思い思いの商売をしているが別段珍しい光景でも、ん…?プレイヤーらしき?

何故俺はプレイヤーらしき等と曖昧な表現をしたんだ?

プレイヤーかどうかなんて頭の上に浮かんでるカーソルを見れば一発でわかるのに。

青ならプレイヤー、緑ならNPC、オレンジと赤は共通で犯罪者だ。


……………?

カーソルが、ない?

視界の何処にもカーソルが表示されていない!?

何でや!

設定とか弄った覚えないんですけど!


あたふたしながら設定を確かめてみるがデフォルトから変更されていない。

では何故いきなりカーソルの表示が消え失せたのか。

プレイヤーらしき人達は特に気にしていないことからこの変化は俺だけに起きているっぽい。

う~ん。

昨日と今日で変わっていることと言えばまず感覚設定100%固定

他に思い付くのはデスペナが解除されているくらいしかないんだけどなぁ。

……

あ、あるじゃん。称号増えてたじゃん。

【世界と共に歩む者】

異なる世界にあってこの世界と共に歩むことを決意した者の証

その瞳にはスプルドに生きる者達と同じ光景が映される

効果

取得経験値10%増加

視界設定のロック



なかなかいいじゃないの!

決意とか全くしてないし強制取得だったけど結果オーライ!

プレイヤーとNPCの見分けがつかないくらいなんてことないさ。

しかしスプルドに生きる者達、って。

βの時にはまだ世界の名前が決まってなかったとか聞いたことがあるんだが。

まさかこのゲームの略称をそのまま採用したのかここの運営?

なんて適当な……


疑問も解消されたので暫く歩いているとちょうどよさそうな所を見つけた。

さっそくGMコールだ。

《こちらGM担当Navi-02です。本日はどうなさいました?》

「説明のないアイテムで感覚設定が100%で固定されてしまったのですがなんとか標準まで戻せませんか?」

《少々お待ちください。只今ライリーフ様の行動ログを確認しています……確認が完了しました。特典アイテムを使用したのですね?》

「はい、アイテムの説明がよくわからなかったのでオブジェクト化して調べていたら使用されました」

《ライリーフ様の使用された特典アイテムは、とある雑誌の懸賞の商品として専用のダイブマシンと共に送られた限定パッケージの物なのですが、『稲葉悠二』様ご本人で間違いありませんか?》

「はい、本人であってます」

《プロダクトコードの書かれていた紙にアイテムの詳細も書かれていたのですが、ご覧になりましたか?》

「………そんなの書かれてましたっけ?」

《書かれていたのです》


マジかぁ……

コードだけ打ち込んでポイしちゃったあの紙割りと重要だったかぁ……

「すいません、こっちで確認すればいいと思って読んでませんでした」

《そうですよね、特典アイテムならちゃんとした説明文があると思いますもんね。ログを確認した時に私も説明文を読ませて貰いましたがあれは酷いですよね~》

「次からは気をつけるんでなんとかなりませんかね?」

《そうですね……。アイテム使用前の状態に戻すだけなら可能です。ただしアイテムは戻りません。》

「!はい、大丈夫です!戻しちゃって下さい!」

《その前に確認しておきたいことがあります。攻撃を受けた際に感じる痛みもデフォルト設定の時より大きくなってしまうから元に戻したい、であっていますか?》

「あってます、痛覚まで現実と変わらないなんて狂人の所業俺には無理です!」

《デフォルトの時より痛みが大きくなるのは確かですが、現実と変わらないほどの痛みではありませんよ?》

「えっ!?」

《少し前の世代のゲームであったなら確かにそのとおりなのですが。本作に用いられている技術により身体の感覚を限りなく現実に近づけたとしても、痛みは最大でも4割程度に抑えられています》

「あれ?デフォルトで痛覚情報は30%でしたよね?」

《上限である現実での痛みの4割を100%とした時の数値として30%です。つまり私としては勿体無いのでこのままプレイを継続することをおすすめ致します》

「マジかよ」

いやよく考えてみればそうか。

ボス兎の大岩すら砕く蹴りのラッシュを食らってめっちゃ痛い!とか文句言える余裕があったんだもんな。



《どうなさいますか?》

「このまま続けます。ありがとうございました」

《いえいえ、では失礼いたします。また何か御座いましたら遠慮なくご利用くださいませ》

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