開戦前の腹拵え
某スマホでVtuberになれるアプリを使って脳内にある本作のヒロイン?達を作ってモチベーションをブーストした結果、本編がバトルにたどり着けなくなる不具合。
「やろう! すぐにやろう!」
「ちょっ! 分かった、分かったから腕引っ張るなって!」
「だってドラゴンだぜ!? 早く早く!」
「ええい、このバトルジャンキーめ! 少しは準備とか考えろよ!」
「当たって砕けろだ! むしろ砕く!」
なんともまぁ頼もしいことで。ステータス的にメインアタッカーはマロンに任せることになるが、この調子だと深追いしすぎて簡単にやられそうだな。
とりあえず装備を変更しよう。いくらイベントで1番弱いレベルだと言っても相手はドラゴン、間違っても初心者装備で挑んでいい相手じゃないだろ。
装備
世界樹の木刀
初心者の上着
初心者のズボン
初心者の靴
↓
幻影水晶の剣
世界樹の木刀
転聖龍鎧・ドラグディザスターⅢ
白き大蛇のベルト
樫の手甲
ウルフグリーヴ
大怪鳥のマント
再生したドラグディザスターには新しく射撃ダメージ軽減・微がついていた。うん、たぶんこの能力を活かす機会は訪れないだろうな。
「よし、装備はこれで完璧だな」
「何その装備! 超カッケーじゃん!」
「はっはっは! ドラゴン相手にするんだから本気でいかないとだろ?」
「スゲー! でもそんなの持ってるのになんで初心者装備なんて着てたんだよ?」
「ん? 単に付け替えるのが面倒だったからだよ」
「アンタ、割りと残念な人なんだな……」
こいつめ、その残念な人に色々教わってるって事を忘れてるな? だが許そう。何故かクラスの女子から同じような評価をよくされるので馴れている。本当に不思議でならないが、そこは大人の態度でスルーだ。
「あとは飯食ったら準備完了だ」
「飯? いいよそんなの。早く戦いたい!」
「ダメだ。もう結構空腹度が上がってるし、なにより飯でバフ付けられるんだから食わなきゃ損だろ?」
「でもアタシもうお金無いし」
「今から俺が作るからさ」
「むー……」
実に不満そうな顔だがその表情がいつまで持つかな? ここでの俺の料理は自分でも引くほど美味いからな。すぐに笑顔に変えてやんよ!
「な、なぁ、それまだ出来ないのか?」
「もうすぐ完成だからあと少し我慢してくれ」
「うん」
料理の完成を待つまでもなくマロンは陥落した。
クックック、なにしろ今作ってるのはカレーだからな。この食欲をダイレクトに刺激する香りの暴力の前にはバトルジャンキーと言えどもエサの前の飼い犬もどうぜんの従順さよ!
「うわぁ……すごくいい匂い」
「こんな所でカレー? あっ! 店主さんが料理してる!」
「マジか!?」
「お前ら急げ! 売り切れちまうぞ!」
「うおー! てかなんだあの厳つい鎧は!?」
「な、なんだ!? ライリーフ! 人がいっぱい集まって来たぞ!」
「しまった、不用意にフィールドで料理なんてするんじゃなかったな……」
食スレの住人達の鼻の良さを舐めていた。一応大量生産のおかげで今いる人数分のカレーはあるけど、スレで人呼ばれると困る。
「お前ら……絶対スレに書き込むなよ? 書き込んだら週末の屋台やめるからな」
「うぉっと!? ギリギリセーフ!」
「あー、そうだよね。そもそも今屋台出してるわけじゃないもんね」
「お騒がせしてごめんなさい!」
「くっ! でも目の前に店主さんのカレーがあるのに食えないなんて辛すぎるぜ……」
「決めた。今日は絶対カレー作る」
マナーのいい連中で助かった。ここで変に絡んでくる奴だったら断固としてカレーを死守する所だが、こいつらになら分けてやってもいいだろう。
そんなことを考えていると、いきなり人に囲まれたせいで借りてきた猫みたいに大人しくなって俺の後ろに隠れたマロンがマントの裾を引っ張りながら小声で質問してきた。
「なぁ、アンタ有名人だったのか?」
「え? あー、そこそこ有名かもな?」
「そこそこなんてもんじゃないでしょ! いったい何人が店主さんの料理を求めているとおもってるんですか!」
「そうだぜ! 俺なんて週末の屋台の為だけに貯金始めたんすよ?」
たかが屋台の為に貯金なんてするのか……でも買い占めは良くないぞ。主に俺の作業量が増えるから。
「ま、こんな感じで一部のプレイヤーには認識されてるみたいなんだよ」
「なんか、初心者のアタシに付き合わせちゃってごめんな……」
「あ? そんなこといいって。それよりカレー出来たから皆で食おうぜ」
「……うん!」
「おお! 俺らも食べちゃっていいんですか!?」
「ギリギリ人数分には足りるからな。あ、でも1人5000コルな。手加減なしで作ったせいで、たぶんレア度PMになってると思うからさ」
「PM!? 料理でもPMになるんですか!?」
「それが本当なら5000コルは安すぎるんじゃ……」
たしか今出回ってるPM装備はよほど出来の良い物を除くと大体5、60万コルだったし、装備がそれくらいなら消費アイテムなんてこんなもんでいいと思うんだけどなぁ。
「ならこの場で食べる事が条件の特別価格ってことで。スクラッチの6等辺りに当たったとでも思って食っとけよ」
バフの効果を有効活用するためには急いでモンスターを狩りに行く必要があるけどここはファースだ。俺のように地図の欠片を5枚揃えているなら話は別だが、そうでなかった場合稼ぎのいい狩場に戻るまでにかなりバフの時間を無駄にしてしまうことになるし安くてもいいだろ。
「他の食スレ民にバレた時が怖いが……やっぱり我慢できねぇ! 俺は食うぞ!」
「俺もだ!」
「はいまいどー。マロン、カレーよそってやれ」
「う、うん。えっと、どうぞ……!」
「うひょー! これ絶対美味いって!」
「ナンまでついて本格的だぜ!」
他のプレイヤーも匂いと美味そうに食べる仲間の姿に我慢ができなくなり、結局全員でカレーを食べた。
ちなみに今回のカレー、バフの効果はSTR上昇・大と耐寒1時間だった。ファフニールに挑む俺達にとって数あるバフの中からSTR上昇が引けたのは実に幸先がいい。
「ふぁ~、美味しかった~」
「よっしゃ!バフ切れる前にできるだけ稼ごうぜ!」
「えー……食休みにゆったりしようよー」
「俺らはどうする? ダンジョンにでも行ってみる?」
「北の山に登ってみね? あそこ雪積もってるし耐寒ある今のうちに行っとこうぜ」
「いいねぇ!」
他のプレイヤー達はカレーを食べ終わって次の予定の相談か。俺もそろそろ地図の準備を始めよう。
「店主さん、いきなり押し掛けちゃってすいませんでした」
「ん? 別に次から気をつけてくれればいいよ。それに、大勢で食べる飯は美味いからな」
「はい! あ、この後の予定決まってたりします?」
「ああ。そこのマロンと一緒にファフニールに挑むんだ」
「おお、いいですね! そうだ、ファフニールは残りHPが3割になると確定でブレス攻撃してくるみたいですよ」
「へーそうだったのか。情報サンキュー」
「いえいえ! それじゃ私達は行きますね。週末の屋台も楽しみにしてます!」
屋台、やっぱりやらなきゃダメだよなぁ……。正直億単位でコル持ってるからこれ以上稼ぐ意味が見出だせないんだよね。どうにかしてサボれないものだろうか。
「さてマロン、俺達も行くか!」
「うぅ、ちょっと緊張してきた……」
「お前のハルバート捌きならやれるって。それに俺の料理のバフまでついてるんだぞ?」
「そう、だな。絶対ドラゴン倒してやるぜ!」
「おうよ! 勝ってドラゴンステーキ食おうぜ」
「ドラゴンステーキ! さっきのカレーより美味いかな!?」
「ファンタジーの定番なんだし絶対美味いに決まってんだろ!」
テンションもいい感じに上がって来た所で地図の欠片を5枚取り出す。すると欠片は1枚の地図へと変化し、財宝と黄金竜の眠る洞窟へと俺達を誘う。
「うっ、これは……!」
「わぁ……」
転移した俺達が目にしたのは壁一面の財宝の山。いや、壁だけじゃなく床も財宝で埋め尽くされ眩しいくらいに黄金の輝きを放っている。そして――
『誰ぞ……我が眠りを妨げるのは誰ぞ』
黄金の巨体が起き上がり、緋色の双眸で俺達を睨め付ける。
『我が財に惹かれし盗人共か。渡さぬ、渡さぬぞ……我が宝は誰にも渡さぬぞ!』
「グオオオオォォォォォォ!!!!」
開戦は巨竜の咆哮と共に。




