ヤンキー少女育成計画
「1人だからアドベントの狩場を追い出されてこんなところで戦ってんだろ? アタシと組めばモンスターの奪い合いにだって勝てるぜ」
どうやらこの子は俺を第二陣のプレイヤーだと思ってるらしい。周りと比べてやたらモンスターを狩るスピードが早かったから声をかけてきたのか。
俺はゲーム開始から暫くチュートリアル空間を抜け出せなかったからいまいち実感がわかないけど、やっぱりゲームスタート直後のMOBの奪い合いは過激みたいだな。
「悪いけど、俺は好きでここでモンスター倒してるんだ。あと俺第二陣のプレイヤーじゃないからね?」
「はぁ!? くっそ……それで初心者装備に棒切れでも強かったのか。最初の予定通り猫かぶっとくんだったぜ」
棒切れとは失礼な。これ世界樹の木刀だぞ? めっちゃレアなんだぞ?
だがここで出会ったのも何かの縁だ。軽くこのゲームのレクチャーをしてやろうじゃないか。
「レベル上げたいなら暫くは生産系のジョブを育ててみたら? ある程度レベル上げたらダンジョンに行けるし、獲物の取り合いしなくても済むよ」
「生産職ぅ? そんなみみっちいことしてられっか! やっぱりこういうゲームはモンスター倒してなんぼだろ!」
「みみっちい……たしかに戦ってレベル上げたいって気持ちは分かるけどさ、ここで戦ってるよりずっと早く強くなれるんだぞ?」
「ふん、そんなことしてるより戦闘職のレベル上げた方が絶対早く強くなれるね」
「レベル上げられればな。ここで1日戦ってもいいとこ下級職のレベルが10になるかどうかだぞ?」
「うげ、ここそんなに効率悪いのかよ……」
「ちなみに俺はまだ戦闘職を1つも育ててなかったりする」
「嘘ぉ!?」
ホームの建設が終わったら剣士系のジョブでも育てようと考えてからもう何日経ったことだろうか……。いっそのこと戦闘職無しでグーヌートに挑むのも面白いかもしれない。
「ほ、本当に生産職育てるだけでそんなに強くなれるのか……?」
「覚えておけヤンキーガール。ゲームにおいてステータスはシンプルに正義だ」
「あ、そうか! 生産職でも貰えるステータスポイントは一緒……って誰がヤンキーガールだ! アタシには茜って名前が……じゃなくてマロンな!」
「よろしく茜ちゃん。俺はライリーフだ」
「マロンだって言ってんだろうが!」
本来ならあそこで別れてもよかったのだが、何故か俺は茜ちゃん、もといマロンに連れられてファースへ戻ることになっていた。
「生産職なんてどれやっていいかわかんねーから一緒に選んでくれ」
「えー……それだけの為に俺は街まで引っ張られたのかよ」
「アンタが生産職育てろって言い出したんだから最後まで面倒みろよ」
「しゃーないなぁ。んじゃとりあえず神殿で今変更できるジョブ調べてこいよ」
「アンタは着いてこないの?」
「面倒なことになりそうだからパス」
「ふーん。変なクエストがあるみたいだな」
マロンはそう言うとめんどくさそうに神殿へと入っていった。
なかなか勘がいいなあの娘。俺が今うっかり神殿に入ったりしたら戯神レーレンに強制連行されかねない。この休みの間に戯神の試練は終わらせるつもりだけど、せめてある程度イベントを楽しんだ後にしたい。
それに、まだデッキ組むどころかパックの開封すらしてないからね!
「ニャー」
「ん? ああ、暫く戦わないから散歩してきていいぞ」
「ニャ」
む、去り際のあの動き……ギフトパスか。さっきまでの戦いで集めたアイテムをこっちに送ってくれたみたいだ。
おお! 地図の欠片がこんなに! 俺のゲットした分と合わせて57枚、もう11回もファフニールと戦えるだけの地図が揃うとは、我ながらさすがLUK特化の主従と言った所だろうか。
「おーい、確認してきたぜ」
「おお、早かったな」
「中に入ってメニューが展開された所をスクショしただけだからアタシもまだどんなジョブあるか詳しく見てないけどな。ん」
スクショ……なるほど、その手があったか。表示されたジョブを覚えるかメモするかで時間が掛かると思っていたが、それなら確かに一瞬で済む。
マロンはメニュー画面から先程撮ってきたと思われるスクショを開き、可視化させて俺に見せてきた。
表示されているジョブは基本職を除くと『蛮兵』『樵』『登山家』『レスラー』『農民』……。
「この中でなら樵が一番楽そうだな」
「樵って生産職なの?」
「木を伐採して薪を作るんだから生産職だろ」
「ふーん? でもアタシ斧買える程お金持ってないぜ」
「そこは安心しろ。俺が貸してやるよ」
「お金を?」
「斧を」
俺のジョブ開拓者は開拓に必要な物なら即席でいくらでも作れるからな。
「斧かぁ……まあいいや。さっさとジョブ変えてレベル上げに行ってやるぜ!」
ジョブを変更したマロンと共に、いつも木材を調達している山の麓へと移動した。
「よーし、そんじゃぼちぼち始めるか」
「なぁ、斧は? 斧貸してくれなきゃ木ぃ伐れねぇじゃんか」
「おっとそうだったな」
ジョブスキル、アイテムクラフト・フロンティアでサクッと石斧を作成する。20個くらいあれば足りるだろ。
「斧って石斧かよ……ちゃんと鉄で出来たの出してよ」
「それはクエストで金貯めて自分で買えよ」
「ちぇっ、ケチ!」
マロンは今、薪の納品ってクエストを受けている。これは常設されているクエストの中では中々にいい稼ぎになるみたいだ。
おまけにクエストをクリアすればコルだけでなく経験値も貰えるし、何よりサブジョブの冒険者のレベルも上げられるのだ!
ふっ、如何に今までの俺のプレイが雑だったのかを突きつけられている気分だぜ……ってかサブジョブあるってことはマロンはもうチュートリアルクエスト終わらせてるのか。俺の100倍優秀じゃん。
「目標は木材1スタックってとこかな」
「え? アンタもやるの?」
「まぁな。そうだ、どっちが先に集めるか競争しようぜ」
「えー……めんどくせー」
「俺に勝ったら黄金竜戦に連れてってやるよ」
「マジ!? めっちゃやる気出た!」
単純よのー。だがこれで普通にプレイするより大幅に効率アップした筈だ。目の前にエサをぶら下げられた彼女は、競争相手に負けない為に自ずと作業に集中することになる。
でもま、それはそれとして――
「はっはっは! そんな斧捌きじゃ俺には勝てないぜ!」
「はぁ!? なんだよそのスピード!」
「経験の差だ! 1週間の整地作業は伊達じゃねぇ!」
「くっそー! 負けてたまるか!」
勝負するなら本気でやらなきゃつまんねーもんな!
昨日は更新サボってごめんなさい。
イベント最終日の周回で燃え尽きてしまったのです。
それでも50箱くらいしか空けられなかったんですけどね!




