戦闘準備
せめてあと1枚アタランテが当たっていれば3ターン周回ができたのに……!
「テメーらがデケー声で騒ぐせいでヒメちゃんの美声が聴こえねーだろうが!」
「やっとヒメちゃんと一緒にゲームできて幸せな気持ちだった所に水差しやがって!」
「ちょ、ちょっと……二人ともやめなよぉ」
な、なんて一方的な言いがかり! てかやっと一緒にゲームができたって……それなら素直にクエストでも受けてフィールドでモンスターと戦ってこいよ。
そこでカードショップに行くなんて選択が出てくるからお前らはお前らなんだぞ?
「な、なんだよ! あんたらだってレアカードあててさわいでたじゃんか! そっちはSRだったみたいだけどこっちはSSRなんだかんな! そっちよりずっとスゲーんだよ!」
おいこらクソガキ、何火に油注いでやがる! これじゃ対人トラブル待ったなしじゃねーか!
「なんだとこのガキ! そいつがヒメちゃんよりいいカード当てるとかありえないだろーが! ヒメちゃんのLUKは900越えてんだぞ!」
「俺らのLUKより10倍スゲーんだぞ!」
お前ら小学生か!? いい大人がそんなどうでもいい内容で子供と張り合うなよ!
ほら、やいのやいのと言い争うお前らを姫プレイヤーさんもめっちゃ微妙そうな表情で見てんぞ。
「そこまでだ!」
唐突に割り込んで来たのは、この店の店員であるおっちゃんだった。
「ここはカードショップだぜ? ケンカするならカードで白黒つけるんだな」
「おっちゃん……たしかにおっちゃんのいうとおりだぜ」
「ちっ、俺らもちょっと熱くなりすぎたか……いいぜ? カードで負けた方がさっき当てたレアカードを渡してこの店を去るんだろ?」
「こいつは昨日のショップ大会で優勝した実力者、そう簡単に勝てると思うなよ」
「はっ、のぞむところだぜ! やってやれにぃちゃん!」
俺まだルールしらないんだけど……。
てかお前ら、何しれっとアンティ勝負にしてんだよ。賭け対象のカードの所有者二人を無視して決めんなし!
姫プレイヤーさんだって困って――
「それじゃ先にカードを預からせてもらうぜ?」
「あ、はい」
普通におっちゃんにカードを渡してるだと!?
ぬかった! あの人は取り巻き二人に連れられて来ただけでカードには一切興味がない。さっさとトラブルを終息させるためにカードを預けるのは必定ではないか!
あ、目が合った。スゲー申し訳なさそうな表情で目礼してきやがって……勝負断りづらいじゃんか!
「さ、君もカードを渡してくれ」
「はぁ……しゃーねーなチクショウ!」
「おお!? 聖天のアルトのカードじゃねーか! 本物初めて見たぜ!」
「聖天? 聖剣使いってかいてあるけど?」
「知らねぇのか? うちの国が誇る十二天将、その中の聖天に初めて任命されたのがこのカードのモデルなんだよ」
「へー」
騎士系のユニークジョブかなんかだろうか? ソフィア辺りが今の聖天だったりしてな。
「よし、互いに賭けるカードも預かったしさっそくバトルを始めてもらおうか」
「ストップ! 俺まだデッキ組んでないから少し待ってくれ」
「ハッ! デッキも無いのに勝負を受けたのかよ?」
「さっさとザコデッキでも組んでカードを差し出すんだな!」
こいつらはいちいち三下ムーヴしないと気が済まないのか? ロールプレイならちゃんと姫プレイヤーさんのパトロンとしての振る舞いを徹底すりゃいいのに。
まぁいい。とりあえず今はデッキの確保とルールの把握が先だ。協力してもらうぞ子供達。
「……おいお前ら、ちょっとこっち来い」
3人と一緒に店の隅に移動してとりあえずクソガキに拳骨を入れておく。
「いたぁ!? なにすんだよにぃちゃん!」
「アホ! お前のせいでこんな面倒な勝負受けることになったんだから当然だろうが! 俺はまだルールもしらないしデッキ組めるだけのカードも持ってないんだぞ?」
「いぃ!? マジかよ……おれのせいでSSRあいつらにとられちゃうのか……にぃちゃんごめん」
「素直に謝れようになったのはいいことだ。けどな、俺は負ける気はないぜ? だからお前達に簡単なルールを教えてもらいたいんだ」
「いいよー」
「まかせてください」
「……うん」
このカードゲーム、名前はスプレッドモンスターズと言うらしい。
教えてもらった基本ルールはこうだ。
・デッキは30~40枚
・最初の手札は4枚
・フィールドはバトルゾーン、サポートゾーン、ロストゾーンの3つがある
・1度のターンで手札から新たにフィールドにセット又はプレイできるのは2枚まで
・バトルをスタートさせる時デッキトップをバトルゾーンにセットし、オープンしてパワーの高い方が先行
・先行は最初のターン攻撃できない
・ターンの始めにデッキからカードを1枚ドローする
・先に5ポイントのダメージを与えた方が勝ちのハーフルールと、10ポイント与えた方が勝ちのスタンダードルールの2つがある
・デッキが0枚になった場合、その時点で敗北
バトルゾーン、サポートゾーンはどちらも3枚までカードをプレイできて、ロストゾーンは使い終わったカードやバトルで負けたカードが送られる、所謂墓地だな。
このカードゲームは全てのカードがサポートとしてもモンスターとしても使えて、どちらにどのタイミングでカードを使用するかが勝利の鍵となってくる。
1ターンに手札から出せるカードが2枚までなので、早くセットし過ぎて相手に破壊されたり……逆に手札にカードを温存し過ぎて使いたいタイミングで手が足りなくなってしまったりとなかなかに奥が深そうだ。
「サンキュー、大雑把なルールはこれでわかったぜ」
「でもデッキはどうするの? にぃちゃんカードもってないんでしょ?」
「あたしのうさちゃんデッキつかうー?」
「んー、それなんだけど……おい、そこのショボくれ。お前のゴブリン達を貸してくれ」
「はぁ!? にぃちゃんバカなのか! あいつはここの大会でゆーしょーしたっていってたのに、ゴブリンなんてザコカードでかてるわけないじゃん!」
「いいんだよ。初心者が変に気合い入れたデッキ組んでも回らない事の方が多いんだから。それに、ゴブリンだってちゃんと使えば強いかもだぞ?」
「……わかったよ」
貸してもらった大量のゴブリンカード。結構な種類がある辺り、構築テーマとして確立してるんじゃ……あ、SRのゴブリンキング。こいつレアカードでもゴブリン引き当ててたのか。可哀想に……。
「よし、組めたぜ」
あまり相手を待たせるのも悪いので、とりあえず5分間で30枚のデッキを仕上げた。
「……ほんとうにゴブリンデッキでいいのかよ? ケイのアンデッドデッキかりたほうがぜってーつよいのに」
「ま、見てろよ。ゴブリンの底力は侮れないんだぞ?」
俺はまだこのゲームで戦ったことないけどな。
「待たせたな」
「どんなデッキを組んだかは知らないが返り討ちにしてやる! ガキと一緒にママに泣きつくことになっても知らねーぞ!」
さぁ、ゲームを始めようか!
ルール考えてたらバトルに入れんかったぜ。




