メンテナンスのお知らせ
ピロリン
軽く食事とトイレを済ませて再びログインすると運営からのメッセージが2通届いていた。
カジノでの一件でなんかまずったか?と身構えたが、どうやらこの内容だとプレイヤー全員に送られているみたいだな。
一通目にはゴールデンウィークイベントの予告、そして2通目には第二陣参入にあたってゲームバランス調整の為にメンテナンスが行われると書かれていた。
「イベント名は『黄金竜の財宝を手に入れろ!』か……明らかに金策イベントっぽいな」
おそらく第二陣のプレイヤー達にある程度金を渡してプレイヤーメイドの武器を買えるようにさせたいのだろう。
こちとらカジノでがっぽり稼いだばっかりだから財宝には興味がないが、黄金竜さんの素材は確保したいな。なんせ竜だ、上手いことやれば神特効の装備が作れる可能性がある。インテリアを武器化するための材料に使えるかもしれない。
自分で戦ってみて勝てなかったらプレイヤーから買い漁ろう。
「で、メンテナンスの内容は……一部称号効果の修正と新アイテムの追加ね」
どの称号が修正されるのかは詳しく書かれていなかったが、ガチャチケットの欠片なるアイテムがモンスターから低確率でドロップするようになるらしい。
20枚集めるとガチャチケットになってガチャが引けるのか。へー、それに合わせてガチャチケットを使用すると一時的にガチャエリアに転移出来るようになるのか。
まったく、最初からそうしとけば俺も歓楽島に行くために金策なんてしなくて済んだのに……あっ。
「しまった! ガチャ引き忘れた!」
アホか俺は! 何当初の目的スコーンと忘れてカジノを楽しんでんだよ!
くそぉ……ガチャはメンテ明けまでお預けかよ。次は絶対に忘れねぇからな!
ガチャを引き忘れた心のダメージを癒すため、船酔いでへばってる2羽と一緒にベッドでゴロゴロしている内に王都へ到着した。
(陸地って素晴らしい。我はもう二度と船には乗らないとここに誓うぞ……)
(あっしもできればもう乗りたくねーっすわ……)
「お前らはダンジョンに封印……じゃなくてボスを任せる予定だからもう船に乗ることはないと思うぞ」
(その言葉本当だな? 我の信頼を裏切ることは許さんからな!)
(ま、あっしはルクスと違って旦那がどうしてもってんなら乗らなくもないですがねぇ)
(くっ卑怯だぞノクティス! 主よ、我だって頼まれれば乗ってやらんでもないんだからな!)
だから立体音響でケンカするのやめてくれよ……耳がおかしくなりそうだ。
「それじゃ帰るとするかねぇ」
「おっとフォル婆、俺ちょっと王都に用があるから一人で帰ってくれ」
「ならその両肩に乗せてるのを貸しとくれ。アタシみたいな老人の一人旅は危険だからね」
「別にいいけど、どのみちアドベントからファースまでの間に出てくるモンスターなんてフォル婆一人でどうとでもなるだろ?」
「ユニークモンスターやネームドモンスターが出ないとも限らないからね。用心に越したことはないのさ」
確かに。
この間の屋台の影響でファースまでに出現するモンスターはかなり倒されているだろうし、ユニークとまではいかなくともネームドモンスターくらいなら発生していておかしくはない。
「わかったよ。んじゃお前ら、フォル婆と一緒に先にファースに帰ってくれ」
(了解でサァ)
(ふん、いいだろう)
「それじゃアタシに着いといで」
ノクティスとルクス、フォル婆が転移門へと向かったのを見送った俺はとりあえず城を目指すことにした。
「すいませーん、中に入れてくださーい」
「なんだ貴様。城に何かようか?」
「修繕費を納めに来ました」
「修繕費? ……はっ! さては貴様、一時期ソフィア様が気にかけていたライリーフとか言う奴だな! ここで会ったが百年目、いざ尋常に死合えぃ!」
「なんとぉ!?」
「ちっ、外したか」
危ねぇ、いきなり斬りかかってくるとかふざけんなよ!
「ソフィア様ファンクラブ会員、その3桁ナンバーの私の攻撃を避けるとは中々やるじゃないか」
「それ絶対攻撃に関係ないだろ」
「バカめ! ソフィア様のファンたるもの、ソフィア様に着いて行くために日々の鍛練を欠かしはしない。そして番号が若いほどファン歴も長い。3桁ナンバーともなればそのファン歴は10年を越えるのだ! 即ち、私の剣技は音すら切り裂く!」
「最後だけ飛躍しすぎだろ!?」
正直意味が分からないが、彼の剣筋はかなり鋭い。少しでも気を抜けば両断されかねない剣気を放っている。だが――
「ひぃ!?」
「逃がさん!」
「くっ、天翔天駆!」
「何!?」
この騎士は致命的なミスをおかした。それは逃げる俺を追いかけたことにこそある!
「空を飛ぶとは卑怯な! 降りてきて正々堂々戦えぃ!」
「残念だがその必要はない! 何故なら俺の勝利はこの時点で確定したからだ! これはお前に大きなダメージを与える。謝るなら止めてやってもいいんだぜ?」
「ふっ、下手なハッタリだな。私の攻撃を避ける事しか出来なかった貴様がどうやって私に勝つと言うのだ」
「……忠告はしたからな? すぅ……」
「はっはっは! 竜のブレスでも真似るつもりか? 私を笑わせて隙を作る作戦であるなら成功だなぁ!」
「ここにー! 堂々と門番をサボっている騎士がいるぞーッ!!!」
「なっ!?」
ドドドドドドドドド
「何をしているか愚か者ォ!」
「アヒュン!?」
俺の渾身の告発によって現れたのは顔に大きな古傷のある古強者然とした爺さんだった。
騎士はアッパーを食らってキリモミしながら宙へと打ち上げられ、落ちて来た所で哀れにも頭をガッシリキャッチされている。
「貴様ァ、城の門を守るべき門番が何故こんな所をほっつき歩いとる? 言い訳があるなら言うてみろ」
「ら、ライリーフです……ライリーフを追ってここまで来たのです……」
「それがどうした? 仕事をほっぽり出す理由にはならねぇだろうがよ」
「そ、そんな……会員番号一桁の貴方が奴を見逃すと言うのですか!」
うそん、あの爺さんもソフィアのファンなのかよ。しかも会員番号一桁? 下手したら騎士への援軍になってた可能性があるとか笑えないんですけど。
「ふん、俺ァ公私はきっちり分ける質なんだ。それに奴ァ、城へ金ェ払いに来たんだろうが。それをわざわざ追い払うってことはソフィアの嬢ちゃんと接触する機会が増えちまうてェことだろう。嬢ちゃんが城にいねェ今の内に要件済ませる方が賢いやり方ってもんだぜェ?」
「さ、流石ですボーガン様! 目先の感情に左右されず、そこまで考えていらっしゃるとは!」
「よせやい、耄碌してもこれくらい考えられて当然なんだからよォ。ま、それはそれとして貰うもん貰ったらきっちり闇討ちはするがなァ」
「その時は是非ご一緒させて下さい!」
この国にはソフィアしかまともな騎士がいないのかもしれない。俺はどうしてもそう思わずにはいられなかった。
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