オーナーの正体
迂闊!
ユベルゲットに集中したいのにZEROイベがまだストーリー分しか終わっていないとは……。
わざと負ける、そのつもりだったのだが気がつくとあがってしまっていた。
それだけじゃない。最初の九蓮宝燈でおっさん3人のやる気に火がついてしまったようで、チップが持つ限り戦わされた。もちろんこの場合のチップと言うのはおっさん達のチップだ。
家は正月になるとじいちゃんの家でお年玉争奪麻雀大会が行われるのだが、その時にこの引きの強さを発揮できたならと思わずにはいられない結果だったよ。
四暗刻に緑一色、字一色や大三元。本当、役満のバーゲンセールだったぜ……。
「ぐふっ、まさか俺達以上の雀力を持ったバケモノがいるだなんて……!」
「ハァ……ハァ……ちっ、もう立ってるのがやっとだぜ」
「へへ、指が震えてもう牌が持てねぇや……」
何故か俺があがる度にダメージを受けるおっさん達、きっと彼等は別の世界の住人なんだろう。
死闘でも繰り広げて来たんじゃないかと疑う程にボロボロなおっさん達は自力で歩くことが出来ずに黒服に担架で地下へと運ばれて行った。
「怪我人でも容赦なく地下送りなのか……羨ましい」
「あの、お客様」
「はい? あ、オーナーさんじゃないですか」
「先日はどうも……貴方に少し相談事がございますので、ついて来て頂けますか?」
「いいですけど、ここじゃ駄目なんですか?」
「ええ、あまり人に聞かれていい話でもありませんので」
人に聞かれては困る、いったい何を頼まれるのだろうか。
「単刀直入に申し上げます、どうか暫くの間当カジノの御利用を控えて頂きたい」
「えー」
豪華な応接室に通されてどんな話が持ち掛けられるのかと思えば……ただの出禁通告じゃねーか!
「気持ちは分かります。何故普通に遊んでいただけなのに出入りを制限されなければならないのか、そう思われていることでしょう」
「まぁ、はい」
「実はこのカジノ、上から運営資金のマイナス分が補填されるのですが……補填の金額が大きくなると世界のバランスが崩れてしまうのです」
「えぇ……いくらなんでもそりゃないっしよ」
「……まぁ流石に大袈裟に言い過ぎましたが、多少なりともバランスが崩れるのは確かなのです。なので2日続けて大金を手にした貴方には暫くカジノの利用を控えて頂きたいのです。景品と交換するならいざ知らず、そんなにお金を持っていても使い道ないでしょう?」
「んー、確かにそうなんだけどさ。正直俺の目当ては地下なんだよね」
「地下? まさか自分から闘技場の見世物になりたいとでも?」
「結果的にはそうなるかな。てかさ、もう地下に入り浸ってる連中だっているんだぜ?」
「……そのお話、詳しく聞かせて頂きたい」
とりあえず周回勢の話と何を目的に周回しているのかを教えてあげた。
「なんと……ここの所妙に地下へ落ちるお客様の数が多いと思ったらそんな理由でしたか。しかし困りましたね、違反行為をしている訳ではないので止めることは出来ない……かと言ってこのまま放置するのも不味い」
「いっそ地下闘技場の挑戦権でも売ったらどうです? 結構売れると思いますよ」
この話が通れば俺は金に物を言わせて楽々周回出来るって寸法よ!
「む、ですが闘技場なら既に王国に……いえ、あそこは対人戦のみでしたか。となるとモンスターとの戦闘がメインのこちらとの棲み分けも可能。ふむ、いけそうですね。しかし残念ながら私にはルールを変更する権限がありませんので、一度上に話を通すとしましょう」
「さっきも言ってたけど、オーナーさんより上って?」
「それは運営に決まってるじゃないですか」
「うん? オーナーさんがカジノ運営してるんじゃないのか?」
「あぁ失礼、そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。それでは勘違いするのも当然と言うものです。私の名前はNavi-07、通称オーナー。運営とはまさにこのゲームの運営のことですよ」
「あぁ、そっちの運営か!」
……もしかしてオーナーさんがカジノのオーナーなのはオーナーって通称だけで決められたのだろうか?
「その通りですよ。はぁ……本当に、我らが創造主達は適当で困ります」
「さらっと思考読むのやめようぜ」
「そんな事していません。貴方の考えていることが面白いくらい顔に出ているだけです」
「嘘だー」
俺はあれだぞ、小学校の頃ポーカーフェイス大会で三回戦まで勝ち残った実力者だぞ? そう簡単に考えを顔面から垂れ流したりするわけないじゃん。
「……」スッ
「ん?」
オーナーさんがおもむろに差し出してきた手鏡の中には、いかにもアホなこと考えてそうな俺の顔が写し出されていた。表情筋ゆるゆるかよ。
そうか……今まで俺の周りにはやたら読心術の使い手が多いと思っていたが、俺の表情が口以上に色々喋っていたからだったのか。
どうりで今日のポーカー、手札がブタだった時に周りが全員勝負を降りた訳だぜ。俺がやっと負けられると嬉しがっていたのを、周りは相当いい手が出来たと勘違いしてたんだな。
ポーカーフェイスを鍛えなければ……。
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