王都までの最短ルート
翌日、昼過ぎにログインするとフォル婆が準備万端で待ち構えていた。
「遅いよライ坊。危うく置いていく所だったよ」
「俺が金持ってるのに先に行ってどうすんだよ」
「だから待ってたんじゃないかい」
「さいですか……」
手元に金があったら置いていったと言ってるようなものだよな? ひどい婆さんだぜ。
「あ、ライリーフ君! 今出発ですか?」
「おう。ソフィアにもお土産買ってきてやるからな」
「ありがとう……えへへなんか嬉しいな」
「うん?」
友人から旅先での土産を貰うくらいよくあることなんじゃないのか? 地域限定味のお菓子とか謎の生物のキーホルダーとか大抵微妙なやつだし喜ぶようなことじゃないと思うんだけど……ってこれはリアルの話だったなこの世界では特別なことなのかもしれない。
「私は幼い頃から騎士として育ったので、こんな風に同年代の友人と普通に話したりすることも少なかったんです」
「あ、そう言うことね」
つまり昨日フォル婆とのバカンス回避のために勢いでデートに誘ってしまった時、割りと好感触っぽかったのは友達に遊びに行こうぜ!と誘われて嬉しかっただけだったのか。
「ニャー」
「ふふ、セレネちゃんもいってらっしゃい」
「ニャ?」
「あ、セレネは行かないってさ。縄張りを長期間空けたくないらしい」
「……つまり休暇中はセレネちゃんと遊び放題!?」
「ニャー!」
「あぁ! 待ってくださいセレネちゃん! 逃げないでー!」
もふリスト仲間として後でアイシャさんでも紹介してあげようかな……。
ソフィアを含む歓楽島行きを逃したメンバーに見送られ、俺とフォル婆はひとまずアドベントへと向かった。
王都に行くには転移門を使うのが一番楽だからな。本当、ファースの転移門もさっさと修理してほしいもんだぜ。
しかし何か忘れてるような気がするんだけど……思い出せないってことはたぶんたいした事じゃないだろ。
「やれやれ漸くアドベントに着いたね。そうだライ坊、あんた冒険者ランクEのままだけどどうやって王都に行くつもりなんだい?」
「うん? そんなの転移門使って行くに決まってんじゃん」
「許可も出ないのにどうやって転移門使おうってのさ……」
「あっ……」
忘れていたのはこのことだったか! 普通転移門が使えるのはランクCになってからじゃんか。前回ごたごたしたのを忘れるとは……俺の鳥頭!
「ハァ……仕方ないねぇ。ん」
「?」
なんだろ? よく分からないが手を差し出してきたのでとりあえず手を重ねてみる。あ! もしかして転移魔法でも使えるのかな?
「察しの悪い子だね、これはチケット代渡しなって意味だよ」
「酷ぇ! 俺のこと置いていく気だな!」
「人聞きの悪いこと言うんじゃないよ。先にチケットを買っておくだけさね。定期船は2日後に出るから、ついでに先に行って久しぶりに王都でも観光しようってだけさね」
「なんだそう言うことか。確かに王都も面白そうな場所が多かったしな。ほらよ」
80万コルをアイテム化して革袋に入れて渡す。80万コルは金貨8枚になったのであまりかさばらなくて済んだ。
「ふぇっふぇっふぇ、まぁライ坊が間に合わなけりゃ先に行って遊んでるけどねぇ」
「やっぱりか!」
なんとなくそんな気はしていたがフォル婆の場合本気で実行しかねない。
フォル婆に置いていかれるのはまぁいいとして、ゲーム内時間で2日後の定期船を逃せばリアルの明日まで歓楽島行きが遠退いてしまう。それは嫌だから是が非でも今日中に王都にたどり着いてやる!
「それじゃライ坊、先に王都で待ってるよ」
「見てろよフォル婆! 俺は最速で王都に行ってやるからな!」
と言ったもののどうすれば王都までの道のりを俺1人で走破するのは辛い。たぶん頑張ってもリブレスにたどり着けるかどうかって所だろう。
理由は簡単、単純に道中のモンスターに手こずるからだ。
【ウォーキング・デッド】の効果で負けることはほぼ無いにしても、単純に火力が足りない。
今の手持ち武器は木刀だけだ。
仮に無理矢理進むのなら、石のトマホークを補充するしか俺に手は残されていない。けどトマホーク量産に時間が掛かるからなぁ……。
ソロは諦めてMMOらしくノラパーティでも募集するか?
「ヴィルゾーヴみたいにバビューンと飛んで行ければ楽なのに……あ!」
大怪鳥のマントの滑空能力を使えばいいのか!
王都には1度行ってるからマップに場所が載っているし、方角さえ分かっていれば地上のモンスターなんざ無視して進めるぜ!
方法は簡単だ。大怪鳥のマントと転聖龍鎧を装備して天翔天駆でMPが空になるまで空を駆け上り、マントの能力で滑空する。徐々に高度は下がっていくだろうが、鎧のMP回復効果で再び天翔天駆が使えるようになる。そこでまたMPが空になるまで上昇。これを繰り返すだけで空の旅が実現できるのだ!
ふはははは! これなら街道を外れた所にいるレベル高めのモンスターを無視して進めるぜ! やっぱりオープンワールドは自由に移動できてこそだよな!
「早速装備を変えてっと……む、他が初心者装備のままだとさすがにアンバランスでダサいな」
後で他の装備も作り直さなきゃな。
でも今は後回しだ! いざ王都へ向けてI Can Fly!
この軽率な行動が元で掲示板在住の名探偵に今までしでかしてきた色々な事がバレてしまったのはまた別のお話。




