92話 ようやく知ってる人が出てきた気がするよ回
リッチは『次にリッチが出てくることがあれば、私の肉体を調べてもらってほしい』と言い残して死んだ。
基本的に不滅のリッチを殺す方法はない。
リッチの死はすべて自殺だった。
己の魂を体から抜いて、二日ほど放置する。
と、消える。
すでに調べたい肉体を調べ尽くし、その結果が存外つまらなく……
また、戦争という状況がドッペルゲンガーの目論見によって安定してしまったせいで、また覚醒者や強い魔族などが生まれないだろうとリッチなりの理屈で理解したので、この世でやりたいことがなくなってしまった。
だからリッチは死んだ。
その『死』はドッペルゲンガーからも観測できた。
ドッペルゲンガーは魂を見ることはできない。
けれど、創造主の死に様は知っていた。
だから魂が消えたのとほぼ同時だろう、『資料』として遺す予定だったリッチの体が崩れるように消え去ったのを見て、『このリッチも死んだのだ』と結論付けた。
「リッチさまー、どこー」
このころになるとドッペルゲンガーは魔族の実質最高権力者になっており、リッチを招聘して研究室も与えていた。
そこでは『研究室にある物を倒さない』『動きが素早い』『余計なことをしない』『空中浮遊ができるので三次元的な掃除ができる』『なおかつ小さい』というあたりから、ゴーストたちが助手として選ばれていた。
そのゴーストの中で一番リッチに懐いていた者が、リッチが崩れ去ったあたりをウロウロしている。
不死王の軍勢はみなそうだが、彼らは『死』を理解できない。
生物が死ぬことはもちろん知っているのだが、それはあくまでも知識であり、近しい者が死んだりしても、それがわからず、『どこに行ったんだっけ』と探し続けたりする。
死について学習はするのだが、それを記憶しておけない、というのか。
極度に興味・関心が薄く、また、死というのをたちの悪い怪談のように捉えているらしく、これに真面目に取り合うことがないのだ。
だからドッペルゲンガーはゴーストにこう説明した。
「まあ、気が向いたら戻ってくるんじゃない?」
それはドッペルゲンガー視点でも、あながち嘘とは言えないことだった。
なぜなら彼女は転生説を支持している。
そしてリッチになるような魂は、前世でもリッチだったに決まっている。
だってそうだろう、人族だというのに人族らしい姿を消し去る変わり者なのだ。
昼神・夜神の信仰がすでに深く根付いているというのに、昼神の禁じた死者の蘇生に興味を持ち、誰にも支持されず、それどころか後ろ指さされるようなこの研究を、乏しい資料をもとにやってのけてしまう異常者なのだ。
おまけに断片的な資料をもとに実際にリッチになってしまう……
一つしかない命を捨てて、リッチになるという賭けに出て、成し遂げてしまうのだ。
こんな個性、同一の魂に決まっている。
だから、『戻ってくる』のだ。
記憶がなくなろうが、研究テーマが変わろうが、リッチは創造主に違いないのだから。
ゴーストにとって『戻ってくる』という解釈はとてもよくハマったらしい。
研究室の保全に力を尽くし、ずっとこれに従事し続けることになる。
……さて、状況は安定し、終わらない戦争が約束された。
人族の領地においてはもっとも偉大な商会として根を張り、食料を牛耳り、軍需産業まで手中に収めた。
これにより人の兵糧事情も軍備事情もあますところなく情報が集まるようになり、戦況のコントロールは簡単になった。
魔族の軍においては、各種族を治めていた六王に代わるものとして、将軍職を置いた。
そのうち一つである『魔軍』を直属の配下に組み入れ、ドッペルゲンガーは魔王を名乗ることになった。
六王のような力ある魔族が生まれる気配もなく、追い詰められすぎると出てくる『覚醒者』もぱったり見なくなった。
世界はこうして安定したのだった。
……だから、次なる問題が発生したのは、世界の端っこ……
魔王領よりさらに東の人類未踏領域である、『海』の方からの新勢力が、攻め寄せて来たのだった。




