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84話 リッチ、なんかやっちゃいました? え? ほんとになんかやっちゃったのか……回

「これからどうするんだい?」


 というわけで、リッチは暇だったのもあり、ランツァのいる王城へ来た。


 とはいえ歩いてきたわけではない。


 超長距離……というほどの遠さでもないが、『視界におさまっていない対象に憑依する術』を用いて、ランツァの城に配備してある、『近衛兵長ボディ』におさまったのである。


 真っ黒い大柄な鎧騎士姿となったリッチには威圧感があった。

 しかしその動作はどこかかわいらしい。


 かつて、新聖女の中の人をやらされた時から、動作の端々にかわいらしさがにじんでしまうのだ。

 聖女後遺症であった。


 リッチは現在ランツァ、(おさ)エルフとともに謁見の間にいる。


 これはリッチが近衛兵長ボディに入った瞬間に長エルフがすぐさま現れてそのまま引っ立てられたからだ。


 豪奢な紫色の絨毯の上でランツァと向かい合っているのも、ランツァがリッチより少し遅れて慌てたように謁見の間に飛び込んできたからだ。


 こういったことから、リッチは推測する。


「なんか、ランツァも長エルフも、リッチを待ち受けていたかのような様子だけれど、なにか用事があったのかな?」


「用事だらけよ!」


 ランツァは基本的に優雅で穏やかなしゃべりかたをするので、こうして声を荒げながら詰め寄ってくるというのは、なかなか珍しい。


 リッチは金髪碧眼の小さな……とはいえ今はリッチのボディがでかいせいで小さく見えるだけで、十五歳の少女の肉体と考えると、平均的な身長をそう大きく飛び越してもいない人物を、まじまじと見てしまう。


「なんだい、大きな声を出して……リッチはうるさい相手が苦手なんだけれど……」


「……いえ、そうね。ここで怒鳴るのは、筋違いでした。ごめんなさい」


「まあ、いいけれど。それで、どうしたの?」


「リッチ、わたしたちには今、情報が足りないの。リッチがレイラ軍に入ってから今まで起こったことを、かいつまんで話してもらえないかしら?」


 エルフに聞けばいいじゃないか━━と思いかけたが、そういえばレイラ軍にいたエルフは、『殺す』という選択肢を日常会話の中に取り入れてしまった人々により殺されていたな、と思い出した。


 おかげでマンパワーが足りず、棺桶作成や『人体』作成に大変な労力を強いられた。

 しかも日に最低でも五人以上は死ぬため、リッチはここまでのほとんど毎日を棺桶作りと『人体』作りという日用大工(日用品を作る大工作業のこと)に費やす羽目になったのだ。

 エルフを模した軽量ボディは手先が器用だったので助かったが、できれば手伝いがほしかったところではある。

 まあ、木材は簡易拠点作成のためにすでに切り出されていたのを利用したので、素材確保の面で苦労はなかったが……


 というようなことをグダグダランツァに報告すると、ランツァは王杖を取り落として両手で顔を覆った。


 落とした王杖は倒れる前に長エルフにより支えられた。ほぼ同じ顔をしたこの二人、なかなかのコンビネーションである(長エルフは細長い甲胄をまとっていて顔が見えないが)。


 ランツァはたっぷり黙り込んでから、


「……ほ、本当に、『うるさいから全員殺した』の?」


「まあ……いや、それはもちろん、端的に換言すればそうなるというだけの話で、そう単純にまとめていいことではないんだよ。これはね、死霊術というものの定義を守るための戦いであり、思想および直接的な暴力に対する正当な自己防衛であって……はい。うるさいので殺しました」


 リッチは涙ぐみそうな女の子が見上げてくる顔に弱かった。


 泣く幼い動物は行動が読めないため苦手なのだ。


 ランツァは長く長く長く長く息を吐き出してから、


「…………リッチのことを侮っていたわ」


「まあ、人間関係構築能力にかんして言えば、侮られても『正当な評価だなあ』という感じだけれど」


「いえ、侮っていたわ。まさか全員殺すだなんて……」


「君なら理解できると思うけれど、殺してはいないよ。そうだ! 聞いておくれよ。このたびリッチが『なんかいけるかも……いける!』と思って作り上げた、黒い球形の人体はね、これは死霊術の長年の課題であった『魂の保管の難しさ』という課題に対して一つの答えとなりうる画期的な発明で……」


「申し訳ないのだけれど、今、人類(・・)は政治家の方なので……死霊術の話をしている余裕がないのよ」


「……なんだい、なにが起きたんだい?」


「レイラ軍が全滅してレイラが行方不明で、ロザリーと彼女が率いていた死霊術反対派の市民たちが全員死んでしまったの……」


「それは知っているけど……やったのはリッチだし」


「そこから波及するでっかい問題が山積していて、とても大変なの」


「わかった。生き返らせたらいい?」


「たぶん、無理」


「そっか。ならどうしようもないね」


 あきらめの早さはリッチの美点であった。


 というのも、かつてリッチは世界に唯一の死霊術研究家であったため、常にマンパワーの足りない環境下での研究を強いられていた。

 なので『やれそうもないことは、さっさとあきらめて、そのリソースを他に回す』という判断を早くしないと、山積する研究課題が一個も片付かない状況にあったのだ。


 できないことは、できない。


 できないことを、『なんとかしないとなあ。うーん、どうしよう』などと悩んでいる暇があるなら、自分にできることをやるべきなのだ。


 しかし今のリッチは死霊術研究家を本業としつつも、ランツァとは個人的な交友のある身だ。


 そして長くさまざまな人(魔族もふくむ)とかかわって来た結果、コミュニケーション能力が育っている。


 だから、今のリッチは、親しい相手に対して、こんな気遣いができるのだ。


「リッチにやれることはあるかい?」


 これは人類にとっては小さな問いかけだが、リッチにとっては大きなコミュニケーション能力の進歩だった。


 ランツァは今の提案がいかに偉大なる一歩であったかを認識しているのだろう。

 一瞬、大きな目をこぼれそうなほど見開いておどろきを表情に表したが……


「……そうね。リッチの━━というか、みんなの力が必要かも。待って、ちょっと考えるわ」


「考えるのはいいんだけれど、ランツァ、この国には君以外の首脳とかいないのかい? なんで君が全部考えて決断して実行しているんだ。部下とかそういうのは……」


「いないでもないけれど、みんなまだ若いのと、問題が本当に山積していて、現状すでに人類首脳はいっぱいいっぱいなのよ」


 ランツァが再び王位に就くにあたって、どさくさに紛れて昔貴族だった人たちは粛清されている。


 幼い女の子をプロパガンダに使って民から富を吸い上げていた人たちだったので仕方ないね。


 とはいえ全員死んだというわけではなく、何人かは半幽閉みたいな状態で地方に飛ばされて生きている。

 これは反乱勢力を集めるための旗振りであり、ばらばらと小勢力が点在しているより一箇所に集まってくれた方が監視も対処もしやすいからということで生かされているのだった。


 エルフはエルフ間で瞬時に情報を共有するし、変装も得意なので諜報工作に適任だが……

 その数は魔王との約定で五百体までと定められているのだ。王国全土を満遍なく監視させるには、さすがに数が足りない。


 また、ゴタゴタしているあいだに王位に返り咲いたランツァは権力基盤が弱い。


 いちおう堂々と言えないことではあるが魔王が後ろ盾になっているし、表向き最強戦力であるロザリーもランツァに恭順しているように見えるけれど、それはそれとして『なんか今なら玉座いけるんじゃね?』感を人々に与える『脆い王様』である印象も否めないのは事実なのだった。


 つまり現状は『脆い王様』の勢力内で反乱を起こした元勇者パーティーメンバーレイラを叩きつぶすため、同じく勇者パーティーメンバーだったロザリーが出陣し……


 ロザリー率いる勢力は死に、反乱軍は全滅し、レイラはどこかに潜んでいるという状況だ。


 反乱を企てる者にとっては、都合がよすぎてにわかには信じられないぐらいの超ビッグチャンスなのであった。


「……よし。決まったわ」


「決まったのはいいけれど、大丈夫かい? 王様がこんなにフットワーク軽く決断と断行を繰り返すと、なんだか責任を取らされそうな気がするんだけれど」


「国家におけるあらゆることの責任はどうせわたしが取らされるのよ」


「……そういえば偉い人は責任を取るものだったね」


 前の国家の偉い人は責任回避能力が非常に高かったので忘れかけていたが、本来偉い人は責任を取るから偉いのであった。

 回避全振りで偉くなれる国は終わったのだ。


「……最初のプランはねえ、もっとこう……柔らかく、しなやかに行くはずだったのよね……ところがなんか、気付いたらみんな死んでるから……すごく強引に行かざるを得なくなったんだけれど」


「もしかしたらリッチのせいかな? さすがに謝っておこうか。ごめんよ」


「……いいのよ。普通にしてていいって言ったのはわたしなので……でもごめんなさい。さすがに感情的には『なぜ、全員殺すのか?』みたいな気持ちがあるわ。任せた以上はこっちが責任を負うのは理性で理解してても、感情は『さすがにそうはならんでしょ』って感じよ」


「まあ、感情は制御するものであって否定するものではないからね」


「……というわけでリッチ、戦争をしましょう」


「んんん? それは、リッチにめっちゃ怒ってて、ぶん殴らないと気が済まないから?」


「違うわよ。いえまあ、完全に違うとも言い切れないんだけれど」


「言い切れないのか……」


 ここらへんでリッチはようやく『自分はひょっとしたら、本当にありえないぐらいのことをしたのではないか?』という気持ちが湧いてきた。


 ランツァはリッチが今さら自分の行いについて反省すべきだという可能性を認識したのを理解しているように目を細めて、


「……こうなったら、しょうがないから、死霊術師を『新しい貴族』にします。貴族……というか、宗教に、かしら」


「君の政治思想は素養のないリッチにはよくわからないな。具体的にどういうプランなのか指示をおくれよ。さすがに、この段階ならリッチも理解と行動のためにちょっとは頭を使うからさ」


「えーっと、まず、わたしがロザリーを殺した死霊術師に、軍を率いて襲いかかるので、リッチは仲間を集めてそれに対処してほしいの。なるべく、おぞましくて圧倒的な軍を率いてくれると助かるわ」


「『おぞましい』って? 魔王のところから死霊軍でも連れてくればいいのかい?」


「そうね。それはなかなかいい感じよ。超長距離憑依術でどうにか連絡つけられるでしょう?」


「そうだね」


「それで、現行人類軍はリッチに滅ぼされるので、リッチはわたしを殺してから、蘇生させます。みんなの前で」


「ふむ」


「で、わたしをアンデッドにしたことにしてほしいのよ」


「??????????????????」


 リッチはいっぱい首をかしげた。


 アンデッドはアンデッドという生物であり、人が蘇生したってアンデッドにはならない。


 これは死霊術を学んだランツァにとっては既知の情報であり、彼女の知性を思えば、このあたりを失念しているとは思えなかった。


 どちらかといえば、その『勘違い』は、無知な人々が死霊術に対して抱いているイメージだ。


「つまり、リッチ化するってこと?」


 どうにかわからないなりに推理してみるが、


「違うわ。アンデッドにしたことにしてほしい、つまり……」


 しばらく、沈黙があって、


「……人々に『間違った死霊術』を……『おぞましく、触れがたく、学びがたく、恩恵にあずかれるものではない』という死霊術を広めて、真の死霊術は一部の人で独占する。これが、わたしの考える着地点なの」

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― 新着の感想 ―
[一言] >『さすがにそうはならんでしょ』 なっとるやろがい
[良い点] リッチの大いなる1歩 [一言] これ、滅びかける前の世界構造に戻っていっているのでは...
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