79話 言葉というのは本当に不便で無力なツールだよなぁ……回
『ロザリーvsレイラ』
これはようするに━━
『死者蘇生厳禁vs死者蘇生推進』であり。
『旧聖女vs新聖女(の、意志を継いでいると主張する者たち)』であり。
『勇者パーティーで最後に生き残った二人(リッチは死んだことになっている)の格付け』であり。
さらには『現政権vs新政権』という側面さえもある戦いとなっていた。
この戦いにまつわるほとんどすべての問題は『死人は死んだらそのままなのか?』という命題に対する『死者は死者だ』と『愛しい、大事な者が死んだなら生き返らせたい』の二つの思想の戦いなのだった。
『死んだ人が生き返るならこんなに嬉しいことはない』という主張もありはするが、そもそも『いいやつ』だけが死ぬわけでもない。
ここに平等性という概念を持ち出す者は『いいやつを生き返らせるなら、悪いやつにも平等に生き返る権利があるはずだ』と主張する。
これに対して『なら、いいやつだけ生き返らせればいいじゃないか』と反論が来る。
すると『死んだいいやつと死んだ悪いやつは、どういう基準で分けるのか』とさらに反論が来る。
『それはもちろん、悪いこと……犯罪を犯しているかどうかで分けるべきだ』とさらに反論が来る。
そしてここからの流れが死霊術を修めているリッチ的には『君たちなにを言ってるんだ?』という感じなのだが……
死者蘇生反対派は主張する。
『死者蘇生がもしも当たり前になったとして、たとえば法律や倫理観が変わった世の中で、かつて蘇生がだめだった人が蘇生ヨシになったり、逆に蘇生ヨシだった人が蘇生だめになったりしたら、どうするのだ。生き返った人に死ねと言い、死んだ者を遠い未来によみがえらせる気か』
いや……
だから……
せいぜい死後一日以内の者しか復活させられないんだってば。
もちろんこれから先、研究が進めば『過去の魂との対話』が適うようになる日も来るだろう。
そして、はるか過去の者を(肉体さえ用意できれば)という但書つきではるか未来に蘇生できる日も来るかもしれない。
肉体については現在お試し中なので、『誰のものでもない人体』を用意できる日は、まったく来ないとは言えない。
ただ、これについて論じる者たちは、どうにも『将来的に死霊術がその水準に達する』という視点ではなく、『すでに死霊術は際限なくどれほど過去の者であろうがよみがえらせることができる』みたいな語り口なのだった。
無知な者が無知なまま論じているのだ。
こうなってくると知識があるリッチ的にはすでに『妄想』『創作』『与太話』なのだが、どうにも、語っている本人たちは社会派ぶっていて、ここで一気に心が離れてしまう。
しかも、この死者蘇生ダメ派の妄想に、死者蘇生やろうぜ派は大真面目にこんな反論をするのだ。
『そもそも死霊術がおおやけに認められた社会においては、命というものの価値が現代とは大きく変わる。法や風潮で生きていてはいけない命なら殺してしまえばいいし、生きていい命なら生かし、その時に蘇生させればよい。死霊術ならそれが可能だ』
ここまででも『なにを言っているんだ君たちは』という空想のお話なのだが、さらに、死者蘇生やろうぜ派はこう続ける。
『その時代その時代で真に生きるべき者のみが生きることができる社会になる。そうすれば世界はよりよくなるのだ』。
リッチは思い知ることになった。
死者蘇生肯定派の人たちは、決してリッチの味方ではないし、死霊術の味方でもない。
まず根底にどうしようもない不理解があって、そこを学習によって改める気がなく、『よりよい世界』という妄執を語るだけのただの暴徒だ。
というか死霊術を選民思想に利用しないでほしい。
リッチとしては『死霊術で人の生き死にを自由にしようだなんて許せねぇ! 俺と死霊術バトルで勝負だ!(※死霊術でバトルすると生死のシャトルランが発生します)』という感じだけれど……
だが━━ランツァの計画には、リッチがこの連中の味方になるという工程が必要らしい。
「……やだなぁ」
『同じ名前のまったく違うものを取り扱う、理解のない人』ほど嫌悪感を覚える人種もいないなあ、とリッチは思いつつ……
記憶製人体軽量機『エルフ型』に魂をパイルダーオンして、レイラの協力者としてレイラ軍に潜入するのだった。
◆
「あんたが、あたしの仲間を殺しまくった死霊術師ね」
穏便に合流しようと思ったら、あんまりにも話が通じないので派手に大勢殺してしまった。
最近のリッチは『命は貴重にして無二性のあるリソースだ』と毎朝頭の中で三回唱えているのだが、それでも『殺す』という行為に走るまでの迷いが戦争中よりかなり減ってる感じがある。
いやでも今回はノーカンということでいいんじゃないだろうか。
「だってあいつら、昨日まで死霊術になんの興味もなかったくせして、ずっと昔から死霊術やってたみたいな口ぶりだし、しかもやってることめちゃくちゃで少しでも勉強しようという意思も全然ないし。さすがにエルフもムカついたっていうか」
この時のエルフッチは激しい自己嫌悪に苛まれていた。
余人には理解できないが、リッチはこれでも『死霊術で他者を殺す』という行為にかなり厳格に基準を定めている。
少なくとも『ムカついた』という理由で人を殺したりはしない。それは忌避すべきことで、忌避すべきことやってしまった自己嫌悪があったのだ。
そう、リッチには━━倫理観があるのだ。
だが、これまではだいたい社会的強者が社会的弱者にするような嫌がらせしかされたこともなく、『まあ、この社会じゃ相手のが正しいし』と我慢できた。
しかし自分が人生と生命を懸けて後ろ指差されながらも懸命に修めてきた死霊術について、なんにも勉強してない連中が声高にさも自分が正しいかのように語り散らし、しかもその『耳触りがいいだけの的外れな与太話』に多くの愚か者が『そうだそうだ!』と同調している状況は……
なんか……
こう……
人生で初めて、他者に対する殺意がわいた。
レイラの前に引っ立てられたエルフッチはそんなような意味を込めて訴えるのだが……
大将用のでっかい陣幕の中で寝転がりながら話を聞くレイラは、
「話はわからないわ。あたしは長い話が嫌いなの」
「知ってる」
「っていうか今はどういう状況なの? あたしにわかりやすく説明しなさいよ。なんであたしはここにいるの?」
「君はロザリーを殴りたいんだろう?」
「そうよ。でもあいつが出てこないの。困ったわ」
「それは君が軍を率いてるから、あっちも戦争の準備をしてるんだ」
「軍なんか率いてないわ」
「子分がたくさんついてきてるだろう?」
「そうね」
「じゃあ、向こうもたくさん子分を引き連れないといけない」
「…………なるほど!」
レイラの知力が上がったのか、リッチのコミュ力が上がったのか……
おそらく両方だろう。時間の流れがそれぞれを成長させているのだ。
「で、エルフも君の子分になりに来たんだけど、邪魔する人がいるし、気に入らなかったから、ぶっ殺したら、大騒ぎなんだよ」
「そりゃあ大騒ぎになるわよ。ぶっ殺すのはいけないわ」
「でも生きてるよ」
「ぶっ殺したんでしょ? なんで生きてるの?」
「死霊術だからね」
「なるほどね。つまり━━あたしのこともぶっ殺そうっていうのね?」
「…………」
この沈黙でリッチが考えたことは、どうやったらレイラに自分を味方だとわからせることができるか、だった。
というか味方と申告しているのだけれど、どうにもレイラは理解していないので、言葉は無意味だ。
リッチはもっともわかりやすい方法をとることにした。
「よし、エルフは君をぶっ殺して━━君の子分になる」
「いいわ。あたしをぶっ殺せたらあたしの子分になりなさい。あたしにぶん殴られて生きてたらあたしの子分になりなさい」
「じゃあ殺すね!」
「ぶん殴る!」
殺した。
こうしてエルフに扮した(というかエルフ風の人体に憑依している)リッチは、レイラ軍に招き入れられることに成功した。




