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74話 追放とか解散は始まりの時からなんとなく「しそう感」あるよね回

「君が評価されないのは、君を理解するだけの知識を持つ者が誰もいないから━━だけじゃ、ない。君が人に理解させる努力を放棄しているからだ」


 今にして思えばそれは、あつらえたような誘い文句だった。


 勇者と呼ばれた彼はおそらく、こんなふうにして『言葉』を見つけるのがうまかった。


「俺であれば、君を他者に理解させる努力を代わってやれる。どうだ? 俺と一緒に戦場に立とう。そこで活躍すれば、誰も文句は言えなくなる。今、決めてくれ。俺とともに戦場に立つか、このまま引きこもって、隠れながら一生を過ごすか」


 まあ、どちらかと問われればそれは、『引きこもって一生を過ごす』方がいいのだけれど。


 ……死霊術師の研究ははっきり言って手詰まりで、資金も環境も、協力者も足りなかったのだった。


 欲を言えば引きこもっていたいが、欲を言ってもられない状況━━というのが当時の彼の状況で、そこにあまりにもタイミングよく伸ばされた救いの手を取ってしまうのも無理のないことだっただろう。


 だから死霊術師は戦場に立つことにした。


 ……まあ、たぶん、これは『白馬の王子様願望』だ。


 死霊術師は誰よりも自分の研究の価値を信じていたが、その価値を他者にわからせるための努力は面倒でたまらなかった。


 だから、ずっと、心の底で求めていたんだと思う。


『自分の研究の価値を理解し、自分が面倒だと思う必要な努力をすべて肩代わりしてくれる誰か』━━


 信頼できる誰かを。


 信頼したい誰かを求めていたのだと、過去を振り返れば、思うのだった。



「死霊術師?」


 彼がパーティーに入った時にはすでに二人の先達がいて、彼は四人目として迎え入れられた。


『すでに形成されているコミュニティにあとから入る』という状況だと知っていれば彼は勇者からの誘いにうなずかなかっただろう。


『誰かの誘いでなにかを始める』よりも『すでに始まっているなにかにあとから入る』方が心理的なハードルが高いのだ。


 それに死霊術師はコミュニケーション能力が著しく欠如していたし、人間関係と呼ばれるあれこれに絶望し、あきらめていたので、実際に話してある程度信用している勇者以外の二人は、信用できなかったし、警戒した。


 特に神官の女は最初からかなり当たりがきつかった。

 それに顔のいい若い女性(実際は同年代だが、同年代も『若い女性』って感じなのだ)そのものへの苦手意識もあったため、死霊術師は勇者以外のメンバーとまともに会話することは死ぬまでなかった。


「……まあ、今は『聖戦』です。あなたが選んだというならば排除まではしません。けれど同じ戦場でおぞましい(わざ)を使うのを目撃してしまえば、わたくしの肉体がどう反応するかまでは保障できませんよ」


 そういうことで、神官の女とは『同じ集団に所属しているだけの、違う役割の他人』というような関係性になった。


 この時点で死霊術師は『パーティーなんかに所属して戦うなんて、やっぱり向いてなかったんだ』と後悔し始めていた。


 なぜってこの神官女、どう見ても体育会系なのだ。


 体育会系は近場にいるだけで空気を体育会系にしてくる。まさしく死霊術師のもっとも嫌う人種だったし━━彼は『嫌いなもの』とは距離をとってかかわらないようにする自衛手段が身に付いていたからだった。



 四人集うと夜の国みたいな空気が漂う仲の良さが最悪のパーティー内において勇者は緩衝材だった。


 だから勇者が仕事で席を外すとなんとも居心地の悪い空気が流れ、しかも、前線などで戦術説明を受ける時、ちょくちょくそういう状況は発生した。


 勇者に『待っててくれ』と言われたから待っている━━という程度の理由で死霊術師はその最悪の空気の中に身を置き続けた。


 それはどうにも他の二名も同じだったようだ。


 ……もう少し人間関係というものに対して精神的余裕があれば、死霊術師は『勇者以外のパーティーメンバーも、自分と同じようなコミュニケーション能力しかないんだ』ということに気付けたかもしれない。


 たとえばそれは『神官なのに武装神官部隊に所属していない』とか、そういうあたりから推察できたはずの情報だった。


 ともあれ当時は全員に精神的余裕がなく、人間関係をよくしようという努力は誰からも始められなかった。


 そんな最悪の空気の陣幕内で唯一他人に話しかける者が獣人の少女で、そいつはしっぽにくくりつけた鈴をチリンチリン鳴らしながら死霊術師に近寄ってくると、こう言ったのだ。


「ねぇあんた、なにか面白いことしなさいよ」


「うわ……」


 最悪の空気の中で最悪のフリだった。


 思わず声が出てしまったのはしょうがないと思う。


 すると死霊術師の声が不快だとばかりに、獣人の少女は眉根を寄せた。


「なによ『うわ』って。面白くないわ。あたしに理解できないギャグを言わないでよ。あんたを暴力で解決するわよ」


 金髪の獣人女に絡まれて、死霊術師はこいつを殺そうかどうか一瞬検討した。

 なぜって『会話を試みる』『殺す』という選択肢ならば、後者の方が心理的な抵抗が少なかったからであり、死霊術師にできる会話以外のことは殺害だけだったからだ。


 しかし勇者のいないあいだに仮にも仲間という扱いになっている獣人女を殺すわけにもいかない。

 自分には世間体はないが勇者には世間体がある。それに配慮するだけの仲間意識は死霊術師にもあったのだった。


 そして同じような心理は神官にもあったようで、獣人と死霊術師が超悪い空気の渦を発生させているところに彼女は割り込んできた。


「お待ちなさい獣人の戦士よ」


 同じパーティーに所属してしばらく経つころではあったが、勇者以外の三人は互いの名前を覚えていなかった。


 もちろん勇者による紹介がなされたが、それぞれの事情と性質から名前を記憶する労力を割く必要性を見出せなかったのだ。


 だから互いの呼び名は『戦士』とか『神官』とか『死霊術師』とかになり、だんだん『死霊術師』はキャラが弱いので『デブ』とか『おい』とか呼ばれ方が雑になってくる宿命の中にあった。


 ともあれ獣人戦士の名前を未だ覚えていない神官は、ケンカを止めようという意図からか声を発したのであった。


「すぐに暴力で解決しようとするのはよろしくありません。なにごとも話し合いにより解決する道を模索すべきなのです」


「はあ? なに言ってんの? ぶん殴るわよ」


 それは未来の視点から思い返せば『言ってることが難しくて理解できないので、自分にもわかりやすいように短くまとめろ。さもないとぶん殴る』という意味の発言なのだが……


 当時の最悪の空気の中では、『自分の言動に文句をつけるなんて気にいらねぇ。ぶん殴る』という意味にしか聞こえなかった。


 それでも神官は一瞬、ふんばった。


「あなたはもしかして、神を知らないのですか?」


「それが食べ物ならたぶん知ってるわ」


「神は食べられません」


「じゃあ知らないわ」


「……我らが戴く唯一にして至上のお方を知らないと?」


「なに言ってんの? ぶん殴るわよ」


「いいでしょう。筋肉(かみ)を感じなさい。━━信仰を刻め!」


 そうして殴り合いが始まった。


 思い返すとこいつらまったく会話になっていないのだが、なぜか不思議と互いに互いを挑発しているという思い込みだけがあって、獣人戦士と神官はこうやってよく殴り合いになった。


 死霊術師は『こいつらを殺す』か『避難する』か選択を余儀なくされ、いつでも『避難する』方を選んできた。

 当時の彼の肉体は人族の平均より少し下程度の強度しかなかったため、この獣人と神官との殴り合いに巻き込まれると簡単に死んでしまうのだ。


 そういう殴り合いは騒ぎを聞きつけた勇者が現れ、二人のあいだに身を滑り込ませることでようやく終わった。


 勇者も勇者で『多少強い人間』程度の強度しかないので、このケンカへの割り込みはおそらく戦争以上に命を危険にさらす行為だったろう。ようやるわ。


 そうしてケンカを止めた二人は決まって互いを指差して、こう訴えるのだ。


「こいつが神を愚弄したのです!」


「こいつがわけわかんないことばっか言いながら殴りかかって来たんだけど!」


「「こいつ、頭おかしいよ!」」


 そして『どちらが悪いか』を問うために、顛末を最初から目撃していた死霊術師は証言を求められることになるのだが……


 この時点で戦士と神官は死霊術師の中で『こいつら、言葉が通じないな』と判定されていたため、『まっとうな事実』を証言したとして、それをまっとうだと認めない者に逆恨みされる危機感があった。


 その結果、死霊術師は証言を求められてもこうとしか言わなかった。


「……知らないよ。いつの間にか殴り合ってたんだ」


 死霊術師をかばいに行った神官からの心証が下がり……

 なんだかよくわからないが正しいはずの自分に味方しなかった獣人戦士からの心証も悪くなる。


 そうやってパーティーの空気は最悪化の一途をたどっていく。


 それが『勇者パーティー』として人口に膾炙(かいしゃ)する前からの、勇者パーティーのギスギスした関係だった。

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