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捨てられて、リッチ #勇者パーティーを追い出された死霊魔術師はリッチになって魔王軍で大好きな研究ライフを送る  作者: 稲荷竜
第二部 地下から湧いてきたお手伝いロボット「滅亡をお手伝いします」
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63話 君、「独り言が多いね」って言われない?回

 リッチの前にはゴウンゴウンと音を立てて稼働するフレッシュゴーレム製造ラインがあって、塗装および人工皮膚粘着ライン、フレッシュゴーレム組み立てライン、パーツ製造ラインと分かれてひたすら稼働していた。


 王宮のダンスホールほどもある、天井の高い、広い空間には整然とそういった装置が並べられていて、その光景はリッチにとって『壊すのは惜しいな』と思わせるものだった。


 なにせそこには追及された機能美があるのだ。


 効率化をつきつめたものには威容と美しさが宿る。

 リッチは絵画や彫刻などの審美眼を持ち合わせていないが、研究者として、堂々とたたずむ『機能的なもの』に対しては心を動かされる想いがあった。


「ふむ……なんらかのエネルギーがまずドーム状の装置に入れられ、そこからそれぞれ対応した……四肢、胴体などがパーツごとに作成される。それはラインを流れて合流し、組み立てラインで一つの人型になる……最後に皮膚を貼り合わせて完成……完成品がいきなり起動して襲いかかってくるのは、現状『完成品を取りおく』理由がないからかな。なるほど効率的だ」


 出来上がったばかりの元気なフレッシュゴーレムはリッチの霊体の帯によりミンチにされて床に残骸を積み上げるところまでが今はラインと化していた。

 ゆりかごから墓場まで備えた生産ラインは芸術的なおもむきさえあり、せっかくなら残骸をパーツ製造ラインに放り込んで再利用できたら機能的な円環が形成されそうなので、なんとなくやりたいなあとリッチは思った。


 しかし、どうにもフレッシュゴーレムはパーツの再利用というのをせずに生み出されているようだった。


 リッチは霊体の帯で形成したミキサーをフレッシュゴーレム生産ラインの終端に置いて、部屋のもっとも奥……パーツ製造のための装置へと近付いていく。


「最奥で稼働するドーム状の装置は、頭部生産、胴体生産、右腕、左腕、右脚、左脚とそれぞれわかれて、どれも同じエネルギー……黄色く発光する液体を注がれている……いや、これはエネルギーではなく、パーツの原材料か? では装置稼働のためのエネルギーは……ああ、地面につながったパイプから取り込んでいるのか。これは……地熱?」


 装置のまわりをウロウロし、たまに触ったり叩いたりじっくり見たりして検分していく。


 間違いなくフレッシュゴーレムが出てから一番楽しい時間が今なのだった。

 おそらく古代文明を起源に持つ、現代ではまず見ない装置……もちろんリッチの専門は死霊術ではあるのだが、古代文明を学んだ者として、この装置もまた非常に興味をそそられるものであった。


 しばらくリッチはあたりをうろついていたが……


 彼の中である程度の分析が終わったらしい。


「……機構自体は極めて単純なのか」


 一、地熱(?)エネルギーを取り込むパイプを地中深くまで埋める。


 二、そのパイプからエネルギーを取り込んで動く装置を設置する。


 三、装置同士をコンベアーでつなげて生産ラインがよどみなく流れるようにする。


 四、パーツ製造装置に『原材料』を注ぎ込めばあとは稼働する。


「このドーム状の装置も、エネルギーを入れておくためのタンク程度のものでしかない……? どういうことだ? どうやって『整形』『組み立て』を制御している? 容器に入れた『原材料』が勝手にパーツに形成されたり、勝手に組み立てまでしたりだなんて、こんな複雑な機構、なにかしらの制御が……そもそもこの『原材料』を注ぎ込み続けるダクトは地上につながっている……では地上にエネルギーがある? しかしそれはフレッシュゴーレムの残骸ではなく……」


 ぶつぶつつぶやき、


「……ああ、なるほど。この仮説なら不可能ではない……かな。いやしかし、そんな技術がありえていいのか? 確認するか」


 リッチはつぶやきながら霊体の帯を束ね、慎重に天井を掘っていく。


 すると天井に埋まっていたダクトがあらわになった。


 そのダクトは陶器のようなつるりとした質感ではあるのだが、軽く叩いてみるとさほど音は響かない。

 それなりに分厚いか、陶器に見えるだけで違ったものなのだろう。


 その陶器のような素材にはびっしりと文字のようなものが刻まれており、それは鈍く赤い光を明滅させている。


「…………なんてことだ」


 リッチの声は震えていた。


 しかしそれは恐怖ではなかった。


 感動、なのだった。


「あのダクトこそが生産ラインの要だ。……ああ、ああ! なんてことだ! なんてことだ! すごい! こんな技術があっただなんて! あれならダクトの素材自体は陶器だろうが木材だろうが金属だろうがなんだっていい! おそらく生産ラインを形成しているものもそうだろう……特殊な素材がいらず、昼夜を問わずに手間暇さえかければいくらでもこの施設を生み出せる……そしてフレッシュゴーレムはこういう単純作業を休みなく行うことができるじゃないか!」


 珍しく、誰かとこの感動を分かち合いたい衝動にかられた。


 しかし話の合いそうな人は周囲に誰もいなかったし、大陸中を探してもたぶんランツァぐらいしかいない。


力ある文字(・・・・・)━━」


 ……かつて。


 古代文明には数多の、現代からは想像も及ばないほどの優れた技術があった。


 一家に一台というレベルでお手伝いゴーレムは普及していたし、それ以外にも生活を便利にするものが、各家庭にたくさんあった。


 では、どのようにそれらを量産・安価製造していたのか?


 それこそが、『力ある文字』。


 刻むだけで周囲の魔力を取り込んで、刻まれた文字に対応した効果を発揮する特殊な回路(・・)━━


「フレッシュゴーレム自体に刻まれていなかったから与太話かと思っていたけれど、生産ラインの方であらかじめ効果を刻み込んで……なるほどこれなら『増えすぎたゴーレムが大気中の魔力を食い尽くす』という事故を防げるのか……普及率にしては魔力枯渇の記録がなさすぎるからおかしいとは……」


 隣に誰かがいてくれるといい具合のところで『つまり、なんなんですか』というツッコミが入るのだが、一人きりで興味の対象を見つけてしまったリッチを止める者は誰もいなかった。


 リッチはまだあたりをうろついたり、ダクトに刻まれた『力ある文字』をメモしたりしてしばらく時間を過ごし……


「よし。じゃあ、やるか。━━フレッシュゴーレムを駆逐するためのゴーレムを作ろう!」


 なぜか、そうなった。


 横に誰もいないので補足説明をすることもなく、リッチは黙々と作業を開始する。


 作業するリッチは、ここ三年ほどで一番わくわくした様子だった━━

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