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捨てられて、リッチ #勇者パーティーを追い出された死霊魔術師はリッチになって魔王軍で大好きな研究ライフを送る  作者: 稲荷竜
第二部 地下から湧いてきたお手伝いロボット「滅亡をお手伝いします」
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57話 肉体に意思を問え! 回

「うわぁ……」


 人類領、旧王都……


 石造りの低い建物が立ち並ぶ、整然と区画整理がされた都。


 その目抜き通りには大量のフレッシュゴーレムが整然と並び、一糸の乱れもない様子で行進し、王都の外を目指していた。


 肩と肩がぶつかりかねない密度で整列した人間大のゴーレムはどうにも王城から発しているようで、そこから各方面へと派遣されているらしい。


 一列二十人という列が幾重にも幾重にも連なっている様子にはちょっと壮観なものがあり……

 それが関節の継ぎ目もあらわな『人型で人みたいなパーツによって構成されているのに、明らかに人ではないもの』で構成されているとなると、言葉ではとても言い表せない不気味さがあった。


「どうやら本当にここから発生しているようだね」


「聖女様」


 と呼びかけられたのはリッチであり、呼びかけたのは、ハゲ頭以外に特徴を探すのが難しい、神官服の男であった。


 決戦の朝である。


 昼神教マッチョ派は王都西に配置され、もう少ししたらこのまま真っ直ぐ進んで目につくフレッシュゴーレムすべてを殲滅していくという作戦を始める予定だ。


 ここにいるのはロザリー(Inリッチ)以下、フレッシュゴーレムが出て人類がダメになった時に山籠りして筋トレを始めた神官たちと……

 まだ残っていた『旧聖女』ロザリーのファンである、比較的昼神教に傾倒している民および地方神官たちであった。


 総勢五十名にまでふくれあがった団体を振り返るたび、ロザリッチは嫌そうな顔になってしまう。


 そもそも昼神教マッチョ派はリッチにとって仇敵とか天敵に類するものだ。

 なにがどうしてロザリーの体に入ってこの集団を率いる流れになってしまったのか、さっぱりわからない。いや、わかるけど理解したくない。


 そもそもリッチは研究者、学者のつもりでいる。

 一軍を率いるという状況はいかにも自分の仕事ではないように感じられるし、ぶっちゃけ足手纏いが増えてるだけなので、ここで全員殺して置いていくのもいいかなとかいう誘惑が常に頭によぎる有様なのであった。


 ユングはロザリーが自分を振り返った時に嫌そうな顔をしたからか、慎重な様子で重々しく口を開く。


「やつらの拠点は、聖女様が発見なさったという話では?」


 もちろんロザリーではなくリッチが割り出した。

 だが、そのことは明言していない━━明言していないが、たしかに、そういうふうな口ぶりではあったと思う。


 ロザリッチは首を横に振り、


「『発見』はしていない。『割り出した』んだよ。このあたりは言葉のあやというか、自分でも『発見した』と口にしてしまっていたかもしれないのだけれど……この二つは明確に違うことだ」


「どのように?」


「『割り出した』というのは、フレッシュゴーレムが向かってくる方向や、その密度、速度などから、おおよその方向と距離を調べた結果だ。よって、『実際にここにあります』という話ではなく、『この方向でこの距離の場所にある公算が高い』ということであって、いわば仮説だね」


「……えーっと……では、仮説ならば検証が必要なのでは? 拙僧思うに、検証した様子がないように感じられるのですが」


「おお、君はもしかして、頭の中身が筋肉ではないのかな? そうだね。仮説には検証が必要だ。ましてや大軍を動かす大規模軍事計画なら、『外れ』を避けるために斥候を放って位置の確定はしておくべきだろう」


「では、なぜ検証した様子がないのでしょう」


「知らない」


「知らない!?」


「魔王におおよその位置を割り出したことを報告したらこの計画がスタートしたので、まあ、あの魔王がたった一つの情報だけを頼りにこんな大規模計画……お金のかかることはしないだろうという信頼があり、きっとなんらかの他のデータもあったに違いないと思って、今、ロザリーたちはここにいます。そして、魔王が持っているであろう『他のデータ』について、ロザリーは一切聞いてません」


「そ、それは、なぜ?」


「興味がないから」


「フレッシュゴーレムどもの殲滅は聖女様の悲願なのでは!?」


「いや、ダメなら一人でやるし……そもそもね、ロザリーは連携だの軍事計画だのが苦手です。君たち体育会系には共感しがたいだろうけれど、『二人組作って』と言われたらいつまでもあまるタイプなんだよ」


「聖女様も体育会系では!?」


「そうだね」


 ちなみに、気付いた鋭い者も中にはいるかもしれないが……

 ロザリッチはだんだんロザリーに偽装するのが面倒になってきていて、ユングへの応対など、かなり雑だ。


 などと会話をしていると、フレッシュゴーレムどもが王都門から溢れ出しそうになってきていた。


 昨日夜に突貫で王都周辺のフレッシュゴーレムをあらかた殲滅し、門を軽くバリケードでふさいでおいたのだ。

 それが破られた時が戦闘開始ということになっている。


 わかりやすくて非常によい。

 時間を定めて連携するとか言われても、特に王都北に布陣しているアンデッドが対応できないだろう。


「聖女様、拙僧、ご注進申し上げてもよろしいでしょうか」


「手短に」


「今にもフレッシュゴーレムがあふれ出しそうであり、我らの出陣の時が近いものと思われます」


「そうだね」


「これより命懸けの戦に挑む我らの士気高揚のために、なにかお言葉をたまわりたく」


「君がやりなよ」


「非常に光栄ではありますが、こればかりは拙僧には代われませぬ」


「ふむ……」


 ロザリッチは考える。


 というのも、最近ロザリーの肉体で過ごしていて感じたことがあったのだ。


 記憶というのは魂に紐づけられる命の構成要素の一部だが、これは肉体にストックしておくことが可能という性質をもつものでもある。

 つまるところ『記憶』は霊体のような、いわゆる『実体』のないものでありつつ、骨や筋肉のような『肉体の構成要素』の一つである可能性があり……

 それは、中に秘める魂を本人ではないものにしても、行動に影響を及ぼしている可能性があった。


 ようするに━━


 ロザリーの体ぐらい()の強い肉体であれば、行動の主導権を渡してしまえば、生前のように肉体が勝手に振る舞ってくれるのではないか? という仮説だ。


 たとえばこういう時、ロザリーは士気を上げるような、勢いある発言をするのがなかなかうまい。


 これをリッチの人格で再現するのは困難なので、肉体に任せたらいい感じにしてくれるんじゃないかと考えたのだ。


「……しかし『体に任せる』というのは具体的にどういった条件下で可能となるのか思案が足りないな。人にはそもそも反射というものがあるが、それは熱いものに手を触れた時にとっさに引っ込めるというような、単純な動作しかできない。士気高揚のための弁舌というのは少なからず思考を伴う行為であるからして……」


「あ、あのー、聖女様?」


「……『半差し』」


「聖女様?」


「ふむ、そうだね。ユング、ロザリーはこれから演説をしようと思います」


「おお! お願いいたします!」


「失敗したら、いきなり死ぬかもしれません」


「ええ!?」


「なので、ロザリーがもしも死んだら、うまいこと場を収める役目を与えます」


「いやっ!? いやいやいや!? 無理では!?」


 ユングの耳に言葉が届いたのを確認すると、ロザリッチは呼吸を整え、雑音を意識からシャットアウトする。


 思いついたのは魂の『半差し』だ。

 もともと憑依とは『肉体に魂を入れる』行為ではあるが、では、物質的ではないものが物質に『入る』とはいかなる現象なのか?


 入る、と知覚するべきことが起こっているならば、その入り方について、ある程度恣意的にコントロールすることが可能なのではないか?


 思いつきだ。


 まあ、失敗しても魔王領の体に戻るだけなので。


 もちろん初めての試みには予想だにしない現象が起こる可能性が常に伴うのだが、この『魂をちょっとだけ入れる』というのは極めて感覚的なものであり、他者に理解できるよう説明が不可能なので、どのみちリッチが自分で検証するしかないのだ。


 リッチは憑依時の感覚を精緻に思い返しながら、魂をちょっとだけロザリーの肉体から抜いた。


 するとロザリーの体がガクガク震え始め、白目を剥き、口の端からヨダレが垂れる。


(しまったな。半差しの状態で肉体が意図せぬ挙動をする可能性……というか、ロザリーの意思の通りに動くなら、この場にいる蘇生経験者を皆殺しにする可能性があったな)


 うっかりッチである。


(魂が入ってる部分から意思だけを流し込む……ふむ、『意思』というのも、記憶などから分離して考えるべき概念か)


 考えながら調整していき、そして……


 魂の差さりかたが、安定した感じ、になった。


 その時、ロザリー(肉)が震えをピタリと止め、


「━━傾注」


 率いた信者たちに対し、告げる。


 その張りのある静かな声は、リッチの入っている時とはたしかに違った、ロザリー自身の声であるかのように感じられた。


「あなたたちの信仰に問いかけます。あなたたちの信仰(きんにく)は、いったいなんのために苦しめられてきたのか。あなたたちの信仰は、いったいいつまで苦しみだけを負うのか。あなたたちの信仰は、いったいいつになれば、報われるのか」


 リッチが流し込んでるのは『フレッシュゴーレムを倒すのになんかブチあげたい』ぐらいのものなので、この言葉はロザリー(肉)からひり出されていることになるのだが……


(すごいな。これが全部肉体任せなら、あの聖女……まさに脳みそまで筋肉で、すなわち全身が頭脳じゃないか)


 まさかの発言回収である。


(いや、そもそも、脳と死霊術分野における記憶との関係とは……)


「鍛え上げた信仰(きんにく)は、今ここで全力解放するためにあったのです」


 ロザリー(肉)が信者たちに背を向ける。


 そちら側では『とにかく木材積みました』という様子のバリケードがフレッシュゴーレムたちの前進の圧力に耐えかね、いよいよ壊れようとしているところであった。


(そういえばバリケードをどかすなどの挙動はしないんだよな。ただ進んでいくだけで)


 そこまで知性がないはずもないのだが、不思議だ。


「袖をまくり、腕を曲げなさい。上腕二頭筋を力の限りふくらませなさい。その力こぶは、今この時のためにあるのです」


 ロザリーがするのにならって信者たちがそろって力こぶを作るので、集団に異様な一体感が生まれつつあった。


 これ(・・)こそロザリーにできてリッチにできない発想である。

 一体感を生み出すための動作、その呼びかけ。

 おそらく集団を操るには作戦目標の理解などよりよほど大事なのだが、リッチは説明で済ませがちだ。


 そうやって力こぶを作る集団の前で、いよいよバリケードが破られ、フレッシュゴーレムたちがこちらに向けて駆け出してくる。


 ロザリー(肉)はそれを静かにながめていた。


 信者たちも、まったく慌てることなく、不動のまま、ただただ無言で力こぶを作り続けている。


(怖い)


 半分客観的になっているリッチは、この筋肉集団の異様な迫力に圧倒されかけていた。


「さて、それでは、参りましょうか。━━信仰(きんにく)を解放せよ! 全軍突撃!」


 ロザリーが真っ先に走り出すもので、あとに続く集団もまた駆け出した。


 力こぶを作った姿勢のままである。


 その、基本的に戦闘訓練さえしていない民も含むはずの集団は、力こぶのポーズのままフレッシュゴーレムの集団に正面からぶち当たり━━


 これを吹き飛ばして、王都内への侵入を果たした。


(ええ……どうなっているんだ……)


 リッチが困惑していてもロザリー(肉)は進み、それに続いて信者たちも進む。


 こうして王都解放戦が開始された。

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