52話 戦後の立ち位置とかは戦中に準備しておかないといけないだよね回
「せっかくだからロザリーが率いていた昼神教の信者も欲しいわね」
楽屋の陣幕に戻ったロザリッチ&ランツァ&新生聖女は今後の展望についての話をする流れの中にいた。
でも新生聖女はものすごく帰りたそうだったし、ロザリッチも早いところ帰りたかった。
というか幼女にインして人々を蘇生したりフレッシュゴーレムを殲滅したりしていたら、なんだか聖女になってしまったあたりから予定外なのだ。
それが偶像みたいなことをさせられたり、突然ロザリーが会場に乱入したり、対バンやったり、果てはロザリーの肉体と魂を手に入れたりというのは、かなりこう、疲れた。
しかも今は空気椅子に座っているのだから、疲れもする。
ロザリーの肉体はなんていうか我が強くて、無意識の行動がいちいち筋力トレーニングになる。
簡易な折りたたみ式の椅子に腰掛けた新生聖女は目の前の女が当たり前のように空気椅子に座っているのですごく視線の向け方に困っていたし、リッチだってなんで自分が空気椅子に座っているかわからないので困っている。
そんな中で当たり前のように今後の展望について話せるランツァは大物だった。
「昼神教は負けたと内外に示せるようにしないと、死霊術が広まらないわ」
「……その話は、その子の前でしていいものなの?」
いちおうリッチが気をつかうという異常事態が起こったのだが、ランツァは首をかしげて、
「だって、リッチの聞いてた話はその子も全部聞いてるじゃない。いまさらよ」
「……そういえば、表に出てないだけで意識は生きてるんだったね。ランツァ、君の中のロザリーの意識はどうなってる?」
「すごくうるさいわ」
「……君の精神は大丈夫?」
「これでも人類は元女王だから、こういう『内なる声に責められる』みたいなやつには慣れてるんだけど、そうね、たまに休憩が欲しいかしら」
「うーん、やはり敵対的な魂を収めておく器には相性という問題があるのか……人間関係だなあ。困るなあ」
「『私の体で死霊術について語るな』って言ってるわ」
「今の話が死霊術の分野であるとロザリーが理解を? もしかしたら肉体の影響を受けて知力が上がっているのか? だったらリッチが誰なのかもそろそろわかる?」
「黙ったわ」
「……知り合いらしいことは勘付いたけど、誰なのかは浮かばない、ぐらいの感じかな。まあ、もとを考えればかなり賢くなってるだろうか」
そういえばただの幼女だったはずの新生聖女も、かなり振る舞いが大人びている気がする。
魂は肉体に影響され、また、肉体も魂に影響され、さらに一つの肉体に入った魂同士は相互に影響しあう……みたいな作用があるのかもしれない。
日に一度か二度はロザリーの魂をランツァの体から取り除いた方がいいかもしれない。
面倒だし喪失のリスクもあるが、そこは、ランツァの人格とロザリーの魂を天秤にかけつつ調整していくべきだろう。
「それで、せっかくロザリーの体を手に入れたじゃない? ここらで昼神教にとどめを刺しましょう」
「言い方が物騒になっているよ」
「うーん、恨んではいないと思うのだけれど、やっぱり一度宗教裁判で殺されたことが影響しているのかもしれないわ。わたしが冷静でなさそうだったら、リッチの方から指摘してね」
「まあ、気付けばそうするけど。君の機微をリッチが察せられるとは思わないんだよな」
「……ともあれ、魔王様の戦略的に、昼神教は明らかに邪魔よ。壊滅か教義の改修をしないといけないのは確実ね。少なくとも、魔族との共存を許す宗教にならないと人類の滅びの原因になるわ。あ、一人称じゃなくね」
「文脈でわかるよ。あと、君の言うことは今のところ冷静だ。『他の宗教の連中は殴り殺せ。神を信じぬ者も殴り殺せ』はあんまりにも過激だもの。どうにかしないといけないのは、リッチでもわかる」
まあ過剰に過激で実際に殴り殺しに来るのは、昼神教の中でもロザリー一派だけだが……
そもそもなぜ魔族排斥の教義それ自体があるかと言えば、おそらくだが、団結のためだろう。
人はなんだかんだ理由をつけてなにかを自分より下に見たがるという社会生物である。が、同じ人をそうやって下に見ることを肯定すると、止めどころがない。
だから明らかに姿が違う魔族ぐらいは見下してつらくあたっても大丈夫! ぐらいの保障は必要だったと思われる。
それか差別作用が働き、夜神の使徒と呼ばれる魔族が人類に排斥されるのはわかったうえで、昼神教の教義を創り上げた者は、魔族が簡単にやられず、結果として人口がもっとも減らない道をそこに見出したとか……
「……まあ、宗教の成り立ちについては、まだ資料が足りないな。それに、ある分野における合理性は視点を変えれば非合理にもなりうるし、さらに言えば、すべての知的生命が合理性を最優先にするわけでもない。というか、怨恨だの信念だの、余計なものに突き動かされる人の方が多い……」
「なんの話?」
「……いや。やはり『太古の魂との対話』はリッチの研究の終着点になりそうだと思ってね。過去の人の行動を、後世から資料をもとに考えるのは『それしかない』正しいアプローチだけれど、やはり、聞けるなら聞いた方が早いし正確だ」
「まあきっと横道に逸れているんだと思うけれど……一点だけ訂正が必要なようだから、言わせてもらうわ。人の行動原理なんか、本人に聞いたって正確にはわからないわよ。だって自分の行動原理を自覚しながら生きてる人なんか少数派だもの」
「ふむ。……そうなると本人の意見もまた資料の一つ、という程度か。それにしたところでやはりリッチの方針はゆらがないな。……もしかしてリッチは、人と話したいだけなのか?」
「ともかく、次の目的地は現昼神教の総本山ね。たぶん王都の神殿からは撤退してると思うから、どこか人里離れた山の中とかだろうけれど……」
「ロザリーが本部の場所を吐いてくれたら楽なのにね」
「さすがにそれは無理でしょう。……ああ、いえ、無理じゃないわね。記憶をすくいとれば……」
「……これは研究者としての意見だけれど、ロザリーの例の『よくわからない力』はなにが作用して生み出されているのかがわからない。だから彼女の魂は可能な限りいじりたくないんだ。本当は、肉体と魂の分離もしたくなかった」
「……サンプルが一つしかない研究というのは、不便なものね」
「けっこうよくあるんだよ。リッチたちは今、潤沢な命を使って様々な実験を行うことができているんだけれど、リッチが人類の領地にいたころなんかは、ああも大々的に堂々とできなかった。研究環境として使えるものが多い現状は理想的だし、あえて不便にしようとは思わないけれど、『この実験が失敗したら、あとがない』という危機感が薄れるのは、ちょっとどうかなと思っているよ。まあ、老害の意見っぽすぎるので言ったことはないけれど」
「まあでも、命をこねくりまわすことの是非は、そのうち問われると思うわ。すべて落ち着いたころに。……だからわたしたちには、わたしたちの安全性……聖性を保障してくれる聖女が必要なのだけれど」
「……聖女計画はそこまで見てやってたの?」
「だってフレッシュゴーレムが片付いて、人と魔が仲良くなっても、研究は終わらないでしょう? 平和な時代であればあるほど、『死』は重くなるし、反発も出ると思うのよね。貴族化する、っていうのかしら……━━っ、ぐ、うっ!?」
「ランツァ!? どうしたんだい!?」
「わ、わたしの中の、ロザリーが……『難しい話をするな』って、怒っている……!」
「……」
リッチはロザリーの魂を保管する容器を用意しようと心に決めた。
それもできたら三日程度しかもたないやつではなく、通年入れておけるようなやつを……
とにかく次は、昼神教を潰す━━吸収し、傀儡にする、という計画になりそうだ。
ある意味で、リッチが魔族側についた原因とも言える宗教との決戦が、いよいよ迫っていた。
ついでにフレッシュゴーレムたちも駆逐しつつ、魔王軍が大規模作戦行動をとるタイミングも待とう。
……いつになったら研究に戻れますか?




