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2話 古いだけの研究設備はやっぱりやだなあと思っていたら意外と最新技術にあふれていてやったってなる回

 ヒラゴーストたちが掃除している。


 ここはリッチ研究所。


 白を基調にした室内は思ったより綺麗に整頓されており、イメージにあった『古い魔術師の研究所』というよりは『最新のラボ』という印象。

 整然と並んだ机の上には行儀よく器具類が置かれていて、壁際には隙間なく書棚がはめこまれていた。



「資料などは古くなって風化してしまうといけないので、魔素(マナ)化して魔導板(タブレット)にまとめておきました。いちおう、現存する物は書棚に置いてあります。器具類も長い時間が経っているので、リッチ様が実際に使用されていたものは博物館においてあります。同じ用途が可能な器具を、技術が革新されるたび更新して、常にそろえておりました」



 彼はしばらく拳を握りしめたままなにも言えなかった。

 感動に打ち震えているのだ。


 ここには最古最深最奥の知識と、最新最先端の技術がある。


 真っ白で半透明な、子供ほどの大きさをしたヒラゴーストたちが、かわいらしい甲高い声で「おかえりなさーい」「まってましたー」「ぼく、おおきくなったよー」と出迎えてくれる。


 魔族、素晴らしい。

 よって人間はクソ。



「あの、先に魔王様にごあいさつをなさった方がよろしいかとも、思いますが……」



 青白い肌の豊満で透けた彼女が、おずおずと言う。

 六魔将軍はたしか魔族側の幹部で、戦場で出会うとかなり厄介な相手だったが、それが今ではこんなにへりくだってくれる。


 リッチってすごい。

 魔王にも重く扱われることは、なんとなく想像がつくのだが……



「魔王様には、リッチなど復活していないことにしてほしい」



 考えた結果、そういうことにしようと思ったのだ。


 彼は研究をしたい。

 しかし魔と人は戦争中だ。

 そしてリッチは死霊術の始祖であり、おそらく戦力的に期待され、戦いに駆り出されることだろう。


 だが――戦いは、虚しい。

 傷つく。

 後世に残るべきものが、破壊されたりする。

 死が蔓延するだけの愚かしい行為だ。


 その点、研究は素晴らしい。

 誰も傷つかない。

 後世に成果が残る。

 そして死が蔓延する(死霊術の研究なので)。


 どう考えても戦争に精を出すより研究に精を出したほうが後世のためだ。


 あと、魔王と会話して『お前リッチだけどリッチじゃないな!』と看破されるリスクも避けたい。

 彼はリッチだけど別にリッチではないのだ。

 強いて言えばエセリッチだ。



「しかし、リッチ様が蘇ったとなれば、魔王様もさぞかしお喜びになるでしょうに……」

「魔王様を喜ばせたいのは俺も……儂も……私も……リッチも同じだ」



 一人称に迷った末、彼は『リッチ』を一人称に採用した。

 自分を名前で呼ぶとか幼女みたいだ。



「だが、リッチは考えた。リッチの存在は誰にも言わないほうがいい。たとえ魔王様相手であっても」

「なぜです?」

「リッチの存在を人側に報せぬためにも、まずは魔族側で秘密にするのだ。リッチが復活していると知られれば、めんどうなことが起こるかもしれない。……いや、起こるであろう」



 たとえば勇者に『あいつ俺たちと一緒に戦ってた死霊術士じゃね?』とバレるとかありそう。

 それは困る――リッチはもう身も心も魔族なのだ。今さら勇者に仲間面されても、あのリア充嫌いだし、困る。


 でもそのあたり素直に言えないので、



「リッチは研究がなにより大事だと考える。研究の末、今回の戦争を有利に進める発見もあるであろう。その邪魔をされないためにも、リッチの存在はギリギリまで秘しておくのがいいとリッチは思う」

「なるほど。……人類により大きな一撃を与えるためにも、ということですね。さすがですリッチ様」

「うむ。リッチも色々考えているのだ」



 こういう時、彼は口から出任せがスラスラ出るほうだった。

 あんまりにもスラスラ嘘をつくもので、勇者パーティーでは『黙れ』とよく言われた。



「そういうわけで、リッチの存在はお前と、ここにいるヒラゴーストのみの秘密にしよう。リッチはそれがいいと思います」

「私もそれがいいと思います」

「うむ。じゃあリッチはやることがあるんで。研究資料読んだり」

「そういえば復活したばかりですけれど、魔導板の使い方などはわかりますか?」

「魔導板のことはリッチもすでに考えていた。おそらく将来、技術が進めばこのような道具が出現するであろう、と」

「そうなのですか!?」

「うむ。リッチは現代に使われている技術の多くをすでに予想していた。だからいちいち気を遣わなくても大丈夫だ。わからないことがあったら質問します。そういう感じで」

「あ、はい、そういう感じですね」

「あとリッチは復活したばかりで自分のキャラを忘れているから、不自然なところなどあるかもしれないが、笑ってスルーするのだ」

「現在のところ、そう『昔と違うな』と思うところもありませんが」

「マジかよ」

「……なにかおどろかれることが?」

「リッチは昔からこんなに挙動不審だったのか?」

「まあ、わりと……」

「そうか。ならいい。仕事があっただろうに付き合わせてすまなかった。六魔将軍、がんばって」

「はい、誠心誠意、人族を滅ぼすべく活動いたします!」

「うん。応援してる」

「はい!」



 六魔将軍青肌豊満ボディゴースト女性は、研究所のドアを開けずに通過して去って行った。

 彼の周囲には指示を待っているらしいヒラゴーストたちが集まっている。



「リッチは資料を読むから、読み終わるまで普段やってる通りにしていてほしい」



 はーい、と返事をして、ヒラゴーたちが仕事に戻る。

 リッチは背もたれのついたよくリクライニングする椅子の上で、魔導板を手にする。

 そうして、かつて、彼ではないリッチが残した研究資料を読み始めた。

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