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146話 魔族もがんばってるんだよ回

 魔族たちにも実は生活というものがあって、それがいただく王を変えたあとどのように変化したかというと、ぜんぜん、まったく、これっぽっちも、変化はしなかったのだった。


 なにせ連中はほぼ野生の生き物である。


 いろいろと語弊のある言い方にはなってしまうが、魔族というのはいわゆる『文化』を形成していない。

 極度に『個性』を尊重し、『力』を至上とし、頭の悪さに配慮した結果、『じゃあ、なんかあったら命令だけしますので、みなさんそれ以外はどうぞ、ご自由になさってください』というのが文化として定着したのだ。


 なので『力を合わせて文明的なことをする』という、いわゆる『人族基準の文化』を持ち合わせていない。

 そのせいで勇者パーティー時代のリッチなどには『あいつらのところで研究なんかできない。意義がわからないのはもちろん、施設なんかあるわけないし、なんか邪魔されそう。アホの野蛮人だから』と思われていた。

 当時のリッチの『知的とみなさないものに対するさげすみ』はけっこうひどいものではあったが、リッチじゃなくても人族はだいたい魔族のことを『アホの野蛮生物』だと思っていたところがある。


 長いこと話し合いもせずだらだら戦っていた歴史のせいでそう認知されていた、というのもあった。

 なにせ話が通じる相手と、こんな長く長く戦争を続ける理由なんか普通はないと思うからだ。


 そういうわけでドラゴン族は酒と戦いと曲芸をしてるし、アンデッドは徘徊(おさんぽ)をしている。

 巨人はなんかうるさいので元気だと思う。


 ……このように、多くの魔族たちの暮らしぶりは変わらないのだが……


『覚醒者研究』というものが始まって、一部の魔族たちの行動に変化が現れた。


 魔族の中から研究者を募るという新魔王ランツァの革新的試みに、最初は『なんか面白そう』と集まった魔族たちではあったが、次第にその興味は薄れていった。だって難しいから。


 しかし一部の魔族は残って、研究者としてチームのメンバーになったのである。


 そう、これは魔族にとって、とてもとてもとても、とても、とてもとても、意外なことなのだが……


 勉強をすれば


 頭が、よくなる。


 本当に意外だった。

 まさか勉強をすれば頭がよくなるとは、誰も想像していなかったのである。


 魔族たちはアホなので当然想像できなかったが、『魔族たちが勉強で頭がよくなる』というのは、魔族に勉強をやらせたランツァやクリムゾンでさえ、想像の外だったのだ。


『勉強をすると、頭がよくなる』

『生きてない人は、殺せない』ぐらいの大発見だ。


 中でも特に顕著に知能の上昇が見られたのはアンデッド族、その中でもゴーストに分類される連中なのだった。

 もとより『小回りが効き、体が小さく、物にぶつかって倒したりせず、高い場所でも届く』ということでお手伝いとして重宝されていたゴーストではあったが、これが意外な知能の高まりを見せた。


 死霊将軍アリスなどは突然変異種と思われていたが、先の『覚醒者の強さの法則性問題』『ロザリー強すぎナンデ問題』『リッチってなに?』などと同様、『例外』というのは『再現性のない特殊ないち個体』ではなく、『再現が難しく類似するものが偶然には発生しにくい、しかし条件さえ満たせば同じものが発生しうるもの』であったのだった。


 しかしアリス程度の知能ではまだ『研究』までいかない


 アリスは見た目こそめちゃめちゃ頭よさそうだが、中身はほぼゴーストなので、趣味の清掃以外のこととなるとだいたいポンコツだ。

 秘書業などもがんばってこなしていたが、リッチに対して呈していた苦言はたいてい魔王からの伝言をそのまま言っていただけであり……『伝言をそのまま伝えられる』という時点でゴースト的にはかなりの知的エリートではあるが……『自分で考え、テーマを見つけ、そのためになにをすべきかを検討する』というほどには賢くなかった。


 だが、『言われたことができる』というのは──めちゃめちゃすごい。


 世間には、言われたことをそのままできない人があまりにも多い。

 勝手に解釈をくわえてみたり、『こっちのほうが効率的な方法なんですよ』とドヤ顔しながら色んなものを台無しにしたりという、『なぜか自分が世界で一番賢いと思っているアホ』は、あまりにも多い……


 これらはたいてい『驕り』『侮り』『虚栄心』『マウントとりてェ~気持ち』などから生じるもので、純粋な知能で語れば高い水準にあっても、こういったことのせいで、アホみたいなことしかできない人はあまりにも多かった……


 だが、ゴーストは……心が、綺麗だった。


 素直で、遊ぶのが好きで、いたずらが好き。

 知能は人で言う六歳とかその程度ではあるのだけれど、六歳の知能は高い。

 そこに『言われたことを、言われたまま、変な改変などせず、ちゃんとやり通す』というのが加わると、研究チームの貴重な戦力になるのだった。


 問題は『興味があることは一生懸命集中してやり通すが、興味のないことは全然できない』という性質ぐらいなものだが、研究チームに入りたがるゴーストはたいてい研究に興味があるので、ここはさして障害にならない。


 そういうわけで、クリムゾンがリーダーとなった『覚醒者研究室』において、ゴーストたちは非常に貴重な戦力となったわけである。


 すると、どうなるか。


 ゴーストは進化を開始した。


 アリスのように『より、人らしい姿』の獲得をしていくようになったのだ。


 これがゴースト界隈で『イカす』『ヤバい』『シブい』と話題になり、ゴーストたちの中で『頭よくなること』がブームとなった。

 ブームになると『興味を持つゴースト』が増える。

 興味を持つゴーストが増えると、他のアンデッドたちも気になる。

 アンデッド界隈でブームになると、他の魔族にも波及する。


 もちろん全員が全員芽が出るわけではなく、根気強く勉強を続けられるのは、勉強会参加者が百人いれば、せいぜい二人か一人、という程度でしかなかった。

 だが、それでも知能のトップが上がる。


 かくして魔族の知能指数は上昇していくことになったが……


 ここで悲しい現実がアンデッドたちを襲った。

 実は……戦争中なのだ。


 人と魔の戦いは未だ続いており、ゴーストたちも当然ながら戦場にかり出される。

 すると研究を途中でやめて戦場に行かなければならないケースも増え、『やだ』とだだをこねるゴーストが増えてしまった。


 現在の魔王領は首脳陣が全員研究者出身なので『わかる』となり、ゴーストや他の魔族に、初めて『あるもの』が導入された。


 そう、『職業』である。


 これにより『研究者』『軍人』といった程度の区分ができ、その流れはやはり魔族全体に波及した。魔族、新しいものと、変わったものと、楽しそうなものが大好きなので。


 そういうわけで魔族は『戦う者』『研究する者』『どっちつかずな者』にわかれ、それぞれに効率化していった。


 興味深いのは、戦う者であることを選んだ魔族にも、ゴースト族同様の進化が見られたことだろう。

 ゴーストはやはり人らしい姿を獲得し、ゾンビはトゲトゲしくなり、スケルトンは材質がどう見ても金属になっていった。


『時代を降るごとに弱体化し続ける』という見方が支配的だった魔族……ヤガミの種族にも、人族の覚醒者同様、進化の兆しが見られたのである。


 この『進化』の理由については新たに研究チームが発足し、その理由などを調査しているが……


 今のところの仮説は、こうなっている。


『たぶん、褒められると、嬉しさで進化する』


 人も魔族も、褒めて、仕事ぶりを認めて、役割を持てていると示すことが大事なのではないかという研究は、広く注目を集めている……

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― 新着の感想 ―
[一言] 褒められてトゲがニョキニョキと生えてくるスケルトンを想像すると和む
[一言] 褒めることは大事 古事記にも書いてあります
[一言] ほめのびって大事っすねぇ・・・
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