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視線が近い卍



-2xxx年-

【ニッポニアを含む90を超える国、及び地域での争いが耐えない。

近年急激な発達を遂げたテクノロジー、減っていく食料と自然。人々が戦う理由は多くあった。

しかしその要因としてもっとも異質なのは、『ムート』と呼ばれる人々の存在。数百年前に現れた彼らは戦力としてはかなり大きい存在である。詳しいことは公表されてないが、彼らがこの世界的な紛争の連鎖を助長しているのは間違いないのだ。】


そんな事長々とまとめたルーズリーフの山。


妹の葬儀を終え私は彼女の部屋を片付けていた。

妹が死んで数日立つにも関わらず、全く実感がわかない私は1日中無心になって式の運営をした。

親戚には冷たいと思われたかもしれない。


「はぁ…」


大きなため息が妹の残したレポートに吹きかかる。

私と違い内気でスポーツが苦手だった妹。

同級生の誰よりも大人びていて、このような論文を書くのが好きだった。

この冬休み中にレポートを仕上げ、なんだかお偉い大会に提出する予定だったのだ。

それなのに書きかけの下書きだけ残して彼女は逝ってしまった。

私立の中学への推薦。しかも学費免除付き。

未来有望な妹を失った。

下校時に居眠り運転のトラックに轢かれたのだ。

周りには通行人が多くいたにもかかわらず、死んだのは妹と運転手だけ。

運転手の家族の謝罪も正直聞きたくなかった。

妹が死んだのなら理性なんか無くったってよかったのに、葬儀への参列も、謝罪の品も言葉も、全て作り笑顔で受け入れてしまった。


「志穂」

聞き慣れた、安心する声。

振り返ると親友の綾音が部屋の前に立っていた。彼氏とのデートをドタキャンしてまで葬儀を手伝ってくれた。

「綾音…。どうしたの?」

「あの…勝手に上げていいか分からなったんだけど。あんたの客って言うから…」

何を言ってるかよく分からなかったが、綾音が話終わる前に見知らぬスーツ姿の男がひょっこり顔を出した。


年齢は20代後半かそこらだろう。

「寺澤志穂さんですね。」

黒い長髪をうしろに束ね顎髭を生やしたその男は綾音を押し退けて足を進めた。


「入らないで。」


得体の知れない男が妹の部屋に入るのは許せない。

自分はこんなにも静かで厳しい声を出せたのだろうか。

その後手が震えて声が出せなかった。


「妹さんの部屋なの。」

綾音が優しい声で男に話した。

男はばつが悪そうに頭をかくと懐から名刺を出した。


「話があったんだが…。今日はやめておきます。妹さん亡くなったとは知らなったんで。とりあえず名刺だけ。」

名刺を綾音に渡し男はスタスタと去った。



「志穂。」

「あの人、誰。」

親友の声に畳み掛けるように聞いた。

「学校関係者って言ってたよ。えっと…神崎国軍兵養成高等学校」

「神崎…。超エリート兵士養成学校じゃない。」

「うん…。何の用なんだろうね。」

「…。綾音はもう帰りな。遅くなるといけないでしょ。今日はありがと。また学校で。」


綾音から名刺を取ると妹の部屋を出た。

追い出すように彼女を帰すと家がやけに静かになった。






葬儀から何日も経っているのにお腹は空かず、風呂にも入ってない。

私はカーテンを締め切った部屋で泣き喚くこともせず、布団にうずくまってじっとしていた。

ひどい臭いと空気。ただ何もしたくなくて、玄関のチャイムも無視。早く帰ってとばかり頭の中で唱え続けている。


チャイムが鳴り止んだと思うとドアが開く音がした。

妹が帰ってきた。

食事も取らずろくに寝ていない私は確かに正気ではなかった。


ふらつく足を動かし壁にぶつかりながら階段を駆け下りる。


おかえり


あの日言えなかった言葉を。


「……っ!」


妹の名前を叫んだ。口の中は乾いているし、喉がいたい。ちゃんと名前を呼べたのか分からなかった。


「…」

私の視界に入った人物は妹ではなかった。

綾音でも親戚の人でもない。思い出すのにも時間がかかった。


「妹さんじゃないですよ。」


葬儀の日、家に上がり込んだスーツの男だった。

私は膝から崩れ落ち、起き上がれる気がしなかった。

男は靴を脱ぎ勝手に我が家に入った。


入るな、この家に。


強かな声でそう言いたかった。

なのになんの気力もなく全身から力が抜けた。

ご飯食べたい、お風呂に入りたい、着替えたい、陽の光に当たりたい。

一気にそんな欲が押し寄せてきた。


「おーい。大丈夫ですかー?」

私は今ひどい顔をしているだろう。妹が見たら何ていうか。

「はぁ…」

男はため息をつくと私の肩に手を添えた。

「風呂にでも入ってきてください。このままじゃ話もできない。」

私は軽く男を睨んだがこいつの言うことはまともだった。

「リビングで待ってて。お茶でもコーヒーでも好きに飲んでてください。」

男の返事を待たずに私は風呂場に向かった。


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