10月29日
日付が変わったころ、返信が来た。
倉本唯(01:12)「全然大丈夫だよ(笑)」
「なんかあんま喋る機会ないから新鮮だね」
それは俺も同じだ。
もう半年以上同じ時間を過ごしてきたのに、この初対面感は何だろう。
これはやんわりと拒否してるのではないだろうか。
もちろん本音と建て前は使い分けてこの返信をしたのだろう。
いろいろと憶測を巡らせながら、何度も読み返した。
たかがクラスメイトとLINEをするだけなのに、なぜか緊張している俺がいた。
別に待ってたわけでもないし、期待してたわけでもない。
ただ、なんか一歩踏み出せた気がして、舞い上がった。
高橋になぜかこのことを伝えたが、やはりあいつは冷めていた。
「へー。そうか。俺も同じ部活だけどあんまり喋ったことはないんだ。」
はっきり言って、これは俺以外にとってはどうでもいいことなんだと、やっと気づいた。
*
とりあえず、当たり障りのないように返信をする。
田沢順平(01:20)「よかった(笑)」
「ほんとそうだよね。しっかり喋ったことないよね。」
こっちがなんの理由も話題もなく送ってしまったのに、無責任な返信をしてしまった。
だったらなんでそもそもLINEをしたんだ。
今更言ってもしょうがないい。
ただ、後悔の中にも、なぜか面白くなりそうな予兆を感じた。
*
ここで返信は途絶えた。
こんな夜遅くにLINEをしてるのは、まともな高校生ではない。
そういえば明日、弓道部は部活あるって、高橋が言ってたのを思い出した。
俺は今は部活なんかやってないからこんなに不規則な生活になってるけど。
普通は明日、部活あるなら、もう寝てる時間だよね。
そう自分に言い聞かせて、そっとスマホを置いた。
*
翌朝、学校に行く電車の中で、やっぱり気になってLINEを開いたが未読のままだった。
返信を待ってるわけじゃないのに、気にしてしまう。
今日は学校でも倉本とはしゃべらなかった。
正確に言うと、喋る機会すらなかった。
まあ普通だよね。今までと何も変わらない学校生活。
みんな女子とLINEくらいしてるよな。
何期待してんだよ。何意識してんだよ。
おまけに高橋はこのことに一切触れなかった。
責任とれよ、お前が可愛いとかいうから、、。
*
予備校が終わると、もう外の気温は冬のようだった。
飲食店街のネオンだけが寒空の中、寂しそうに輝いていた。
返信は相変わらずない。
大した内容じゃないし、返す必要もないよな。
別にただのクラスメイトだし、関りもあんまりないし。
変なことに惑わされずに、いつも通り過ごそうと思った。
帰りの電車の中も、単語帳でも見ようかな。
そう思った矢先だった。
倉本唯(21:07)「ねーしっかりとはないよね。」
「話変わるけどさ、進路って決まってる?(笑)」
なんでこのタイミングで返信が来るのか。
今までの未読無視は何だったのか。
完全に踊らされてる気がしてならない。
しかもご丁寧に話題まで振ってもらって。
考えすぎだと思う。気楽にいこう。
別に好きな子でもない。
なんか勢いで話しかけただけだから、友達にでもなれればいいや。
田沢順平(21:29)「とりあえず、受験はするつもり。」
「今日も予備校でした(笑)」
いたってシンプルに、普通に返した。
倉本唯(21:31)「お疲れ^^」
「やっぱりみんな受験するんだね。」
今日は早く返ってきた。
なんやろ。自分の心が読まれてる気がする。
とりあえず返信。
田沢順平(21:37)「うん。将来のためにね(笑)」
「倉本さんは進路どうなんですか?」
倉本唯(21:50)「私受験はたぶんしない。」
なんか聞いてはいけないことを聞いた気がした。
初めてのLINEの割には、話題が重すぎる。
高校二年生の冬。
誰しも自分の進路や他人の進路が気になる時期だ。
恋愛漫画とか小説って、受験のこと取り上げないよな。
でも実際の高校生は結構考えてるもんなんだよな。
ときめくような展開がなく、少し残念だ。
田沢順平(21:58)「そうなんだ。」
「じゃあ来年の選択科目どうする?」
うまく話をかわして、気軽に喋れる方向にもっていった。
倉本唯(22:25)「うーん。なにとろう。」
「倫政と日本史かな(笑)」
俺と同じコースじゃん。
こころの中で小さくガッツポーズをした。
これもなんかのご縁だ。
チャンスは大事にしよう。そう誓った。