新東京国際ボート競技場
ふ~ッ、と太田はため息をついた。
「何、ため息ついてるんだ。
幸せが逃げてくぞ」
藤崎がニヤリとした。
名探偵藤崎誠は当然、親友の太田の悩みごとを見抜いていた。
藤崎でなくとも、知っているだろう。
今日のトップニュースになっている。
東京都知事と太田大臣の会談が。
太田は、国土交通大臣とスポーツ大臣を兼務していた。
例の問題である。
市場ではない、あっちの方だ。
東京オリンピック。
予算が3兆円を超える見込みのため、国の支援の要請だった。
当然、太田は拒否した。
「冷たいな~。
せっかくのオリンピックだろう」
藤崎はグラスを取り、太田のグラスに合わせる。
「逆だな。
簡単に東京を支援したら、それこそオリンピックが白ける。
ずさんな東京に血税を注ぐなと。
もう、既に『東京だけオリンピック』って揶揄されている」
太田はバーボンを一口あおる。
「ボート競技場なんて見積もりの4倍だぞ」
藤崎は目を見開いた。
「そいつら、捕まえればいい。
確か、都には条例があったはずだ」
太田は首を傾げる。
しばらくして、大きく頷いく。
「そうか。
ぼったくり防止条例か」
太田は大声で笑った。
真剣な顔に戻る。
「何かいい解決法ないか」
「依頼と取っていいのか?
この名探偵藤崎誠への」
「しょうがない。
今度、頼みを聞いてやる」
藤崎は頷いた。
こいつに貸しを作っておこう、
いつか倍にして返してもら、と心にとめた。
「名探偵にお任せあれ」
藤崎は、右手を胸に宛て、頭を下げた。
2週間後、東京都はボート競技場が発表した。
「ボート競技は、新東京国際ボート競技場で行います」
ボート競技場は予算膨張の象徴となっていた。
会見に詰めかけた記者らは、どよめいた。
「予算は?」
「4、500億円かけて、造るんですか」
怒声が飛ぶ。
「予算は60億円です」
都の広報は答える。
「どうやって」
最前線の記者が詰め寄る。
「場所は宮城県です」
藤崎が太田に提案したのは、ディズニーランド方式だった。
またの名を成田空港方式とも。