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チート無し転生薬売りのまったり異世界紀行  作者: 悠然やすみ
第一話「駆け出し薬売り」
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 翌日の昼間。依頼を地道に積み重ねて貯めた金を持って、俺は薬を調合する器財を調達する為、エセリナから紹介された魔術用品店へと赴いた。彼女曰く、マリフに点在する魔術道具を取り扱う店の中で、そこは最も新米冒険者からの評判が良いのだという。


 エセリナの紹介通り、店の主人は気さくで面倒見の良い性格だった。まだ薬の調合をしたことがない俺に丁寧な器財の解説をしてくれ、手持ちの予算が多くないことを話すと、安値かつ使いやすい商品を幾つか選び、俺に決めさせてくれた。


 調合用の器財を購入し終えると、次はレシピの番だった。こちらは既に目を付けていた場所があったので、俺は街の中でも外れに位置する古書店へと向かった。一度、配達の依頼をこなしている最中に見かけてから、ずっと気になっていたのだ。


 古書店の中は埃っぽく、お世辞にも好感のもてる内装とはいえなかった。客も全くおらず、中にいる人間といえば、カウンターと思しき席に一人座っている白髪の老婆くらいなものである。


――さて、薬のレシピ本は……と。


 本棚と本棚の間を通り、目当ての指南書類が並べられている箇所を探す。程なくして、薬に関する書物が陳列されている場所を発見する。


 これはと思う本があれば実際に手に取って中身にざっと目を通し、駄目であれば元の場所へと戻す。そんな作業を十分ほど続けているうち、ようやくベストと思えるような本を見つけた。だいぶ年月の経過しているらしい書物で、古びたページの所々は虫の食い荒らしたような跡が伺えたものの、その所為か値段は格段に安く、記されているレシピに関しても、初心者ですら分かりやすい内容だった。ちなみに、俺を転生させた神様の計らいで、この世界の言語などの知識は前もって俺の記憶に植え付けられてある。


「おや、アンタ。それに目を付けたのかい」


 書物を持ってカウンターに向かうと、店の主らしい老婆が言った。


「ああ。内容が分かりやすかったし、売値も格安だったからな」


「ひっひっひ。あんたはお目が高いねぇ」


 老婆は目を細めて笑った。


「その書物はとある有名な魔女が記したとされる年代品でね。とても珍しい代物なんだよ」


「そんなに貴重な本を、この値段で売って大丈夫なのか?」


「もう、だいぶ虫が食ってたからね。それに、青臭いガキばかり訪れるような町じゃ、この本の価値を分かるような者なんて皆無ってもんさ。実際、端金ですら売れやしない。あんたが買っていってくれるんなら、あたしにとっても助かるよ」


 そういう話なら、別に気兼ねする必要もない。老婆曰く端金で、俺は希少な古書物を購入した。


 器財とレシピを調達した俺は、宿へ戻った。薬の材料に関してはまず本を読んでみなければ分からないという事もあるし、植物系の調達依頼を行っている最中、余分に草を摘み取った分が部屋に確保してあったので、もしかするとそれらを利用出来るかもしれなかったからだ。


 宿に帰った俺は、早速購入した書物を読み始めた。


「……やはり、随分と分かりやすいな」


 文章が古風で読みづらい所も多々見受けられるものの、内容自体はすんなり頭に入る。これは良い買い物をしたな、と得した気分になった。


 ページをめくっているうち、依頼の片手間に集めていた材料で出来そうな薬が見つかった。その薬は数ある治療薬の中でも効能の低いものだが、その分だけ必要となるスキルレベルや技術値も低い。試しに調合してみるには適当だった。調合を初めて数時間後、


「よし、これをこうして……出来た」


 緑色に変化した液体を、俺はビンの中に注ぎ込み、栓をして眺めた。色合いからして、恐らくは調合成功だろう。確かな事は実際に薬を試してみないと分からないが。


(失敗して爆発、部屋中が黒コゲ、なんて事態にならなくて良かったな……)


 取りあえず、一安心というものである。


 その後、役に立たないと思っていた錆折れナイフを用い、わざと自分に掠り傷を作って薬の効果を確かめたが、ちゃんと効き目は実感出来た。


 薬の調合が成功してからは、生活リズムに多少の変化が起こった。これまでは朝からずっと依頼をこなしていたのだが、そのリズムが『朝に依頼、昼に薬の材料・瓶の調達、夕方に薬品の調合』という具合になったのだ。このサイクルをずっと続ける事によって、依頼による報酬金も貯まり、作製した薬品の数も増えていった。最初のうちは、簡単な薬でも調合に手間が掛かっていたが、試行を重ねるにつれだんだんと要領も分かっていき、費やす時間も減っていった。


 そんな折、ふと自分のステータスの変化が気になり、俺は長く確認していなかったステータス画面を呼び出した。




名前:メラン・ノーセラック

称号:駆け出し薬売り

レベル:5

HP:87(最大87)

MP:12(最大12)

攻撃:10

防御:8

魔力:6

抵抗:16

技術:25(+1)

速度:21

頭部装備:汚れた旅用の帽子

右手装備:先端の折れた錆び付きナイフ

左手装備:無し

胴体装備:擦り切れた旅用の服

脚部装備:穴の空いた旅用の靴

装飾品1:無し

装飾品2:無し

装備スキル(最大装備数4):薬調合LV3・値切りLV1・逃げ足LV1

所持スキル:薬調合LV3・値切りLV1・逃げ足LV1

所持金:1760ゴールド

所持アイテム(最大所持数5):薬調合キット・低級回復薬×4




「……これだけ日数を重ねても、ステータス上は一しか上昇していないのか」


 上を見ると気が遠くなるものだが、あまり気にしないよう務めた。実際に調合の腕は目覚ましい上達を遂げている。ひょっとすると、熟練度のような隠しステータスがあるのかもしれない。


(だが、1760ゴールドも溜まっているなら、そろそろ装備に関しても変更したいところだな……)


 いつまで経っても見窄らしい外見というのも、個人的に気が進まない。無論、冒険者や薬売りとしては、上等な服などよりもっと調達すべき備品はあるのだが、最低限の身なりは整えておいた方がより良い人間関係も構築しやすいだろう。現状、街の人々から受ける視線は、お世辞にも好意的とはいえない。エセリナが案内所に居てどんなに助かった事か。


 というわけで、今日は衣服を調達する事にした。店に赴き、なるべく安価で見栄えの良いものを選択し、代金を払って購入する。


 宿に帰った俺の装備欄は、以下のように変化していた。




頭部装備:旅用の安い帽子

右手装備:先端の折れた錆び付きナイフ

左手装備:無し

胴体装備:旅用の安い服

脚部装備:旅用の丈夫な靴

装飾品1:無し

装飾品2:無し




 帽子と服は値段を重視、ただし靴だけは上等なものを購入した。野外での採集依頼における足腰に掛かる負担を軽減する為だ。また、万が一に魔物と遭遇した際、逃走する際の速度を重視したという理由もある。


 右手装備だけはそのままだが、これは質の良い武器を購入するよりかは、靴に値段を割きたかった為だ。日中よく他の冒険者達が訪れているような、危険の少ない地帯をなるべく選ぶようにして、俺は採集依頼をこなしている。仮に強力な魔物が出現したとしても、彼らに守ってもらえるようにだ。つまり、現時点では優先して魔物から身を守る武器を購入する必要は無いというわけである。


(面倒な奴らに目をつけられた場合は厄介だが……その時は案内所にでも逃げ込むとするさ)

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