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チート無し転生薬売りのまったり異世界紀行  作者: 悠然やすみ
最終話「水の都の踊り子」
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「ま、こんな所で立ち話もなんだ。良かったら、場所を移さないかい?」


 そう告げるファミエラの言葉に同意し、俺達は広場のすぐ近くにあった露店のテーブルに腰掛け、料理を注文した。


「いやぁ、この肉は美味いね。なかなかに上等だよ」


 運ばれてきた骨付きチキンに豪快にかぶりつきながら、ファミエラは満足そうな声を洩らした。


「それにしても、メランが女の子を連れて旅をしているとは思わなかったな」


「あ、私もです」


 ラムール川で取れた魚をふんだんに使用したパスタをフォークに絡めていたミレイヤが、同意の声を上げる。俺もこれまた川の幸満点のピザを口に運びながら、


「そんなに変か?」


「いや、さ。最初に会ったときは、どうも一匹狼みたいな雰囲気を纏っていたからね。あまり、人と慣れ合うことを好まないんじゃないかって思ってた」


「メランさん。今は前に比べて、だいぶ明るくなっているような気がしますよ」


(ああ、言われてみれば、その気はあったかもな)


 いきなり異世界に転生させられ、親族はおろか顔見知りすら全くいない状況に放り込まれた。孤独な人生の再スタートを切った事もあって、この世界に来た頃は自分の身だけを最優先に考えて生活していた気がした。


 それが何時からか、すっかり変わってしまっていた。


(多分、エイリやエシーの影響だろうな……)


 けれど、他人の為に身を費やす人生も、そうそう悪いものじゃない。


 口元が綻びそうになるのを、俺は必死に抑えた。


「ところで、この可愛いお嬢ちゃんとの馴れ初めの話をそろそろ聞かせてくれるかい?」


「ああ……」


 そういえば、エイリについての話題が先ほど中断したままだった。彼女との出会いについて、俺は簡潔に説明する。


「なるほどね……やっぱりアンタ、色々と見所があるヤツだと思ってたよ」


 骨だけになったチキンの残骸を皿の上に置きながら、ファミエラは感嘆のこもった笑みを俺に向けてきた。


「奴隷だったこの子を、わざわざ大金を支払ってまで解放するなんてね……そこら辺にゴロゴロしてる男じゃ出来ない芸当さ、全く」


「本当ですね、私もビックリです」


 彼女の言葉に同意するように、ミレイヤが首を縦に振る。


「しかも、せっかく手に入れたレア武器を手放してまで……とんでもない慈善事業だよ」


「ああ、その件は申し訳ない」


 謝罪の弁を、俺は述べた。彼女達の好意で受け取ったアイテムを簡単に売却してしまったことについて、長らく良心の呵責を覚え続けていたのだ。


「せっかく譲ってもらった武器を売り払ってしまって」


「何言ってんのさ。あれはもうアンタの持ち物だったんだ、売り払われたって全然気にしてないよ。むしろ、自分の勘が当たったことを嬉しく思うね」


「勘?」


「ほら、『アンタならコレを有効に扱える』って、アタシはあの時に言ったろ?」


「ああ……」


 そういえば、そのような事を彼女が言っていたような気がする。


「やっぱり、ファミエラさんは凄いです!」


(ミレイヤも、相変わらずだな……)


 今度は苦笑を洩らしそうになるのを懸命に堪えた。


「そういえば、あんたらはどうしてこのラムールに来たんだ? 野暮用とか言ってたが」


「ああ、実はこの近辺のダンジョンに凄いレアアイテムがあるっていう情報を嗅ぎつけてね。それでやってきたんだけど……」


「どうかしたのか?」


 ファミエラの口調は含むようなものを感じ、俺は言葉の先を促す。


「何のこたないよ。徒労に終わっちゃったのさ」


 そう言って、彼女は盛大な溜息をついた。


「確かに貴重な物品には違いないけど、アタシらにとっては全く価値のない代物でさ」


「何ていうアイテムなんだ」


「『メリアメーデの羽衣』っていう装備品ですよ」


 かつて、メリアメーデという美しい踊り子がいた。彼女は数々の街や村を巡っては優美な踊りを披露し、その見返りとして金銭や物品を観衆から頂いて生計を立てていた。


 そんな魅力ある彼女に恋心を抱いた一人の魔術士の男がいた。その男はたいへんな口下手で、秘めた想いを彼女に言葉として伝えることが出来なかった。


 男は実力の高い魔術士だった。そこで、彼は大金を払って手に入れた羽衣に数々の魔術を施し、彼女に贈った。メリアメーデは男から受け取ったプレゼントを心の底から喜んだものの、彼の気持ちには全く気づかないまま、街を去っていった。


 そういった物語のある装備品なのだと、ミレイヤは俺達に説明した。


「しかし、まぁ。アタシらは別に踊り子でもないからね。見栄えがちょっと良くなったからって、防具としての機能が無いのなら全くの無駄だしさ」


「それで徒労に終わったってわけか」


 確かに冒険を生業とする彼女達にとっては、全く不要な装備品といえるだろう。


「ま、そういう事さ」


「でも、ちょっと不思議です」


 それまで黙っていたエイリが、おずおずと口を開いた。


「ダンジョンの宝箱は、開けないと中身が分からないんですよね。それなのに、どうして中身が分かるんでしょうか」


「あ……」


 無意識的に、虚を突かれた時に出る声を発してしまう。そういえば、その通りだ。彼女の言ったように、ダンジョン内の宝箱は開かないと中の様子を確認出来ない。にも関わらず、ファミエラはその『中身』に関する情報を有している。それはまさしく奇妙なことだった。


「それはね、『ダンジョン調査士』からの情報なんだよ」


 俺達の抱いた疑問は、ファミエラの言葉であっさりと解決される。


「ダンジョン調査士?」


「はい、少し特殊な魔術を使う魔術士達からの情報なんです」


 再びミレイヤが説明するところによると、『ダンジョン調査士』は魔術によってダンジョンの内部構造や宝箱の中身を透視することが可能らしい。彼らはダンジョン内の地図を作ったり、生息しているモンスターや宝箱の情報などを売り、生計を立てているのだそうだ。


「なるほど、それであんたらはダンジョンの情報を入手出来たってわけか」


「ああ、情報量も安くはないから、そう頻繁に利用したりはしないんだけどね。今回は貴重なレアアイテムっていう噂だったから、利用したわけさ」


 ところで、とファミエラはエイリを見ながら、


「最初に会った時から思ってたけど、アンタ、結構可愛い顔してるよ。身だしなみをちょっと整えて髪を捌いたら、見違えるくらい綺麗になるんじゃないかな」


「いえ、そんな……」


 ファミエラの言葉に、エイリは頬を赤らめる。そんな彼女の様子を眺めているうち、


(髪を梳いたら……か)


 俺の心に、一つの名案が浮かんだのだった。

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