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チート無し転生薬売りのまったり異世界紀行  作者: 悠然やすみ
第七話「合成素材集め」
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 翌日の昼間。俺はサンジェの手伝いとして、ルフレイ東の森までやってきていた。


「魔物が出るから物騒な森かと思っていたが、結構静かなんだな」


 周囲を見渡しながら、俺は言った。燦々とした日光の降り注ぎ、遠くから小鳥のさえずりの聞こえてくる森の中の雰囲気は穏やかで、魔物の闊歩する危険な場所のようにはとても思えない。


「そうだね、多分、噂を聞きつけた他の冒険者達も探索してただろうから、それで魔物の数がめっきり減ってるのかも」


「大丈夫なのか? お目当てのサンダーウルフとかいう魔物も、狩られきっているかもしれないぞ」


「ま、平気でしょ。噂が広がったのはほんの数日前の事だし。膨大な数がいる魔物がそう簡単に全滅させられるとも思えないから」


 楽天的な考えだが、言っている事も尤もだ。どれだけ大量の魔物が世界を闊歩し、人々がその駆除に大変な労力を費やしているのかは、俺もこの旅生活で十分に思い知らされていた。


「いつかは絶対にエンカウントするだろうし、それまでは気長に待とうよ」


「そうだな」


 他愛もない会話に興じながら探索を進めていると、俺達の前に黄色い影が飛び出してきた。


「おっと、ようやくお出ましだね」


 急に姿を現した影に対し、サンジェは槍を構える。俺もまた、腰からナイフを抜いて臨戦態勢を取り、相手の風貌を観察した。


「こいつが『サンダーウルフ』なのか?」


「うん、そうだよ」


 パッと見て、外見は普通の狼に似ているが、明らかに異質な点が幾つかある。体色が黄色で、弾けるような音を立てている電撃を身体の周囲に纏っているのだ。一見してすぐに魔物と分かるような、そんな外観だった。


「俺も手伝った方がいいか?」


 俺はサンジェに訊ねた。『双閃』が扱えるようになってからは、俺も少しは自分の戦闘力に自信を持つようになっていた。実際、レベル五の時にかなわなかったゴブリン相手でも、今ではタイマンなら何とか勝利出来るくらいになっている。


「いや、アタシだけでやるよ」


 敵から目を逸らさないまま、彼女は答えた。


「メランは後ろで待機してて。万が一の時になったら助けに入ってもらえると助かる」


「分かった」


 無理に戦闘参加すれば、逆にサンジェの足手まといとなってしまうことも有り得る。前回、強力なボスモンスターを倒すことが出来たのも、全ては強化魔術を掛けてもらっていたからに過ぎないのだ。身の丈を知らなければ、容易に命を落としかねない。俺は彼女の言に素直に従って、後方に下がった。


 一定の距離を保って、睨み合う両者。


 先に動いたのは、雷の魔獣の方だった。


 轟くかのような雄叫びを上げ、サンダーウルフは疾走を始める。


 自分に接近してくる相手に対し、サンジェは槍を横薙ぎに払って迎撃した。


 サンダーウルフは繰り出された武器を回避するように飛び上がり、サンジェの背後に回る。


 その時だ。魔物の纏っていた電気の弾ける音が更に強まったかと思うと、強烈な電撃がサンジェめがけて放出された。


 だが、彼女は重たい装備を身につけていることからは想像出来ないほど軽やかに跳躍し、敵の電撃放射をかわす。


 宙に浮かんだサンジェめがけて、狼は強く地を蹴って飛びかかった。彼女もまた槍を繰り出して敵を迎撃しようとする。


 そして、一人と一匹の影が空中で重なり合った直後。


 一人は姿勢を保ったまま地面に着地し、一匹は死骸と成り果てて地面の上にドサリと投げ出された。


(凄いな……流石は騎士見習いってところか)


 サンジェの戦いぶりを見て、俺は彼女に対する認識を改めざるを得なかった。彼女はただの大飯食らいでは無い。確固たる実力を備えた、れっきとした冒険者なのだと。


「ま、ざっとこんなもんだよ」


 槍に付着した血を周囲の葉で拭いながら、サンジェは口を開いた。


「じゃ、毛皮を早速はぎ取って……メラン、これはよろしくね」


「了解」


 彼女から渡された毛皮を、俺は大事に懐へとしまった。荷物持ちという役割である以上、アイテム欄には十分な空きを作ってある。といっても、薬を入れているバッグを除いた四つなのだが。


 暫く、俺達は森の中でサンダーウルフを狩り続けた。一度は二匹同時に襲いかかられたこともあったのだが、サンジェは見事な槍捌きで劣勢を覆した。


 お互いが毛皮を持てなくなれば、一度宿に引き返し、荷物を置いてから再び出発する。サンジェは倉庫を借りているようなので、物の置き場には困らなかった。


 何度も俺達は森と街とを往復し、サンダーウルフの毛皮集めに勤しんだ。その途中、何度か同じ目的と思しき冒険者ともすれ違った。


「よし、これで取りあえず最後の一枚にしようかな」


 死体から剥ぎ取った毛皮を拾い上げながら、サンジェは言った。


「俺はもう毛皮を持てないからな」


「アタシもだよ……それじゃ、いったん街に引き上げようか」




 ルフレイに戻る頃には、辺りは夕暮れ一色に染まっていた。街は俺達のように探索帰りの冒険者や歩き続けの旅人、彼らを商売相手とする露店の主人達などでひしめき合い、絶えず陽気な音を奏で続けている。


 ずっと留守番を続けていたエイリを迎え、俺達は宿で食事を取ることにした。サンジェも昨日から同じ宿に宿泊している。


「なぁ、サンジェはなんで騎士を目指してるんだ?」


 ナイフとフォークを動かす手を止め、俺はおもむろに問いかけた。


「ああ。アタシは中流貴族の生まれでさ。騎士を目指しているのもその影響なんだよ」


 ジューシーな肉汁の滴る牛肉を口に運びながら、サンジェは応答した。ちなみに、彼女の食事は料金を増やして倍にしてもらっているらしい。


「中流貴族?」


 思いも寄らぬ言葉が彼女の口から飛び出したので、俺は驚きに両目を瞬かせた。


「あんた、貴族なのか?」


「うん、でも敬語とかはいらないよ。砕けてる方がアタシも話しやすいから」


 自分は王国でも中流に属する貴族の生まれで、次女である。自分の家系は数多くの王国騎士を輩出しているので、自分もまたその道に進むよう教育されたのだと、彼女はそのように説明した。


「じゃあ、家の意向で騎士を目指してるってわけだな」


「そーいうこと。まー、家名ってやつも大事だからね」


「貴族の方も、色々と大変なんですね……」


 複雑そうな表情で、エイリが口を開く。


「ははは、まあね。色々としがらみも多いし、変なパーティにも出席しなきゃいけないから。アタシは今の暮らしの方が好きだな」


「冒険者の生活がか?」


「うん。だってさ、自由っていいものじゃん」


 サンジェは再び料理に取り掛かった。


「誰にも縛られることなくさ。青空の下をのんびりと歩いて、気ままに何処へでも行ける。物をどんな食べ方したって怒られないし、いつ寝ても起こされない。こんなに幸せな事はないってもんさ」


「飯を幾ら食べても構わないしな」


「そうそう、それもある」


 そう言って、サンジェはにっかりと笑った。


「ところでさ、アタシからも聞いていい? お二人が旅してる理由」


(旅の理由か……)


 彼女の言葉に、俺とエイリは一瞬、顔を見合わせた。


「……俺は、サンジェと大体一緒かな。自由気ままな生活がしたくて、この広大な世界を隅から隅まで見て回りたくて、この道を選んだ」


 少し悩んだ末、俺はこう答えた。本当は突然に転生というイベントを受け、世界に居場所も無かったという事情もあるのだが、それをこの場で話すわけにもいかない。


「ふんふん、なるほどなるほど。それじゃ、エイリちゃんの方はどうなの?」


「私ですか。私は」


 エイリは暫く考え込んだ後、


「私は……御主人様に助けて頂いたからです」


「助けて頂いた? どういう事?」


「はい、実は……」


 旅に同行するようになった詳しい事情をエイリが説明すると、


「へぇ、メランもなかなかやるんだね」


 サンジェは感嘆のこもった笑みを浮かべ、俺を見つめてきた。


「そんな熱い男だとは思わなかったよ。へぇ~」


「俺は正しいと思った事をしたまでさ」


「その正しい事を正しいと思って実行するのがさ、この世の中、結構難しい事なのさ。うんうん」


 彼女は腕を組み、独りでに頷いて、


「それで、エイリちゃんは自分を助けてくれた王子様に付き従って旅をしてるってわけだね」


「いえ、そんな。王子様だなんて……」


 サンジェの言葉に、エイリは顔を仄かに赤らめた。

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