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チート無し転生薬売りのまったり異世界紀行  作者: 悠然やすみ
第六話「冒険者パーティ」
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 グラミナに到着して、三日目。この日は早起きに成功し、俺達は朝から冒険者案内所へ赴いた。久しぶりに活気溢れる施設の姿を目の当たりにして、俺は何となくホッとしたような気持ちを抱いた。


 受付嬢の元へと歩み寄り、依頼についての情報を教えてもらう。


「どうですか? 良さそうな依頼はありますか?」


 横から、エシーが口を挟んできた。


「うーん……ちょっと、俺達が引き受けられそうな依頼は見当たらないな」


 間が悪かったのか、調達や配達の類は一件も無い。護衛や討伐といった、実力のある冒険者の引き受けるような依頼は沢山載っているのだが。


「じゃあ、どうしましょうか」


 受付から離れた後、エイリが訊ねてくる。


「取りあえず、夜に薬の店を開いて……明日は早めにこの街を去るのが妥当かもしれないな」


 流石に、このような猛暑の街に長く滞在するのは得策でない。材料の調達や依頼が枯渇している状況となれば、尚更だ。そう考えを巡らせていると、


「すみません、ちょっといいですか」


 不意に声を掛けられた。振り向くと、俺達の後ろに一人の女性が立っていた。旅の僧侶だろうか。身長は俺と同じくらい、白い僧服に身を包んでいて、手には自身の身の丈ほどもある木製の大杖を握っている。藍色の長髪は彼女の気品ある美しさを象徴しているかのようだ。


「どうかなさいましたか?」


「ええ、話を盗み聞きするつもりは無かったのですが……少し、耳に入ってきてしまいまして。皆さんが、金稼ぎに困ってらっしゃると」


「はい、そうですが」


「なら、私とパーティを組んで頂けないでしょうか?」


「パーティを?」


 突然の申し出に、俺は当惑する。


「詳しい話は向こうの方でしましょう」


 こちらの動揺が伝わったのだろう、彼女は冒険者の憩いの場である休養スペースを示した。


 空いているテーブルに向かい合って座った後、彼女は再び語り始める。


「私は法術士なのですが、暫く前衛役を務めてくれていた相手と、この街でパーティを解消しまして。現在はソロで活動しています」


「となると、貴女も冒険者?」


「ええ、そうなりますね」


「でも、法術士の冒険者って何だか不思議な感じがします」


 エシーが率直な感想を口にすると、


「修行の一環なんですよ」


 そう言って、彼女は朗らかに微笑んだ。


「そして、これからが本題なんですが……このグラミナの近くに、いくつかダンジョンがあります。私はそのダンジョンを攻略しようと考えているんですが……如何せん、法術士一人ではどうも挑戦し難く」


「それで、俺達に声を掛けてきたってわけですか」


「その通りです。どうでしょう、一回きりでもいいので、一時的にパーティを組んで頂けないでしょうか」


 ダンジョンでの戦利品は一人一人均等に山分けにする、仮にそちらが三人のパーティメンバーを出すならば、収穫は四等分だ。彼女はそのように説明した。


「どうでしょう、そちらは金に困っている御様子ですし、悪い話ではないと思いますが。私も、前衛の方に加わって頂けると非常に助かりますし」


(なるほど……この人は後衛タイプの冒険者だから、前衛役の冒険者がいないとダンジョン攻略が困難になるのか)


 法術というものがどういうものかは分からないが、恐らくは魔術のように後方で詠唱のような準備を必要とする筈だ。前で敵の攻撃を引きつける役割を担う者がいなければ、文字通り動かない的となってしまうのだろう。


 実際、条件は悪くない。俺達の側からは俺とエシーの二人がダンジョン探索に行くだろうし、そうなれば戦利品の三分の二を俺達が得ることになる。


「メランさん、どうしますかっ?」


「うーん、お前はどう思う?」


「あたしは……身を鍛えるチャンスなので、引き受けたいかなって」


「エイリは?」


「私は……御主人様とエシーさんの意見に従います」


 二人がこのように言っているのだ。俺としても、断る理由は無い。


「……分かりました、あまりこの街に長居するつもりは無いんだが、一回だけパーティを組みましょう。えっと」


「リミスです。リミス・アートレイド」


「メランです。メラン・ノーセラック」


 名乗りながらも手を差し出してきた彼女と、俺は握手を交わした。


「無理な堅苦しい言葉遣いは不要ですよ。年もそう変わらないでしょうし」


「そうですか、じゃ御言葉に甘えて」


「リミスさん、赴くダンジョンの目星は付いているんですかっ?」


「ええ、幾つか……失礼かもしれませんが、お二人は冒険者としてどれくらいの力をお持ちですか?」


「まだ駆け出しなんだ」


 若干の気恥ずかしさを感じつつ、俺は答える。


「そうですか……なら、一番レベルの低いダンジョンへ行きましょう。いつ、出発します?」


「そうだな……さっきも言ったと思うが、俺達はあまりこの地に長居するつもりが無い。なるべく、早く始めたいと思うんだが」


「なら、今から出掛けるというのはどうでしょうか」


 ちょうど、この日は全く予定が入っていなかった。俺達は彼女の提案を承諾した、また留守番役を引き受けてもらうエイリに荷物を預け、俺達はグラミナを出てダンジョンへと向かった。


「でも、大丈夫でしょうか」


 足場の難しい岩場に苦戦しつつ、エシーが言葉を洩らす。


「何がだ」


「火力面ですよ。法術士は回復力に優れる代わりに攻撃力が低いって聞いたことがあります。あたし達も、そんなにパワーがあるわけでもありませんし……」


「ああ、その点は大丈夫ですよ」


 平然とした様子で赤い岩盤を踏み締めながら、リミスが口を開いた。ここら辺は、流石旅慣れているといったところだろう。


「私は法術士ですが、一応はエンチャント・マジックが扱えますので」


「エンチャント・マジック?」


 聞き慣れない言葉を耳にし、思わずオウム返しに訊ねていた。


「強化魔術のことですよ」


 彼女の説明によると、『エンチャント・マジック』とは生き物や武器等のステータスを強化する為の魔術らしい。これは法術ではなく魔術関連の技らしいのだが、彼女は独学で技術を習得したのだそうだ。


「ですから、お二人の身体能力や武器を強化すれば、攻撃面は恐らく心配ないと思いますよ。回復面は私がサポートしますし……あ、見えてきましたね」


 話をしているうちに、ダンジョンに到着した。そのダンジョンの外観は砦のような構造をしていて、何の予備知識もなく建造物を見れば、これが自然に生成された場所であるとは気がつかなかったかもしれない。


 ダンジョンに入った瞬間、魔物と遭遇した。エシーが悲痛な悲鳴を上げる。


「ひえ、ゴブリンですっ! しかもニ体いますっ!」


「そんなに怯えなくても大丈夫ですよ」


 リミスは彼女を安心させるように微笑んだ後、


「では、お二人とも。エンチャント・マジックを掛けますね。援護、よろしくお願いします」


 と、詠唱を始める。瞬時、彼女の足下に光輝く魔法陣が展開された。ゴブリン達はというと、砦に入ってきた侵入者の存在に気がつき、棍棒を振り上げこちらにて向かってきていた。俺とエシーは彼らの注意を引き付け、詠唱の時間を稼ぐ。


「準備出来ました、いきますよ!」


 リミスが叫び、両手に握りしめる杖を掲げ、魔法陣がひときわ強い輝きを放った瞬間、


(なんだ……?)


 妙な感覚が、俺の身体を襲った。異質な物質が血のように全身を巡り、それらは湧き出るような力を俺にもたらす。今なら、いつもより力強くナイフを振るえる。何故か、そんな感じがした。横を見ると、エシーもまた、俺と同じような感覚に包まれているような様子だった。

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