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チート無し転生薬売りのまったり異世界紀行  作者: 悠然やすみ
第四話「新米冒険者の娘」
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 再び、俺達は探索を再開する。幾つもの通路を通り、小部屋を横切り、遭遇した魔物と戦闘する。レベル一のダンジョンであるせいか、スライム以外の魔物は全く出現せず、俺達は容易に洞窟内を歩き続けることが出来た。


 そうやってダンジョン内を歩き続けているうち、宝箱を発見した。中に入っていたのは何処にでも生えているような特別珍しくもない薬草で、冒険者の観点から見るとハズレと言わざるを得なかったが、それでもエシーにとっては堪らなく嬉しい出来事だったらしい。


「記念だ。君が取っておくといい」


「は、はいっ」


 俺が差し出した一束の薬草を、彼女は大切そうに懐へとしまった。


 探索を進めていると、他にも沢山の宝箱を発見した。しかし、最初こそ嬉しさばかりが俺達の胸を高揚させたものの、程なくしてとある問題点が生じ始める。道具欄が一杯になり、新たなアイテムを入手出来なくなってしまったのだ。


「せっかくアイテムを入手したのに、持てないです……」


「仕方ないな。要らないものは捨てていこう」


「はい……」


(宿にアイテムを置いて、空きを作っておいて良かったな……)


 余分な手荷物は、予め宿にいるエイリに預けてあった。もし、調合キットやレシピ本を持ち込んでいたら、更に持ち運べるアイテムの量が少なくなっていたことだろう。


 洞窟の探索を始めて、数時間後。俺達は遂にダンジョンの最深部へと到達した。そこは以前に訪れた塔のそれと同じく広い空間となっていて、その中心にはボスと思しき魔物が一匹立っていた。


「はわわ、また別のモンスターが出てきちゃいました」


「あれはゴブリンだな」


 相手の容姿を観察した後、俺は呟いた。幾度となく草原でエンカウントした、俺にとっては馴染み深い相手だが、どうやらレベル一のダンジョンでは強敵に属する魔物らしい。今まで戦わなくて正解だったかもしれないと、俺は心の奥底で思った。


「強い魔物なんですかっ?」


 短剣を握りしめながら、エシーが訊ねてくる。


「一般的にはそうでもないみたいだが……俺はアイツらと遭遇する度にトンズラを決め込んでいたから、実際は分からん。正面きってやり合うのも初めてだからな」


「そ、そうなんですか……私達が戦って大丈夫な相手なんですかね?」


「それも分からん……ま、劣勢になったら逃げればいいだろ」


 応答しつつ、ナイフを構える。ゴブリンの方はというと、既に侵入者である俺達に棍棒を振り上げて向かってきていた。


「エシー、散開して戦うぞ! まず、俺がアイツの注意を引きつける!」


「は、はいっ!」


 俺達は二手に分かれる。エシーはゴブリンから離れるように走り、俺は逆に敵の方へ向かっていくように走り出した。


 振り下ろされた棍棒が命中する直前、俺は横にステップし、敵の攻撃をかわす。確かに攻撃と防御は低いが、速度のステータスだけは技術に次いで高い。攻撃を回避することに関しては、俺は及第点の能力を有していた。


 そして、それは同時に反撃の容易さにも繋がる。


(貰った!)


 地に棍棒をぶつけた際に生じた相手の隙を突き、俺は攻撃に転じる。ナイフを最小限の動作で前に繰り出し、敵の腕を斬りつけた。若干、敵の肌を紅い液体が伝う。


 だが、ゴブリンは何ともない様子で棍棒を持ち上げ直すと、今度は横薙ぎに払うような攻撃を仕掛けてきた。


「……くっ!」


 既のところで後ろに飛び退き、何とか敵の攻撃をかわす。武器の差もあるが、やはり元々の筋力が違う。攻撃の質に圧倒的な差があった。


(やはり、俺達にとっては手強い相手だな……ファミエラ達のようにはいかないか)


 改めて、かつて共に戦った仲間達の強さをつくづくと実感させられる。だが、今は自分の無力を嘆いてもいられない。


 幾度となく、回避と反撃の応酬が繰り広げられた。際限なく敵と奏でられるワルツは、まるで永遠に続くかのような錯覚を俺に抱かせる。


(ダンスの相手がゴブリンっていうのは流石に御免被りたいがな)


 だが、規則的な乱舞は突如終わりを告げた。敵がリズムをわざとずらして攻撃を仕掛けてきたのだ。長時間の戦いで流石に学習したらしい。


(しまっ……!)


 マズい、と思ったときには既に遅かった。とっさにナイフで敵の打撃を防いだが、流石に衝撃までは和らげることが出来ず、俺は体勢を崩してしまう。


 間髪入れず、棍棒が敵の息の根を止めようと繰り出されようとした。


 その時。


「てやあー!」


(エシー!?)


 勇みよい叫びと共に、華奢な少女が短剣を握りしめて突進を仕掛けた。どうやら、ゴブリンの方は彼女を敵の頭数として勘定に入れていなかったらしい。まさかの奇襲に戸惑った様子で、慌てて棍棒で少女の一突きをガードする。


 だが、相手のその動作が、俺に無防備な背中を向けるという結果に繋がった。


「メランさん、今ですっ!」


「任せろっ!」


 刹那、両手で握るナイフを全力で刺突する。


 刃物が左胸に突き立てられた瞬間、肉を抉る生々しい感覚がした。


 攻撃を受けたゴブリンはひしゃげたような悲鳴を上げ、一瞬ピクリと体を跳ねさせたものの、やがて力無く地面に崩れ落ち、動かなくなる。魔物の死体から流れ出るドス黒い血が、地面を濡らしていった。


「やりましたね、メランさんっ」


 嬉しそうな声を上げて、桃髪の少女が駆け寄ってきた。


「ああ、エシーのお陰だな」


「アタシは大したことしてないです。止めを刺したのはメランさんですし」


「そんな事はないさ。君が勇気を出して特攻を仕掛けてくれたから、アイツに隙が出来たんだ。勝利の立役者は君さ」


「えへへ……ありがとうございますっ」


 俺の言葉を受け、彼女は擽ったそうに両目を瞑った。


「とにかく、ダンジョンの主は倒したんだ。きっと、この階には沢山の宝が眠っている筈」


「そうなんですかっ?」


「ああ。これからは楽しい時間が待ち受けているぞ」


 ダンジョンボスを倒してからの戦利品タイム中、エシーはずっと楽しげだった。俺達は見つけた宝箱を片っ端から開き、手持ちの道具と併せて取捨選択を行う作業を夢中で行った。


「この宝箱、他のと比べてちょっと違いますね」


 今までのそれと少し雰囲気の違う豪華な宝箱を目の当たりにしたエシーは、両目を瞬かせながら呟く。


「これはレアな宝箱なんだ。中には貴重なアイテムが入ってることが多い」


 かつて自分の受けた説明を、俺は彼女にも教授した。


「そうなんですかっ! 何だか、ロマン溢れますねっ!」


「じゃ、開けるぞ」


「あたし、今からもうドキドキですっ」


 胸を高揚させながら、宝箱を開く。


 中に入っていたのは、銀色に輝く淡い光を帯びた短剣だった。


「この短剣、貴重な道具なんですか?」


「さあ……武器の知識は全く無いからな」


 ただ、普通の物と比べれば遙かに上等な武器のような気がする。そう呟いて、俺は手にした短剣を眺める。荘厳さと神聖さを兼ね備えたような、上品な趣を持つ武器だ。切れ味も鋭利そうで、刀身の部分はいっそう強く煌めいている。


「薬草なら、それなりに判別がつくんだが」


「鑑定屋に持っていけば分かるかもしれませんね」


 エシーがポツリと呟いた。


「そんな店があるのか?」


「はい、前に街で看板を見かけたことがあります」


「じゃ、街に戻ったら訪ねてみるか」


「はいっ」

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