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チート無し転生薬売りのまったり異世界紀行  作者: 悠然やすみ
第四話「新米冒険者の娘」
13/35

 ラベリアでの薬売り稼業は実に順調だった。ある日、宿での調合の最中、何時かも耳にした甲高い電子音を聞く。レベルアップの合図だ。良い機会だと思い、俺は脳裏にステータス画面を呼び出す。




名前:メラン・ノーセラック

称号:駆け出し薬売り

レベル:7(+1)

HP:87(最大87)

MP:12(最大12)

攻撃:10

防御:8

魔力:6

抵抗:16

技術:29(+2)

速度:22

頭部装備:旅用の安い帽子

右手装備:ナイフ

左手装備:無し

胴体装備:旅用の安い服

脚部装備:旅用の丈夫な靴

装飾品1:無し

装飾品2:無し

装備スキル(最大装備数4):薬調合LV3・値切りLV1・逃げ足LV1

所持スキル:薬調合LV3・値切りLV1・逃げ足LV1

所持金:1740ゴールド

所持アイテム(最大所持数5):薬調合キット・薬売りのバッグ・古びたレシピ本




(技術偏重の成長だが……これはまぁ、仕方ないか)


 普段の生活態度を省みると、妥当な気がした。いずれ、攻撃や防御といった項目も成長させたいのだが、やはり実戦を経る必要があるのだろうか。


 装備品の欄では売却した凍てつきの短剣が消失し、再びナイフが装備されてある。当面は討伐依頼などをこなす予定も無いので、この装備で十分だろう。


 所持金もなかなかに貯まっている。ブアレスでは夜も殆ど眠らずに働いた為に稼ぎも多かったが、今はマイペースに調合と販売を繰り返している。




 そんな、平凡だがゆっくりとした日常が過ぎていた、ある日の事だ。その日の朝、メランとエイリは久しぶりに冒険者案内所へと向かっていた。めぼしい調達依頼がないか確かめる為だ。


「やっぱり、人の数が少ないですね」


「ああ」


 エイリの呟きに、俺は肯定を返した。建物の内部はひっそりとしていて、訪れた冒険者達の為に設置されている休憩所には人っ子一人の姿すら見受けられない。眠たげに目を擦っていた受付の少女が、慌ててこちらに御辞儀をしてくる。


 依頼に関しての情報を得ようと、受付の方向へ一歩踏み出そうとした、まさにその時。


「あ、あのっ!」


 背後から声を掛けられた。振り向くと、いつの間にか案内所に入ってきたらしい少女が、緊張した面持ちで自分を見つめている。年は十五、十六くらいだろうか。ショートカットに切り揃えられている桃色の髪が特徴的な少女で、栗色の瞳はまるで小動物のようにくりくりとしている。が、一番目を引いたのは、彼女の装備だった。小柄で華奢、着る物さえ変えれば普通の村娘といった印象の少女は、屈強な戦士が着用するような軽装の鎧を身に纏っていたのだ。腰には立派な短剣の鞘まで帯びている。何となく容姿に不釣り合いな格好のように思えた。


「もしかして、冒険者の方ですかっ?」


「そうだけど……君は」


「エシーっていいます。あの」


 少女は自らの名前を告げ、暫し躊躇う素振りを見せた後、


「あ、あたしと一緒に、パーティを組んでもらえませんかっ!?」


 と、勢いよく言った。


「パーティを?」


 突然の申し出に、俺は当惑する。


「はい、あたし、まだ駆け出しで、それで」


「ちょっと待った。立ち話もなんだ。話の続きは向こうでしよう」


 なおも話し続けようとする少女を制し、がらんどうとなっているテーブルの方を指し示す。


「は、はいっ」


 少女は過剰なほどに強く頭を振って、こちらの提案に応じる。


 片方に少女、もう片方に俺とエイリ。テーブルに向かい合って座った後、俺は改めて少女――エシーから話を聞いた。


「……なるほど、詳しい事情は分かった」


 全ての話を聞き終えた後、俺はコホンと咳払いをして、


「話を要約すると、君はこの街出身の女の子で、つい先日に冒険者となったばかり、けれどこの村には冒険者が殆どおらず、それで全然冒険に出掛けられないでいると……」


「はい……外から訪れる冒険者の方々もレベルが高そうな人ばかりで、パーティを組んでもらおうとしても適当にあしらわれてしまうんです」


 先ほどまでの落ち着きの無さはどこへやら、彼女はすっかりしょげかえった様子で答えた。


「一人で冒険というのは、やっぱり駄目なものなんでしょうか?」


 横からエイリが質問すると、


「はい、一人は流石にちょっと怖くて……」


「最初は誰かに色々と教授を受けたい、そういうわけだな?」


 エシーはコクンと頷いた。


「というわけで……えっと」


「メランだ」


「メランさん、あたしに冒険者のイロハを教えて頂けませんかっ!?」


「そうしたいのは山々なんだが……」


 バツの悪さから、俺は頬を掻いた。


「実をいうと、俺もあまり戦闘は得意じゃないんだ」


「えっ、そうなんですか? でも」


 と、彼女は顎に人差し指を当てながら、


「メランさんは徒歩でこの街に来たんですよね。魔物と遭遇したりしなかったんですか?」


「遭遇はしたが、その度に逃げてきた」


「逃げてきた……」


「ああ、だから正攻法での戦闘はあまり得意じゃないんだ」


「そうですか……」


 エシーは目に見えてしょんぼりと落ち込む。彼女にとってみれば、街を訪れた新しい冒険者であるメランは希望にも等しい存在だったのだろう。もしかすると、こうやって真摯に事情を聞いてもらう機会も今まで無かったのかもしれない。


「御主人様、どうにかしてあげられないでしょうか」


 心配そうにエシーを見やりながら、エイリが言う。


「そうは言ってもな、俺が何か戦闘に役立つ知識を教えられるわけでもないし……待てよ?」


 一つ、良い案が思いついた。二人に待っているよう告げた後、俺は受付へと赴く。暇を持て余していた受付嬢から情報を引き出した後、俺はテーブルに戻った。


「何を聞きに言っていたんですか?」


「この街の周辺にレベルの低い冒険者でも安全に探索出来るダンジョンはないか訊ねてきたんだ」


「あったんですか?」


「ああ、この街を出て北東の方向に、ちょうどレベル1相当のダンジョンが存在しているらしい」


 そこなら俺達でもある程度まで潜れる筈だ。そう言って、俺は少女の顔を真っ直ぐに見つめた。


「確かに、俺は戦闘に慣れていないが……共に戦うことくらいは出来る。どうだろう、一緒に挑戦してみないか?」


「は……はいっ! 喜んでお供させて頂きますっ!」


 喜びにぱあっと顔を輝かせながら、エシーは声を弾ませた。

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