第三話 少年が初めて敵を倒すまで
人類の希望を背負って、勇者であるユウ・サダガタはどこかよくわからない多分世界の中心辺りにあった召喚場所から旅立った。
パーティはロリコン勇者とチョロイン聖女の二人だけ。それでも彼らが世界を魔王の魔の手から救う希望なのである。
希望の光たる勇者の旅立ちなのだからその場に立ち会うことができた者たちは盛大に見送った。
もっともその場に立ち会えたのは人類の王からプロジェクトのリーダーを任じられたモブ顔の男とその男の部下が数人だけであった。
なぜそうなのかといえば、勇者とは希望であるがゆえにその存在は極めて狙われやすいものであるからして、魔王側に情報が洩れぬようにしなければという考えにより極秘裏に計画が進められていたからだ。
勇者が召喚されるのだと人類は感謝の涙を流したがその人類とは一部の上層部の人間だけで市民に知れ渡ってはいない。
つまりどういうことかといえば、市民は勇者の存在など全く知らずに魔王にただ怯える日々を送っていたということであり、例えユウが自身は勇者なのだぞと言ったところで、ロリっ子とイチャイチャしている若者が馬鹿を言っているだけとしか捉えられないのである。
それって、体よく力だけ利用して最後は全て王が成果を掻っ攫うパターンじゃねえのと思うかもしれないが、この物語にそんな七面倒な展開は用意されてない。
あるわけがなかった。
そんなわけで、当然の如くこの世界にはテンプレよろしく遠隔地と話すことができる魔道具が存在するから、勇者が旅立ってから三日後には大きな都市には勇者の存在は布告され、そこから近隣の村へも情報は伝えられていった。
が、その三日間の間にユウはいくつかの村を経由し、一つの大きな都市もすでに通り過ぎていて、その間ユウは勇者なのにちやほやされない現実に打ちのめされていた。
何か魔族の攻撃とか分かりやすい事態があれば、勇者の力を示して名声を得られたかもしれないが、魔族と人類は東の方でせめぎ合っているために、突然中心部付近に魔族が沸くことはなく、つまりは勇者の力を示す機会も無かった。
さすがに何もないのに力を誇示してまで勇者としてちやほやされたいとも思えなかったユウは結局その三日はシエルとのイチャイチャぶらり旅と割り切って旅を満喫していたのだった。
そんな二人の旅の会話を一部抜粋してみよう。
「今日はあの宿に泊まろう!」
「防音性も高そうですし楽しみですね」
二人はいやらしい笑みを浮かべて宿へと消えた。
「外でっていうのも興奮しない?」
「うん……!」
二人は夜の闇に紛れた。
「ああ……かわいいシエル」
「あん……もう、馬車の中じゃだーめっ」
乗合馬車の同乗人は殺意を抱いた。
まあ、ぶっちゃけた話、三日間、最初っから最後までこの調子だった。
ユウはなんだかんだ言っても、そういうことに興味津々な高校生だったし、シエルはチョロインで、ユウの性癖にどストライクの金髪ロリな美少女であり、頭の中がお花畑であったために三日間フィーバーし続けた。
現実に打ちのめされたなんて真っ赤なウソだった。
勇者の存在が知られていない?
だからどうしたというのだ。
ユウにしてみれば隠れて勇者活動するのもまたテンプレファンタジー。気にすることも無い。
シエルは全肯定系チョロイン。ユウが不満を感じてないなら全部オッケー。
初めからイチャイチャぶらり旅する気満々だった。
世界はこんな二人に命運を預けているのだからまさに世も末である。
それから2週間ほど旅を続け、ついに勇者一行は最前線へと辿りついた。
さすがに、常に魔族と戦っているからか、最前線の砦はピリピリとした空気に満ちている。
すでに勇者の存在は布告されていて人類全体の士気を高まっている。
しかし、人類全体の士気が高められたからといって最前線で戦う兵士にしてみれば実績のない希望など慰めにもならない。
その為、砦へやってきたユウとシエルに対しては、無碍にするわけでもないが、期待され持ち上げられることもなく極めて事務的な対応がされた。
ユウもそのことに不満を感じなかったわけではない。
だが、そういう対応になってしまうことも理解する程度にはユウも考えることができた。
伊達に勇者として異世界から召喚されていないのである。
だから、勇者の力を示せればとユウは考えた。
どちらにしてもここらで一旦魔族をここで迎え撃ち、相手に動揺を与えるのは悪い手ではないだろうと言うことで、ユウはしばらく砦に留まることにした。
対応が事務的とはいえ国のお偉いさんから不都合ないようにと言われているためにユウには部屋が一室割り当てられ、ユウはシエルと一緒にその部屋で英気を養っている。
「ふん……あれで本当に何とかしてくれるならいいんだがな……」
「まあ、そういうなって。国のお偉いさん方が認めてんだ。見た目なんかはアレでも打開する力は持ってんだろうぜ。じゃなきゃ困るってもんだ」
その英気を養う二人に、兵士の一人が思わず愚痴をこぼすが同僚がまあまあとなだめる。
砦に勇者が来てから二日。
その間勇者は割り当てられた一室で英気を養い続けていた。
そしてその英気を養うという行動のおかげで砦の男たちは少し怒りを感じていた。
最前線でよくそれだけ盛れるものだと誰もが眉を顰めるが、全く戦いの空気に緊張せずに盛る二人の姿になんだかんだで砦の空気も幾分か和らいでいたし、戦いばかりで気が落ちていたのも幾らか改善していた。
そう、英気を養うとは、つまりそういうことだった。
そして、なんだかんだで良い影響を与えているあたりさすが人類の希望(笑)である。
「ま、英雄は色を好むっていうしな。アレこそ勇者の力の証明かもしれんぜ」
「ハッ、そうだったらいいんだがな」
肩を竦めながら男がそう言えば、もう一人は鼻を鳴らしてチラリと勇者様が籠っている部屋を見て、溜息を吐く。
「敵襲ー! 敵襲だー!!」
その声にユウは0.1秒でズボンを履いて服を着て外へ飛び出した。
シエルはわずかに遅れてその0.5秒後に続けて出てきた。
二人は颯爽と見張り台を登り、周囲を見渡す。
「あれが……魔族」
「はい。魔族は皆あのように紫色の肌をしていますがそれだけで後は人とほとんど変わりません。……ユウ様、大丈夫ですか?」
迫りくる魔族はおおよそ100人。
まだ、500mは離れているが勇者として身体能力も向上されているユウはその姿をハッキリ捉えることができた。
どれもみな濃い紫色の肌をしているが後はほとんど人そのものの姿をしている。
結局旅の間、ユウがその力を振るう機会はなかった。
つまり、これが初戦である。
どんな者でも初戦というものは緊張するもので、ましてやそれが人やそれに近しいもの相手となると相手の命を奪うことに対する恐怖も生まれるものだ。
殺すこと。それは、この世界の人間ですら最初は戸惑うもので、ユウの話によれば世界が全て平和とは言わなくても、概ね平和であり、人を殺すどころか動物なども殺したことがないということで、シエルはそんな生活をしていたユウの精神面を不安に思い、声を掛けたのである。
チョロインで頭がお花畑だが、それでも聖女として選ばれただけのことはあるのだ。
だが、ユウはそのシエルの言葉にややぎこちない笑みを浮かべて首を振る。
「そりゃ……怖い。バカな俺だけどやっぱり元はただの高校生だ。今だって手が震えてるし……でも、俺は決めたから。勇者としてこの世界を、シエルを守るって。だから逃げない、絶対に。」
「ユウ様……」
顔色を少し悪くしながらも笑みを浮かべて力強くそう言ったユウにシエルは【チョロイン】なんて称号も関係なく見惚れた。
そのユウを見ていた兵士たちも、少し情けなくも誠実な姿に心打たれていた。
「じゃあ……やろうか……【テンプレート】ッ!」
ユウは自分を激励するように大声でスキル名を叫び発動する。
現れたのは縦横15cmで厚さは0.01mmの極薄の板が十枚。
兵士はそれを見てアレでどう戦うのかと眉を寄せる。
そんな空気も一切無視して、ユウは手を上にピシっと伸ばせば十枚の板はそれぞれが超高速で回転を始める。
そして手を前にバッと倒して魔族へと向ければ、十枚の板は超高速回転したまま魔族へと射出された。
魔族との距離は最初見た時よりも近づいていて300m程だったが、その距離を十枚の板は0.5秒で詰めてそのまま魔族の集団の中へと飛び込んだ。
そして超高速で回転する十枚の板は魔族の首を、胴を、腕を、足を、触れたそばから斬り刻み、斬りおとしていった。
戦闘時間はわずか15秒といったところ。
それだけの時間で魔族100人は一人残らず殲滅されたのである。




