桜の木の下には
桜の木の下には、死体が埋まっている――。
最初にそう言い出したのは、一体誰だっただろうか。
月明かりに照らされた満開の桜を眺めながら、ふとそんな事を思った。
「……始めるか」
手にした大型のスコップを、力一杯桜の根元の土に突き刺す。固く踏み締められた土は、力には自信のある私でも掘り起こすのに苦労する。
わざわざこんな山奥を選んだのだ、誰も来やしない。そう思いつつも、思い通りにいかない作業に気ばかりが焦る。
ちらり、横を見る。見えるのはビニールシートにくるまれた、今は物言わぬ私の恋人。
人生を捧げてもいいと思うぐらい好きだったのに。別れ話なんて切り出すから。
そんな事を思いながら手を動かしていた時だ。スコップの先が、何か固いものに触れた。
根っこにでも当たってしまったのだろうか。そう思い、視線を下に遣ると。
「……これ」
見えたのは、白い円状の物体。それだけなら只の石だが、ちらりと丸い穴のようなものも二つほど見える。
まさかこれは……骨?
その時、私の足を何かが掴んだ。見ると、地中から突き出た木の根のようなものが足に絡みついている。
思わず見上げた桜は、病的なまでに美しかった。