魔性
『運命の出会い』って、信じますか?
僕が彼女と出会ったのは、寂れた骨董屋でした。店の奥に静かに佇む彼女。まさに一目惚れでした。
それから僕は、何度も彼女に会いに行きました。彼女は僕のつまらない話を黙って聞いてくれました。その時間の、何と幸せだった事か。
けれど欲望は尽きませんね。僕はずっと彼女といたくなりました。でもね、出来なかったんです。実は店の主人が、彼女の主人だったのです。主人は僕達の関係を知ると、もう二度と来るなと言いました。
けど彼女がこう言ってくれたんです。自分を閉じ込める主人より、僕の方がいいって。
……ええ、だから殺しました。彼女、喜んでくれましたよ。やっと主人から解放されたって。
ねぇ、僕達はこれからなんですよ。彼女は今どこにいるんです。ねぇ、刑事さん……
「話にならんな」
取り調べを見ていた壮年の刑事はそう呟いた。
手には捜査資料。そこには浪人生の青年が展示されていたナイフを奪い、それで骨董屋の主人を殺し逃走、とあった。
この分だと精神鑑定の出番になりそうだ。そう刑事が溜息を吐いた時。
扉が開き、そこには新鮮な血の付いた凶器のナイフを持った鑑定が立っていた。