サッカーボール
「あっ、あそこ。サッカーボールが落ちてる」
恋人とのデート中。私は道端にサッカーボールが転がっているのを見つけた。
普通サッカーボールは白黒だが、そのサッカーボールは全部が黒かった。今はそういうのが流行りなんだろうか。
「そんなもん珍しくもないだろ。行くぞ」
「うん」
私はそれ以上は特に気にせず、そのままサッカーボールの横を通り過ぎた。
「あれ?」
その三日後。会社帰りの私は、自宅マンションの前にこの間見たのと同じ色のサッカーボールが転がっているのに気付いた。
やはり流行りなんだと思いつつ、あまりいい気分はしなかった。まるでサッカーボールに跡をつけられたみたいで。
自分の妙な想像を振り払うように、私は早足でマンションの中に入った。
寝苦しさに目が覚める。お腹に何か重い物が乗っているような感覚。
何だろう。目を開ける。すると私の上にあのサッカーボールがあった。
「!?」
慌てて振り払おうとする。けれど体が動かない。怯える私の前で、サッカーボールは独りでに転がり私の口に飛び込んできた。
そのあまりの痛みに、私は気絶した。
――私が自分の妊娠を知ったのは、その二ヶ月後の事だった。