電話の向こう
彼女は電話が好きな子だった。
既にメールと電話の使用率が逆転して久しかったが、変わらず電話の方を好んだ。
彼女が電話をしないのは講義の最中ぐらい。その講義も終わるとすぐ、どこかに電話をかけていた。
そんな事を、彼女の部屋でぼんやりと思い出す。
一週間前、彼女は姿を消した。
捜索届は出されていない。元々放浪癖がある彼女の事、どうせそのうち帰るだろうと誰も心配しなかった。ルームメイトの私以外。
ふと、テーブルの上を見る。あるのはスマートフォンが普及した今となっては珍しい、彼女の赤い携帯電話。
あんなに電話が好きだった彼女は、肌身離さず持っていた筈のこの電話を残して消えた。
何気なく手に取る。そういえばプライバシーに触れるのは良くないと、この電話を調べる事はしなかった。
もし電話先の誰かの所にいるのなら……。
恐る恐る電源を入れる。震える指で、中の履歴を探る。
「何……これ」
しかしそこにあったのは、全く出鱈目な数字の羅列ばかりだった。こんなのどこにも通じる筈がない。
では、彼女は一体誰と話していたと言うのか?
その時、突然手の中の電話が鳴った。
着信画面にはあの出鱈目な数字があった。