マスクの下
「転校生の間宮幸子さんです」
その子が転校してきたのは季節外れの十一月。教室が俄かにどよめいたのを覚えている。理由はその子の着けた大きな白いマスク。
ほら、口裂け女。あれにそっくりだったんだ。しかも名前は幸子。そう、童謡のさっちゃん。本当は怖い歌だって散々話題になった、あの。
当然クラスの悪ガキ連中は、すぐにその子に目を付けた。マスクを外せ呪ってみろって。けどその子は決してマスクを外そうとしなかった。給食もマスクの下に箸を運んで食べた。
だんだん皆、その子の事を不気味に思うようになった。勿論、私も。自然とその子の事を、悪ガキ連中以外は皆避けるようになっていった。
そんなある日、悪ガキの一人が執拗にその子のマスクを外そうとした。いつもは適当な所で止めるのに、その日だけはしつこく。
今思うと度胸試しだったのかな。とにかくその一人は、遂に力ずくでマスクを剥ぎ取った。
次の瞬間、マスクを外した悪ガキがその子の口にぽっかり空いた黒い深い穴に吸い込まれて消えた。
何事もなかったようにマスクをつけ直したその子を、もう、誰も直視出来なかった。
そして私が吸い込まれた子と二度と会う事も、なかった。