第一話 欲望の世界へ! その5
「第八次となるテストプレイヤーの方々のご到着~♪」
雑居ビルの四階へたどり着くと同時に、そんなアナウンスが響きわたる。
「あ、おぢさん! フフフ~ン、やっぱり来たんだ!」
ニタニタと笑いながら、藤森沙羅が俺の左腕のしがみついてくる。
「おい、離れろよな!」
「まあいいじゃん♪ おぢさん、何気にカッコイイし……ってかさ。私たちを含めて三十人以上いたはずのテストプレイヤーも、気づけば半分くらいに減っちゃたね」
「あ、ホントだね! や、やっぱり、あのお金にビビっちゃったのかな?」
「多分そうだろ。俺なんて今にも逃げ出した気分だぜ!」
老若男女、最低でも三十人以上はいたはずなのに、雑居ビル三階にあるAZ社の事務所前に集まったテストプレイヤーは、気づけば二十人いるかいないかってくらいの人数になっている。
(あの大学生三人組がいなくなっている。塚田ってヤツはいるな)
そういえば、あの大学生三人組の姿が……逃げたな! ああ、でも、塚田って問題のありそうな奴は、臆すことなく残っている。
さて、雑居ビル四階は、窓際から下の階に通じる階段のすぐ側にまで、ぎっしりとデスクトップ型のパソコンが設置されている空間だ。
「あ、お兄ちゃん。このパソコン、NXC社の最新型パソコンだよ!」
「そうみたいだな! OSも先月の頭に出たばっかりの最新型だぜ」
ん、さっきミスターNに質問はないか? と尋ねられていた眼鏡の少年だ。んで、一緒にいる背の高い高校生くらいの少年は、彼の兄かな?
「この階にあるパソコンはどれを使ってもかまわないぞ、諸君! だが、パソコンを操作する前に、コイツをかぶってもらうぞ!」」
豪快な笑い声を張りあげるミスターNが社員たちを連れて下の階から現れる。
「ん、ヘルメット!?」
「なんだか妙に特撮チックな感じだねー」
ミスターNと一緒に現れた社員たちは、まるで某特撮ヒーローものに出てくる怪獣討伐部隊の隊員がかぶっていそうなカッコイイヘルメットを運んでくる。
「さあ、そのヘルメットをかぶりたまえ、諸君!」
「とりあえず、かぶってみるか……」
「ん、このヘルメットについてるアンテナがビンビン振動してるよ、京太郎」
ん、よ~く見ると、確かに優菜の言うとおり、ヘルメットについているアンテナがビンビンと勝手に振動しているんだが――。
「それをかぶったら、好きなパソコンを選びたまえ」
好きなパソコンを選べだって? まあいいや、とりあえず窓際まで移動……一番端っこにあるパソコンを選んでみるかな。
「このパソコンに貼ってるプレートには、『惑星ブルーノワール、東方の地方都市ネレイド』って書いてある」
「あ、私のパソコンにも同じだ」
「私も私も! つーかさ、ゲームの出発位置って感じだと思う」
さて、優奈は俺の隣、沙羅は隣の隣にあるパソコンを選ぶ。
そんな三つのパソコンのディスプレイには、ゲーム内での出発地点かと思われる位置が示されたプレートが貼ってある。
しかも共通して、惑星ブルーノワール東方の地方都市ネレイドと――。
「はっはっは、出発地点が同じ者は、自動的にチーム編成されるから気をつけてくれたまえ!」
ミスターNの豪快な笑い声が聞こえる。
出発地点が同じ者は、勝手にチーム編成されてしまうようだ。
「第八次テストプレイヤーは皆、席についたな! よし、始めるとしよう! 五億円争奪戦争を! まあ、〝無事に戻って来れれば〟の話だが――」
無事に戻って来れればの話だって!?
「う、なんだ、頭が痛くなってきたぞ!」
「ああああ、なにが起きて…いるの……ん、んんっ!」
「ちょ、なにが起きたの! 頭が痛いよ、痛いっ!」
な、なにが起きたんだ!? 頭が痛い! ヘルメットの中に針が大量に仕込んであったのか? と、とにかく、突然のブスッと何かがたくさん頭皮に突き刺さる!
「う、意識が……」
ううう、今度は意識が遠退いてきた。なんだ、一体!?
「優菜、それに沙羅……ううッ……」
優菜と沙羅は、すでに意識を失っている。ダメだ、これ以上、抗えない……そして、俺の意識も深い闇の中へと埋没する。な、なんだよ、一体、なにが起きたんだよ……。