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第一話 欲望の世界へ! その4

「さぁぁぁ見ろ、見るがいい――ッ! これがクリア報酬の五億円だァァ~~!」



 ミスターNは勢いよくテーブル覆う黒いシーツを剥ぎ取る! そして現れたのは、ここに集まっている者は、恐らくテレビ番組の中でしか見たことがない物体――札束の山だ!



「「「お、おおおおーッ!!」」」



 しばらくの間、沈黙が続く――が、次の瞬間、雷鳴のような歓呼の声が響きわたる。無論、俺も歓呼の声を張りあげる。札束の山なんて見せられりゃ当然の反応だ。



「さ、札束の山だ! マ、マジだったのかァァ~~!」



 うおおおッ……しかし、トンでもない光景だ! こんな光景はテレビ番組の中でしかお目にかかれない代物が、俺の目の前に現実となって……さ、寒気が! 悪寒が全身を駆け巡るぜ!



「ああ、忘れていた。キミたちの活躍次第では、この五億円にさらに五億円を上乗せしようじゃないか!」



「「「お……おおおおおっ!!」」「



 俺は歓呼の声を張りあげる! いや、それは俺だけではない。ここに集まった全員――老若男女に問わず獣の咆哮のような絶叫を張りあげる。



「なんだか急に怖くなってきたかも……」



「な、なにか裏がありそうで怖いぜ。さらに五億円+だからな……」



 ん、優奈の顔色の青ざめている。さて、クリア報酬五億円+活躍次第で、さらに+五億円というトンでもない報酬には、必ず裏があるって想像すると、確かに怖いなぁ――。



「京太郎、私、怖くなってきた……」



「ああ、俺もだ。あんな破格のクリア報酬……十億だぜ、ヤバいよ、こりゃ!」



 俺の右腕に優奈がしがみつく。ナイスバディだが線が細い優奈の身体が、小刻みに震えている。



(俺だって怖い、怖いよ! 今にも逃げ出したい気分だ!)



 俺は胸中でつぶやく。ああ、逃げたいさ! 十億円という超破格の報酬に恐れをなしてしまったんだよ、悪いか!



「あっれぇ~怖いのかな? おぢさん~♪」



「う、うるさいっ! 誰だって、あんな金を見たら怖くなるだろ!」



「え、そう? 私はむしろあの金を手に入れたいって欲望の炎が燃え盛っているけど~♪」



 ククククと喉の奥で笑う藤森沙羅が、俺を挑発してくる……ぐぬぬ、このクソガキ!



「そういえば、ここにはおぢさんと同じ匂いがする者がたくさんいるね」



「なっ……」



 コイツ、俺がここにやって来た理由を!? それに俺と同じ匂いがする者がたくさんいるだって? むぅ、俺と同じく借金返済とか、そういう理由で参加したってヤツか? 類は友を呼ぶのか……。



「そろそろテストプレイを行ってもらおうか、諸君! さて、その前にテストプレイを辞退したい者は去れ! そしてクリア報酬五億円を手にしたい者は四階へとあがるのだ!」



 ミスターNは声を荒げながら、四階へと続く階段を指差す。四階にAZ社の新作ゲームのテストプレー室があるっぽいな。



「仮面のおぢさん! 私が一番乗りするからね! うわあああッ!」



 宮藤沙羅は一番乗りとばかりに、気合の絶叫を張りあげながら、四階へと駆けあがる。



「クククク、いいぞ、いいぞ! さあ、残りの者たちはどうするんだ?」



 喉の奥で笑いながら、ミスターNは俺たちを指差す。



「く、どうしよう、どうしよう!」



 くぅ、躊躇ってはいられないのに! 俺には借金返済という目的があるのに! あの札束の山を見てしまったのがいけない……。



「京太郎、行こう! 別にあんなすごいクリア報酬がもらえなくても楽しめればいいことだし――」



「あ、ああ!」



 あんなすごいクリア報酬がもらえなくても楽しめればOK! 優奈のその言葉に俺はホッとする。



「そうそう、順位に応じての報酬もあるぞ!」



「な、なんだってー!」



「ハッハッハ、報酬は七桁くらいはあるだろう!」



「報酬が七桁!? こうなったら挑むぞ! 借金返済だ!」



 報酬を受け取れる順位が何位までかは知らんけど、借金取りに追い回される生活からおさらばできる金だけでもGETしなくちゃいけない! 報酬が最低でも七桁とミスターNが言っているわけだし、五億は無理でも三百万は最低でも欲しいな! だが、あんなすごい金が手に入ると思うとゾッとする――が、テストプレイヤーを辞退するわけにはいかない!



「行こう、優奈!」



「う、うん!」



 気づけば、俺は優奈の腕を引っ張りながら、四階へと続く階段を駆け上あがっていた。



 運が良ければ十億円が手に入るってことに臆していたさっきまでの俺ってなんなんだろう? なんだかんだと、欲望が恐怖心を凌駕する……すげぇな欲望って!


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