第一話 欲望の世界へ! その3
「ソロプレイもいいと思うぜ。仲間なんざぁ足手まといだ! オッサンもそう思うだろう?」
そう言いながら、黒い帽子に黒いジャケットにジーンズといった黒ずくめの背の高い若い男が話しかけてくる。ふむ、目つきが悪いけど、イケメン君だな。
「塚田じゃね? お前も参加するのかよ」
「ああ、俺はPVPもできるって聞いたんでな、ククク……」
「マジかよ、塚田に会わないようにプレイしないとな!」
黒ずくめの男、塚田と大学生三人組は知り合いっぽいな。同じ大学に通う友人ってところかな?
「PVPってなぁに?」
「ええと、確か――」
「プレイヤーVSプレイヤーの略だよ、お姉さん。あれをいきなり仕掛けてくる奴が時々いるからね。MMORPGをプレイしてて迷惑することもあるのよ」
PVPについて訊いてくる優奈に対し、そんなPVPの意味を説明しようと思ったところに、黄色いリボンで長い髪をツインテール状に束ねた小柄な女のコが、颯爽と現れ、そして割り込んでくる。とまあ、そいつが俺の代わりにPVPの意味を説明する。うーむ、先を越されたか、こりゃ立つ瀬ないなぁ。
「う、アイツは藤森沙羅じゃないか? ほら、某ネトゲ専門誌に載ってた有名なネトゲ廃人だ」
大学生三人組のひとりが、嫌なモノを見るような視線をツインテールの女のコに向けながら、小声でつぶやいた。
俺に話しかけてきたツインテール女の子は、有名なネトゲ廃人のようだ。今度、ネトゲ専門誌を買ってチェックしてみようかな?
「ねえ、どうでもいいけど、AZ社の社員っぽい人が奥の部屋から出てきたよ」
今、俺がいる築四十年は経っているオンボロ雑居ビルの三階には、自社製作の新作ゲームのテストプレイヤーを応募しているゲームソフト制作会社のAZ社以外の事務所はない。
それはともかく。AZ社の事務所のドアが勢いよく開き赤いLEDを仕込んである三つ目が燃え盛るように輝く気味の悪い仮面をかぶった男が姿を現す。
後、どうでもいいことだけど、背広の胸元がガバッと開いており、そこから筋肉隆々のたくましい胸板を覆うもっさりとした胸毛が見え隠れしている。なんだか腕っぷしも強そうだなぁ。
「ようこそ、我が社の開発した新作ゲームソフトのテストプレイヤーたち……いや、欲深き者達ッ!! 私の名前はミスターNだ! そう呼びたまえ――ッ!」
胸毛仮面(?)――いやいや、ミスターNと名乗る仮面の男は、両腕を広げながら、そう言い放った。
「欲深き者ってなんだよ!」
「なんだか随分と偉そうな態度の人だね」
あのミスターNという男は、何故、仮面をかぶっているんだろう? 素顔を隠さなきゃいけない理由でもあるんだろうか? 怪しいぞ、怪しすぎるぞ!
「我が社が開発した新作ゲーム、その名はラッキーアイランド! すでに周知のことだろう! さて、テストプレイを始める前に、なにか質問があれば聞こうではないか!」
某声優さんみたいな渋い声のミスターNの力士のような大きな右手の人差し指が、まるで獲物を選定するかのように、ズギュウン! と、俺たちテストプレイヤーを順に指差す。
「そこのキミ! なにか質問はないかね?」
「え、僕ですか!? うう~ん……」
ビッとミスターNの力士のような大きな右手の人差し指が獲物(?)を発見する。眼鏡をかけた小柄な少年だ。中学生くらいだろうか?
「あ、あのぉ、本当にゲームをクリアできたら五億円をくれるんですか?」
「ハッハッハ、もちろんだとも! 男に二言はないぞ、少年!」
男に二言はない! シャッと左腕を勢いよく振りながら、ミスターNは言い放つ。
「おい、その前に五億円が本当にあるのか、その証拠を見せやがれ! 嘘だったら許さねぇぞ、ゴルァァァ!」
派手な赤いスカジャンをガラの悪い男が、ミスターNに食ってかかる。そういえば、暴走族やチーマーといった荒くれ者な連中もけっこういるなぁ。
「あのガラの悪いお兄さんたちと、私も考えが同じよ。本当に五億なんて大金用意できるのかしら?」
「うん、俺もそう思う。本当なら見せてほしいところだな」
俺と優奈も派手な赤いスカジャンを着たガラの悪い男と同じ考えだ。本当に五億円という大金を用意できているのか!? もし本当なら、是非とも拝んでみたいもんだぜ!
「フッハッハッハッ! そう急くでない。だが、まあいいだろう。特別に見せようではないか!」
豪快な笑い声を張り上げるミスターNは、パチンと指を鳴らす。
「あ、誰が出てきたぞ! なんだ、シーツに覆われたテーブルだ」
ミスターNの指パッチンが合図だったのか、真っ黒いシーツに覆われたテーブルを運び出す四人のAZ社の社員たちが事務所内から姿を現す。