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GLOBAL SHOUT!  作者: 丸尾累児
Chapter2「ウチが好かれた相手はNPCって・・・なんだこりゃ」
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第4節「喧噪の中の大迷宮/その4」


 左右に幾つもの石柱が並べられた60畳ほどの大広間。

 中央にラベンダー色のカーペットが敷かれ、部屋の末端には装飾の施された玉座らしきイスが置かれている。その部屋の中央で玉座を前に偏屈王が立ち、友紘たちプレイヤーと対峙していた。

 偏屈王の両側には、ナイト、魔導士、プリーストとおぼしき近衛兵が計5体配置されていた。



「どれも強そうだなぁ」



 と、友紘がぼつりとつぶやく。

 それを聞いてか、祐鶴が今回のボスの攻略法を口にし始めた。



「最初から強力な配置だ……なので、今回はマラソンを使う」


「マラソンって、余剰な敵を引き連れて走るヤツ?」


「そうだ」



 予め決めていたらしい。

 それを聞いて、友紘は今回の作戦をなんとなく理解した。


「マラソンって、なんですの?」



 ところが、颯夏は理解できなかったらしい。

 振り返ると、顔にクエスチョンマークを付けたような表情を見せていた。

 その発言から見ても、颯夏はその手の戦術に詳しくない。ましてやゲーム慣れしているわけでもないため、知らないのも当然だろう。

 友紘は諭すように説明してみせた。



「あのね、オリエさん。マラソンって言うのは、強い敵が何体もいる際、囮役の人が複数の敵を引き連れて外周を走る戦法なんだ」


「なるほど、それでマラソンなんですのね。でも、それをしたからといって、敵の殲滅方法がどう変りますの?」


「簡単に言えば、各個撃破。つまりは、最初に囮役の人が引き連れた敵の中から1体を盾役の人引き抜いて、中央で殲滅するという方法をとるんだ」


「――あっ、わかりましたわ。その敵を倒したら、次の敵を引き抜いて1体ずつ倒していくのですね?」


「そそ。そうすることで、安全かつ効率的にクリアを目指せるんだ」



 どうやら、納得してもらえたらしい。

 さすがに盾役をこなしてきたということもあって、颯夏の理解力はゲームを始めた頃よりも良くなっている。友紘はそのことを実感しながらも、改めて颯夏に盾役の重要性を説いた。



「なので、今回の役どころとしてはオリエさんの立ち位置は重要だよ」


「はい、誠心誠意頑張らせていただきますわ」


「さすがにβ版のころのようなヘッポコ行動はないだろうけど……」


「もちろんですわ。私もあの頃のようなとんちんかんなことは致しません。むしろ、一皮むけて立派な盾役になったと大船に乗ったつもりでいてくださいまし」


「そう言われると、なんだか不安だなぁ~」



 ……本当に大丈夫だろうか?

 友紘は重要性を説いたつもりが、どうにもならないやるせない。しかし、祐鶴から「心配するな」と肩を叩かれて納得せざるえなかった。



 やがて、一通り作戦の確認が終わり、全員の準備が整った。

 友紘は決戦用にと持参したブースト効果のある串焼きを口にした。



「クルトさん、それなんですの?」



 すると、物珍しそうな顔つきで颯夏が串焼きについて訊ねてきた。友紘は、口のほおばった串焼きを租借すると、「これのこと?」と言わんばかりに颯夏の目の前に差し出した。



「桃猫亭の山串焼きっていうブーストアイテムだよ。これを食べると、攻撃系のステータスが上昇するんだ」


「へぇ~そうなんですか」


「あれ? オリエって、食料品って食べたことない?」


「ええ。クエストでもらったことはありますが、どんな効果があるのかというのは知りませんでしたわ」


「それなら、いい機会だし食べてみなよ。今回のボスは強いっていうし、食べておいて損はないと思うよ」


「そうさせていただきますわ。でも、どんなモノを食べたらいいのかしら?」


「オリエはどんなの持ってるの?」



 友紘がそう聞くとなり、颯夏がコマンドメニューからアイテムリストを開いた。

 とっさにアイコン化したアイテムが一覧となって現れる。

 友紘は、颯夏の横から覗き込むようにして所持品を確かめた。

 ディープマーマンの鱗、黄金甲虫の角、古代兵器の装甲板――どれも使わないであろうアイテムばかり。中には、回復系の薬品が含まれており、いざというときには役立ちそうな代物もあった。

 颯夏に次ページを開かせ、1つ1つ確認する。

 すると、ようやくお目当ての食料品が見つかった。



「――あった。このエンペラーツナの兜焼きってヤツがそうだよ」


「これって、どんな効果があるんですの?」


「主にVIT7%UP、命中率3%UP、ヘイト上昇率2%UP、MP自動回復+3だね。ナイトにはピッタリなんじゃないか?」


「クルトさんがそうおっしゃるなら。では、わたくしはこちらを食べさせていただきますわ」


「食事は、こういうボス戦とかで食べるようにした方が良いよ。普段から食べるのもありだけど、その分金がかかっちゃうからね」


「ご心配には及びませんわ。わたくし、お金には困りませんもの」


「……それ。リアルの話? ゲームの話?」



 ボケとも本気とも取れない発言に、友紘は苦笑いを浮かべて応じてみせた。



「じゃあ、準備が良ければ突入しますよ」



 そんな中、ヴァネッサの呼び声を上げて周囲に喚起していた。

 準備が整ったのだろう。

 周囲を見渡すと、全員が準備万端というような様子を見せている。友紘も慌てて偏屈王に挑む体制を整え、いつ突入されてもいいように事前に必要なスキルを発動させた。

 それから、ヴァネッサがタイミングを見計らって、敵の集団に飛び込んでいった。次に颯夏が動き、友紘はその追って後に続く。

 相対するのは、颯夏が引き抜いた近衛兵の1体だ。

 使ってくるスキルそのものは大したことがないものの、円形範囲の攻撃のうえに連発して放ってくるために厄介だ。しかも、喰らうとダメージ上昇のデバフまで付く。

 友紘は、敵の範囲攻撃のタイミングを逃すことなく避け続けた。



 それから、しばらく攻撃するとアッサリと近衛兵は倒れた。続けざまに、1体、また1体とモブに決められたルーチンワークを回避しながら殲滅していく。その際、颯夏がマラソンし続けるヴァネッサから敵を見事に引き抜いていた。

 開始前、マラソンの「マ」の字も知らない様子だったが、教えればさすがと言うべきだろう。

 友紘の心配をよそに戦闘は本命の偏屈王の殲滅に差し掛かっていた。



「オリエさん、盾役変わりますね!」



 そう言って、ヴァネッサが友紘たちの方へと向かって走ってくる。後方には、ずっと引き連れて走っていた偏屈王が追いかけてきている。

 どうやら、このまま戦闘を行うつもりらしい。

 直後に2人が入れ替わり、偏屈王との戦闘が開始される。友紘は2人が入れ替わりと同時に偏屈王に向かって、ボールを投げつけた。




「範囲攻撃が来るぞ!」



 直後、祐鶴の叫び声が聞こえてくる。

 それと共に偏屈王が広範囲に波及する魔法を唱える。

 なんらかの魔法らしく、日本語とも違う奇怪な言語をつぶやいている。すぐさま外周を中心に形成された円形マーカーが床面に現れ、それに合わせて詠唱ゲージが溜まっていく。

 友紘はゲージを見ながら、大急ぎで偏屈王の足元へと走った。

 瞬く間に魔法が放たれ、津波の如く炎が部屋中に円形に拡散する。出遅れたメンバーがいたのか、とっさに大ダメージを喰らってHPが激減する様子が見受けられた。

 しかし、攻撃はこれで終わりではない。

 とっさに足元に円形範囲のマーカーが現れ、一体に向けて攻撃が行われることを示す。

 友紘はすぐに足元を離れ、部屋の隅まで駆けた。さらにひっきりなしに部屋外周に小さな円形範囲のマーカーが無数に出現して、更なる攻撃が為されることを現す。

 



 ようやく攻撃が収まったのは、それからのこと。

 そこからは、攻防一体の連続だった。

 ある程度して、友紘は偏屈王のHPゲージを確かめた――残りHP5%。もうここまで来れば、後一押しという感じだろう。

 友紘はトドメとばかりにスペシャルスキルを発動させた。それにより、偏屈王のHPは1%という風前の灯火となる。



「あと一押しだ。みんな気合い入れていこう」



 と鼓舞するように叫ぶ。

 その甲斐あって、偏屈王のHPは全員で殴打によってたちまち削られていった。

 刹那、偏屈王が苦しみ出す――かと思えば、仰け反ってその場でうつぶせになって倒れた。

 友紘たちが勝利したのだ。



「よっしゃぁ~!!」



 おもわず叫び声を上げ、片手の拳を天高く突き上げる。

 周囲でも苦労の末に勝利したことを喜んでおり、イベント報酬を期待しているかのような声も聞こえてきた。しかし、それよりも友紘はどうしても感謝しておきたい人物がいた。

 スピカだ。

 とっさの機転、NPCとは思えないほどの行動力――それらを加味して、スピカの行動は十二分に賞賛に値するものである。

 それだけにすぐさま駆け寄って、声を掛けたかった。

 友紘は1人立ち尽くすスピカの元へ行き、感謝の念を伝えようと話しかけた。



「スピカ。さっきは助かったぜ」



 友紘の声を聞いて、スピカが振り返る。



「えっ、僕がですか……?」


「そりゃあ、決まってんじゃん。2ボスで崩れそうだったのをオマエのとっさの機転で助かったわけだし」


「いやぁ~それほどでもないですよ」


「謙遜すんなよ。ホントにあそこでスペシャルスキルを使ってくれなかったら、俺たちはとうの昔に全滅してたかもしれないんだしさ」



 友紘がそう言うと、スピカが目の前で照れくさそうに頭を掻いた。

 人ではないにもかかわらず、ここまで感情豊かだと大して変わりはない。そんな風に思えるぐらいスピカの顔には、喜びが溢れていた。

 周囲のお祭りムードもあってか、だいぶ調子に乗っているようだった。



「あんな状況でよく使おうって思ったわね」



 不意に誰かの声を耳にする――チラリと振り向くと、リリンが呆れた様子でスピカに語りかけていた。

 それに対するスピカの反応はうれしそうだった。まるで、主人に褒められることを期待する飼い犬のようにドヤ顔を誇示している。



「あっ、リリンさん! どうですか、僕の活躍見てくれました?」


「はいはい、褒めてあげますよ」


「やった~っ、リリンさんに褒められた」


「なんか超単純ね」


「えへへ……。だって、褒められるって素直にうれしいじゃないですか」


「そりゃそうね」


「なので、出来ることなら僕とお付き合いも……」



 とスピカが発した途端、間髪入れずリリンが「しない」と突き返す。

 そのやりとりを観て、友紘は苦笑いを浮かべてみせた。当のスピカは残念そうな顔を見せつつも、まだ諦めきれない様子。



(飼い犬をあやす主人みたいだ)



 それが友紘の印象だった。

 そんなとき、不意にボンヤリとした思い出が想起される。それは、かなり曖昧なモノであったが、とても温かく、微笑ましかったことだけが思い出せた。

 友紘は、とっさに思い出した記憶におもわずつぶやいた。



「なんか昔に見たようなある光景だよなぁ~」



 ところが、そのことがきっかけだったのだろう。

 不意にリリンが軽蔑の眼差しを向けてくる。



「はぁ~? なに1人でぶつくさ言ってんのさ――キモッ!」


「んだよ、オマエには言ってないだろ」


「言ってなくても、1人でつぶやいてる時点でおかしっつーの」


「なんだよ。オマエ、この前から俺に突っかかってきてるけど、いったいなんなの?」


「……別に。なんかアンタって、ウチと反りが合わないっつーか、なんつーか」


「んだよ、ソレ。それじゃあ、まるっきり意味わかんねえじゃねえかよ」


「とにかく、アンタのことは気に入らないの! つーか、口開くな」


「オマエこそ、いちいち突っかかってくんなよ」



 言いがかりに激怒する友紘。



「プレイヤーは、この世界から出て行け」



 そんな中での出来事だった――。

 不意に助っ人としてよんだ2人のATNPCのうち1人が聞き覚えのある言葉を発する。

 様子がおかしい。

 そのことに気付いて、友紘は呼び掛けた――が、なんの返答もかえってくる様子はなかった。それどころか、のらりくらりと、不気味な雰囲気で友紘たちの方へと向かってくる。



「な、な、なんなの……?」



 リリンが驚き、うわずった声で訊ねてくる。

 当然、友紘にもそんなことがわかるワケが無かった。



「知らねえよ。だけど、プレイヤーは出てけって言葉は、この前も聞いたばかりだぜ」


「どういうことよ? これも期間限定のイベントなの?」


「俺にもさっぱりわかんねえ。だけど、これは違うとしか言いようが……」



 そう言いかけた直後だった。

 突然、2人のATNPCたちがなにかに囚われたように友紘たちに襲いかかってきた。もちろん、友紘たちもただでやられてやるワケにはいかず、理解不能まま応戦し続ける。



「おい、やめろ。いったい何だって言うんだよ!」



 まるでゾンビ――。

 そんな印象を受けながらも、友紘は2人のATNPCに問いかける。けれども、2人の意識は元々なかったように、まるで最初から機械的であるかのように、友紘を攻撃してきた。






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