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GLOBAL SHOUT!  作者: 丸尾累児
Chapter2「ウチが好かれた相手はNPCって・・・なんだこりゃ」
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第2節「喧噪の中のダンジョン攻略/その2」


「オ、オリエ~っ!?」



 当然のことながら、友紘は驚かされた。


 なぜNPCオリエがここにいるのか――友紘はその答えが浮かばず、激しく狼狽えた。

 確かこの空間にいるNPCは、イベント専用に生成されたATNPCのはず。それ以外にいるとすれば、プレイヤーがスカウトリストに戦闘要員として呼び出したATNPCだけである。



 にもかかわらず、通常空間にも存在するキャラクターがここにいる。オリエの出現は、友紘の頭を余計にこんがらがらせた。



 NPCオリエがパタパタと近づいてきて、「お兄ちゃん」と甘い声で足元に抱きつく。

 友紘は、そうした様子に困惑した表情を見せた。ただでさえ、イベントダンジョン攻略中であるにもかかわらず、小さな女の子が自分を慕って抱きついてきたのである。

 その間にも、NPCオリエは友紘の両手を掴んで、「回して、回して」とせがんできている。まるでメリーゴーランドかなにかだと思っているのだろう。勝手にぶら下がって、1人はしゃぎ始めていた。

 当然、そんな状況を周囲が不審に思わないはずがない。


 友紘は全員から凝視されることとなった。



「……ク、ク、クルト君……その子供はいったい……」


「まさかクルト、オマエ……。オリエさんを無理矢理孕ませて生ませたんじゃ?」


「そ、そんなぁ~っ!? にぃーたが本性を現して、ケダモノになっていただなんて信じらんないよ」


「クックック……我は知っていたぞ。汝が虚無の言葉によって作られし、仮の姿だということを!」



 などと、勝手なことを並び立てている。

 友紘も風雷房の面々の言葉に「違えよ!」と強く言い返した。


 だが、NPCとはいえ相手は子供である。あらぬ誤解を解かなければ、しばらくこのネタでいじり倒されることになるだろう。

 友紘は、その危機感から説明することにした。



「……コイツは、NPCオリエ。確かに顔も、名前も、オリエソックリだけど、あくまでもNPCだからね?」


「……それにしても、ここまでそっくりだと偶然だとは思えんな」


「夕凪さんの言いたいことはわかるよ。でも、俺だってビックリしたんだし」



 と言って、足元のNPCオリエをチラリと見る。

 NPCオリエは、友紘の両腕をブラブラと揺らして遊んでいた。

 友紘が話しかける。



「……なあ、オリエ。どうして、オマエがここにいるんだ?」


「えっとね。オリエはね、なんか見慣れない建物があったからここへ来たの」


「見慣れない建物って……。ここインスタントフィールドはずじゃ?」


「いんすたんとふぃ~るどぉ――って、なあに?」


「う~ん、簡単に説明すると、オマエは入れない建物のことだな」


「えーっ!? オリエ、中には入れたよぉー」


「いや、確かにそうだけど。フツーは、ここに入れないの」


「なんでぇー?」


「な、な、なんでって言われても……」



 説明が付かない。

 そもそも、ただのプログラムでしかないNPCが制限の垣根を越えて、ここまでやってこれるモノなのだろうか? 友紘は説明する言葉が見つからず唸り声を上げた。

 そんな様子を見かねてか、不意に祐鶴が割って入ってくる。なにをするかと思えば、NPCオリエの前にしゃがみ込み、あやすように頭を撫でて諭していた。



「ふむ……。えっと、オリエちゃんと言ったかな?」


「そうだよ! オリエはオリエだよ――お姉ちゃんはだあれ?」


「私は、クルトお兄ちゃんの友達で夕凪と言う」


「夕凪お姉ちゃん……?」


「そうだ。すまないが、これ以上クルトお兄ちゃんを困らせないであげて欲しい」


「でも、まだ答えてもらってないもん……」


「きっとお兄ちゃんも答えを知らないのだろう。それでも、君はお兄ちゃんを困らせたいのかい?」


「うぅ~そんなことしないもん」


「ならば、私と約束してくれないか?」


「約束……?」


「つまり、『お兄ちゃんやみんなを困らせるようなことは絶対にしない』ということだ――守れるかい?」


「うん! わかった、オリエ約束する!」


「ありがとう。オリエちゃんはとても優しい子だな」



 と祐鶴が言って頭を撫でると、NPCオリエは無邪気に笑い始めた。

 その様子を見ていた友紘は呆気にとられ、夕凪の手腕に感心しきっていた。



「夕凪さん、凄いね。あんなに上手に子供をあやしちゃうなんて!」


「最近、近所に越してきた女の子と遊ぶ機会が多くてね。そのノリであやしてみたまでだ」


「どっちにしてもスゴいよ。俺なんか妹としょっちゅう喧嘩してるし」


「君の場合は、仲が良すぎて喧嘩するのではないか?」


「まあ、たぶんそうだね」


「とにかく、いまは攻略を優先しよう。戦闘になったら、出来るだけあの子の面倒も見てやってくれ」



 そう頼まれ、友紘は「わかった」と返事をかえした。

 間もなく、停滞していた隊列が動き出す。友紘は、先頭を行く2人のタンクからわずか離れた背後を歩き、時折幼いNPCオリエの様子を見ながら進んだ。



「ヒューミントが失敗した以上、ここから先は力押しだ。各員、気を引き締めて掛かってくれ」



 そのうち、祐鶴が全員を鼓舞するようなことを言ってくる。友紘は鼓舞の言葉に従い、道すがらやってきたモブとの戦闘を開始した。

 このイベントは、偶然古代の財宝を手に入れた蛮族の長が北方の要塞都市を占領したというシナリオで始まる。そのシナリオに沿ってか、出没するモブは蛮族の戦士や飼い馴らされた巨大な猛獣などが主敵であった。



 無論、友紘たちの前にやってきたのは重厚な鎧を纏った6人の戦士。それに付け加え、戦闘用に使役されたと思われる虎や獣人の魔術士までいる。

 友紘は、クロススキル『バウンドシュート』を発動させて迎え撃った。

 バウンドシュートは、その名の通り7~10回のランダムで決められた回数だけボールを当てるスキルである。しかも、幾度か命中させると、1ヒットごとに1%の回避率を下げるデバフを付与する。さらに投擲手には、装備したボールの種類によって、上限付きながら独自の追加効果を発揮する能力まであった。



 いま友紘が装備しているのは、アシッドボールと呼ばれる防御力低下効果のあるボールである。



 そうした効果のおかげか、あっという間に1体のモブが倒された。次のモブも、また次のモブもデバフの支援効果のおかげで倒れていく。友紘のジョブである投擲手とは、強力なダメージソースが出ない代わりに多種多様なデバフを武器とした支援系DPSだった。


 もちろん、強いダメージを与えられるクロススキルもある。



「クロススキル発動――『弾丸烈風衝(キャノンボールブラスト)』っ!」



 いま友紘が放ったスキルは、防御力と攻撃力に与するステータスの比率計算をしたダメージを与えるスキルだ。無論、ダメージがマイナスにならないよう補正も掛かっており、ユアたんとの一戦では最後の一撃として使用された。

 それらを駆使して、側面から戦闘に寄与する。

 やがて、雑魚を倒しつつ先へ進むと最初のボスエリアにたどり着いた。



 相手は猛獣使い。

 町の大広場に現れたサーカス団というコンセプトなのか、背後には巨大なテントがあり、左右にはそれと同等の獣の目が光る檻が4つ並べられていた。



「なんだか『俺を倒したくば、まずは配下の四天王を倒してみろ』って言ってるみてえだな、おい」



 エリアの入り口に立ったとき、泰史がそんなぼやきを呟いてきた。

 友紘は泰史のぼやきに対し、演技じみた冗談を返す。



「……フッフッフ。ヤツめ、倒されてしまいおったか」


「おっ、そりゃアレか? 『ヤツは四天王の中でも最弱』とか言うヤツかい、クルトどん」


「まあね。でも、相手は獣系のモブだけどね」



 などと言っているうちに一党が戦闘に突入し始めた。



「冗談はさておき。俺らも行きますか」



 と言って、ボスめがけて勢いよくボールを投げつようとする――が、寸前のところでズボンの裾を捕まれたことで、友紘は攻撃を止めてしまう。

 何事かと思い、下を俯くとNPCオリエが愛らしい笑顔を差し向けていた。



「ねえ~ねえ~。オリエはなにをすればいいのぉー?」



 そう話しかけてくる。

 対する友紘は戸惑いを見せた。



「あ、いや……なにもしなくていいよ」


「えぇーっ!? オリエも戦うもん!」


「つったって、オマエはなにができるんだよ?」


「なにって……?」


「だから、戦うための武器とか味方を支援する魔法とか」


「ん~オリエ、そんなの使えない」


「……ダメじゃん……」



 そんな風に友紘が漏らしていると、とっさにオリエに向かって話しかける声が聞こえてくる。振り返ってみると、長い杖を手にしたアウラが遠目から覗き込むようにしてオリエを見ていた。



「オリエちゃん、後ろで応援しているのも立派なお仕事だよ」


「そうなの?」


「……うん。応援ってね、みんなにとって励みになるし、なにより心が温かくなるんだよ」


「温かくなるの~?」


「もちろん。そしたら、オリエちゃん『ありがとう』ってみんなから言われるかもしれないよ?」


「わかった! じゃあ、オリエ応援する!」



 なんと単純なことだろう。

 オリエは、アッサリとアウラの言うことを聞いてしまった。しかし、それ以上にオリエをあやしてしまったアウラの手腕は祐鶴同様に尊敬に値する。

 友紘は、アウラに感謝の言葉を述べた。



「助かったよ、アウラさん」


「オリエちゃんは、私に任せてください。クルトさんは、虎の殲滅を引き続きお願いします」


「了解。それより、回復の方は大丈夫?」


「いまのところ、ATNPCのプリーストさんのおかげで間に合ってます。でも、少しずつきつくなるから、クルトさんのこちらに負担掛けないようにガンバってくださいね!」


「アハハハハ、努力するよ」



 そう言って、苦笑いを浮かべる。

 しかし、すぐに友紘は身体を反転させ、猛獣使いの方を見た。すでに戦闘は開始されており、いつのまにか猛獣使いの他に象や熊といった巨体が出現している。



 友紘は遅れまいと、再度ボールを投げつけた。



 だが、あろう事か、突如現れた巨大な黒い影にボールをはじき返されてしまう。しかも、そこには10メートルはあろう大岩の如き虎の姿があり、『ObeyingTrigger』というネームタグが添えられている。

 友紘は、ObeyingTriggerのあまりの大きさに驚かされた。


 とっさに咆哮が上がる。ObeyingTriggerはそのけたたましい咆哮をとどろかせ、まるでパーティメンバーに跪けと言わんばかりの態度を示していた。

 友紘は、あまりに強烈な絶叫にたちまち耳を塞がざるえなかった。



「んにゃろめ。バカでけぇ声出しやがって!」



 巨大な咆哮に文句を言いながらも、弾き返ってきたボールを拾う。それから、再度ObeyingTriggerに向かってボールを投げつけた。

 すると、不意に泰史が右側を通り過ぎた。



「どけっ、クルト!」



 と言って、目の前を駆けて行く。

 友紘がその様子を注視していると、突然泰史はObeyingTriggerの首筋に向かって飛び上がった。そして、『九字護身法』と呼ばれる経文を読み上げ始める。

 同時に人差し指と中指を伸ばし、残りの三指を閉じて刀印を結ぶ。印は、目に見えないほどの速度であっという間に結ばれ、次の瞬間にはボイスコマンドによる入力が行われていた。



「ノーマルスペル発動――『火遁の術』ッ!」



 泰史がそう叫ぶと、口元からボワッとなにかを吹き出された。それは、直線的に伸びる火炎放射器のような火で、ObeyingTriggerの首筋だけでなく顔も巻き込んで焼き尽くそうとしていた。


 とっさにObeyingTriggerの顔が苦痛にゆがむ。


 それを勝機と捉えてか、泰史が手にした小太刀で剛毛に覆われた柔らかな皮を削ごうと構える――が、その攻撃は衝撃波を含む咆哮にまたも阻まれた。

 そのせいだろう。

 泰史は衝撃波に吹き飛ばされながらも、上手く方向転換して友紘の前に戻ってきた。一部始終を目の当たりにし、友紘は連続した近接攻撃が咆哮によって防がれてしまう事実を知った。

 そして、膝を立てて屈む泰史に近づいて語りかける。



「大丈夫か、クロウ?」


「くそっ! 咆哮が衝撃波の役目を果たしてるのか、全然近づける気配がしねえ」


「だったら、俺がアイツの注意をボールで引きつける。オマエは、なんとかアイツの柔らかい皮膚を引き裂け」


「何度も同じ手は通じねえぞ?」


「1回きりだったとしても、ダメージを与えられないよりよっぽどマシだ!」



 その説得に泰史が意気揚々に返事をかえしてきた。友紘は合図と言わんばかり助走を付け、再び巨大でどう猛な虎に向かってボールを投げつける。



「クロススキル発動――『ブームスタンシュート』ッ!」



 放たれたボールは、鉄球のような重みを咥えてObeyingTriggerの頬を歪めた。

 その隙を見た泰史が再び目の前で飛び上がる。

 まるで空を掛けるが如く、泰史は残像を残しながら、怯む虎に向かっていく。やがて、ObeyingTriggerの袂に達すると、泰史はその毛深い皮膚を裂いていた。

 瞬時にObeyingTriggerの形貌がガラスの如く粉々に砕ける。



「よしっ! こっちは完了!」



 その様子を目下で見ていた友紘は、親友の渾身の一撃におもわず声を上げてた。だが、まだ本丸である猛獣使いが残っている。

 他方を振り向けば、颯夏がボスである猛獣使いと正面から対峙していた。

 しなる鞭が攻撃を当てようと、颯夏に向かって伸びていく。それに対して、颯夏は自分の半身を覆い隠すほどの盾で防いごうとしている。さらに別の方向を見ると、祐鶴や光紗姫、リリン、ヴァネッサ、スピカらが次々と現れる猛獣の相手をさせられていた。

 後方を振り向けば、アウラがATNPCのプリーストと共に全員のHPに気を配りながら回復に専念している。

 NPCオリエはその足元に。


 周囲を一望し終えると、友紘は残っているモブの殲滅に取りかかることにした。

 そして、同調させようと泰史に声を掛ける。



「クロウ、夕凪さんたちの方を手伝うぞ」


「あいよ!」


「んじゃま、行くぜ」






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