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GLOBAL SHOUT!  作者: 丸尾累児
Chapter1「ウチの超ハッピーゲームライフじゃん!」
45/53

第5節「スピカ/その1」


 2人のオリエの諍いに巻き込まれた友紘――。


 あれからどうなったかと言えば、小一時間ほど口論が続いて終結を見た。内容はまったくもって子供じみた内容だったが、2人のオリエにとっては重要なことだったのだろう。

 オリエとNPCオリエは、それぞれ不機嫌そうな顔で町の南北に向かって去って行った。

 友紘は当初の目的も果たすことが出来ず、荷物も預かったままホームタウンへと帰ってきたのである。もちろん、そのときには精神的にぐったりと疲れ切っていた。



 それから、数日後。



 友紘は、いつも通りの時間にログインした。

 先日のこともあり、気分はやや憂鬱。すっぱり忘れ去ろうにも、NPCオリエの件がこびりついた汚れのように頭から離れずにいた。そんな折、ホームタウンの入り口でアウラを見かける。

 誰かを待っているのか、落ち着かないで様子で立っていた。



「アウラさん?」



 友紘が声を掛けると、気付いたアウラが助けを求めるように近づいてきた。



「クルトさん、オリエさんと一緒じゃなかったんですか?」


「えっ、オリエ?」



 どうやら、オリエを探しているらしい。

 様子から察するに、メールを出しても返事が返ってこなかったのだろう。友紘はそのことを推察して、アウラに返答をした。



「……えっとね、たぶんもう少ししたら帰ってくるよ」


「もう少ししたら? オリエさん、なにかあったんですか?」


「いや、ちょっとね……」



 さすがにオリエに似たNPCの子供が現れたとは言えない。

 友紘は、先日のこと思い返しながらも笑って誤魔化した。




 ふとNPCオリエの顔が頭をよぎる。

 偶然にしては顔が似過ぎているあの少女。あの後、いったいどこへ行ったのだろう? しかも、顔が似ているだけでなく、名前まで同じとは……。

 友紘はそのことをボンヤリと考えてみた。けれども、唐突にアウラに話しかけられてたため、そうした行動は数秒のうちに終わった。



「あっ……ゴメン。えっと、それでどうしてオリエを探してたの?」


「実は、先週からオリエさんと1週間POPのHNMを見に行こうって約束してたんです」


「1週間POPのHNM?」


「八岐大蛇ってHNMなんですけど、クルトさんはご存じですか?」


「もちろん、知ってるよ」



 八岐大蛇――。

 それは激レア武器の1つに数えられる『草薙の剣』をドロップするモンスターである。

 いまのところ装備できるのはナイトのみ。しかし、拡張ディスクで『侍』が新ジョブとして追加されれば、争いは必須と言われたほどの攻撃に特化した強力な武器だ。

 ただ、八岐大蛇自体も1週間に1回しか沸かないため、ドロップ率の低さも相まって現在でも厳しい競争が続いている。



「それを2人で見に行こうって約束してたんですけど……」


「ちなみにPOP時間は?」


「実はもうすぐなんです」


「それでソワソワしてたのかぁ~」


「オリエさん、呼び掛けても返事が返ってこないんですよね」


「ちょっと待ってて……」



 アウラの言葉を聞き、コマンドメニューを開く。

 そこからフレンドリストを開くと、颯夏の接続状況を見た。すると、離席という文字が躍っており、颯夏が活動していないことを示していた。



「いま見たら離席状態になってるね。アイメットを脱いで、リアルで席を外してるんじゃないかな?」


「あれ? 私はさっき見たときはオンラインだったんですけど……」


「タイムラグっしょ。そのうち戻ってくるよ」



 と話していると、不意に後ろから誰かに呼び掛けられた。

 友紘が振り返ると、泰史が「なに話してるの?」と歩きながら話しかけてきた。どうやら、生産系ジョブの1つである漁師として活動してきたところらしい。

 左肩に釣り道具を担いでいる。



「アウラさんがオリエを探してるんだって。でも、ステータス見たら離席になってたから、いまそのことを話していたところ」


「ふ~ん、2人でどっか行くところだったとか?」


「八岐大蛇を見に行くんだってさ」


「……八岐大蛇? ああ、HNMのヤツね」


「ヒマなら、オマエも一緒に見に行かないか?」


「構わねえけど……。肝心のオリエさんが帰ってきてねえじゃん」


「待ってたら、すぐ帰ってくるでしょ」



 などと話していると、ふと視界の端に光るモノが映り込む。


 それは、移送結晶(トランスファ)と呼ばれる石の光だった。

 移送結晶は行ったことのある場所の位置情報を刻印することで、簡単に移動することができるエターナルファンタズムにおける移動手段である。

 その移動手段を使って、誰かがやってきた。

 友紘はそのことを察して、顔を差し向けた。すると、明るい光の中から鎧を着たニューマンの少女が姿を現す。それがすぐに颯夏だと気付いて大きな声で出迎えた。



 とっさに颯夏が駆け寄ってくる。

 その様子からは、とても急いでいることがうかがい知れた。友紘に目もくれることなく、颯夏はアウラの方へと近づいていく。



「ゴメンナサイ、アウラさん! わたくし、すっかり忘れてたモノですから……」


「いえ、まだHNMはPOPしてないみたいですよ」


「よかったぁ~。なら、まだ約束は守れそうですわね」


「そう焦らなくても、私は大丈夫ですから」


「けど、せっかくアウラさんにお誘いいただいたのに……」


「ダメだったときは、また後日一緒に行きましょう」


「本当に申し訳ありません」


「オリエさん、そんなにかしこまんなくってもいいんですよ」


「で、ですが……。それでは、わたくしの気が収まりませんわ」


「それに知り合いの人がHNM狩りに参加してるので、いつPOPするとか情報貰ってますから。都合さえ合えば、またいつでも行けますって」



 と颯夏が安堵の表情を浮かべる。

 それを見て、友紘は横から割り込んで声を掛けた。



「あのさ、俺たちも一緒に見に行っていいかな?」


「構いませんけど……。クルトさんたちも、一緒にいらっしゃるんですの?」


「お邪魔じゃなければ。最近、レベル上げやらスキル上げばっかりだったからさ、今日はまったりしようと思うんだ」


「わかりましたわ。じゃあ、ここにいる全員でHNM見学ですわね」


「そうだね。とりあえず、行こうか」



 そう言うと、友紘は全員の音頭を取って一路HNMがPOPするフィールドへと移動することにした。





※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 ポラン聖公国から西に370キロ進んだところに『ブルーウィンド高地』というフィールドがある。

 まるで土に逆さに植わったナスが列をなしたような山が周囲にそびえ立ち、草花が生い茂る高原が低地に向かって傾斜している。

 友紘たちは移送結晶を使って近くの町まで移動した。そこから馬を使い、ブルーウィンド高地までやってきたのである。



「このあたりで八岐大蛇がPOPするみたいですね」



 たどり着いて早々、アウラがPOP場所を指し示した。

 周囲を見渡すと、無数の小さな円丘がラクダのコブのように波打って並んでいる。その一角に20~30人ほどのプレイヤーが集まっていた。

 どうやら、あの集団がHNM狩りを行う集団らしい。

 友紘が来た際には別の集団も来ていたが、サイコロを使った占有権交渉で負けたのか、ガックリと肩を落としてそそくさと去って行った。




 一党はすでに準備を終えて、POP待ちをしている。



 友紘たちはそこから少し離れたところで、ジーッとHNMがPOPするのを眺めていた。



「スイマセン、見学させてくださ~い!!」



 やがて、アウラが了解を取ろうと叫び声を上げる。

 その声は相手にしっかり届いたのか、すぐに「はーい」という返事がかえってきた。友紘はそうしたやりとりを横目で見ながら、HNMのPOPをいまかいまかと待ち望んでいた。


 ところが、1時間しても八岐大蛇は現れなかった……。


 それどころか、全員が待ちくたびれた様子で周囲の低レベルモンスターを狩り始めている。友紘たちもまたそうした様子に釣られるようにモンスターを狩りだした。



「なかなかPOPしないんですのね……」



 と、颯夏が溜息交じりに言葉を漏らす。

 やや疲れた表情からは、行ってすぐに見れるモノだと思っていたということが垣間見える。友紘もそうした気持ちを理解し、遊園地の人気アトラクションを長時間待っている気分になった。

 そのうえで、颯夏に同情して語ってみせた。



「こういうフィールドNMが時間通りに沸かないなんてのは、よくあることだよ」


「そうなんですの?」


「オリエは、NM狩りってやったことないんだっけ?」


「そういうのがあるというのは存じてましたが、狩るという行為はないですわねぇ~」


「それじゃあ、知らないのも無理はないよ。とにかく、まだ時間は掛かるからテキトーに時間をつぶしておこう」


「では、わたくしは向こうの方でドロップアイテムの収集でもしてきますわ」


「オッケー、いってらー!」



 友紘がそう言うと、颯夏は西の方へと歩いて行った。



「じゃあ私もHNM狩りに参加してるフレの方のところへ行ってきます」



 さらに続けとばかりにアウラが去って行く。

 友紘は「了解」と返事をすると、アウラの背中を見送った。

 それから、しばらく友紘は泰史と共に八岐大蛇が沸くのを待ち続けた――が、しばらくしても八岐大蛇が沸く気配はなく、待ち惚けを喰らったという空気が流れ出した。



(長期戦も止むなしか……)



 そう考えた友紘は草生す傾斜の地面に座ってくつろぐことにした。そして、仕方なしとばかりにアイテムボックスから魔法瓶に入ったミルクティーとバームクーヘンを取り出して食し始めた。



「おっ、なんだよ? 俺にも食わせろよ」



 当然、そんなモノを食べ始めれば、隣にいる泰史が気付かないはずがない。友紘が「いる?」と言って差し出すと、泰史は当たり前だと言わんばかりに座った。

 それから、ミルクティーとバームクーヘンを手渡して2人で食べ始める。




「なあ、クルト」



 そんな中、泰史がおもむろに口を開く。


 顔を向けると、なぜか泰史は口をもぐもぐさせながら遠くを見ていた。しかも、どこか照れくさそうにしており、話すことを憚っているようにも思える。

 友紘は何事かと訊ねた。



「ん? なんだ?」


「オマエってさ、オリエさんと付き合ってんの?」


「ブホ……ッ!!」



 唐突な質問におもわずむせた。

 そのせいでバームクーヘンを喉の奥に詰まらせた。とっさにミルクティーを口に含んで事なきを得たが、それぐらい突拍子もないことだったのだろう。

 しかも、颯夏との関係を親密な仲だと疑われている。

 友紘は狼狽しながらも反論してみせた。



「ね、ね、ねぇーよっ!! つーか、なんでそんな話になんだよ」


「いや、だってよ。オマエら、リアルでもなんかあったっぽいじゃん?」


「……んな話、どこで聞きつけてきたんだよ」


「委員長!」


「あのおしゃべりめっ……」



 とっさに祐鶴の顔が頭に浮かぶ。


 なにかの嫌がらせか? それとも、祐鶴の悪巧みか? いずれにしても、祐鶴の不敵な笑みが容易に想像できる。問題なのは、泰史に知れてしまったことだろう。

 友紘は目眩のする頭を抑えながらも、素直に白状することにした。



「ちと過去にオリエと出会ってたことがあったんだよ。んで、そのときのことをオリエが覚えてたってだけ」


「おっ、なんだ……。言いつくろわねえのか」


「言いつくろったって、オマエに茶化されるに決まってんだろ」


「ウヒヒぃ~、まあな」


「……勘弁してくれ」


「まあ、冗談、冗談!」


「っていうか、こんな話聞いてどうするつもりだったんだよ?」


「いや、なにも?」


「……は?」


「ホントはさ、オマエの言うとおりだ。2人が出来てんだったら、茶化すつもりではいた」


「んだよ、やっぱり茶化すつもりだったんじゃねえか」


「いやぁ~わりぃな。でもな、そうじゃなかったら、それで終わらすつもりでもいたし」


「それで終わらせるって……?」


「平たく言えば、ネタにならないから『終了』ってことだな!」


「……オマエ、それ。かなり立ち悪いぞ……」



 と言って、泰史に蔑みの目を向ける。

 だが、しかし当人はあっけらかんとした表情を見せた。悪そびれる様子も、反省する様子もなく、ただ1点からかいたいだけだったらしい。

 そのことを知って、友紘はさらに顔をしかめた。



「ク、クルトさぁーん! 助けてくださいまし!」



 ふとオリエの声が聞こえてくる。

 なにやら、尻に火が付いたような声で呼んでいる。すぐさま振り返ってみてみると、驚いたことに颯夏は巨大な8つの首を持った蛇型のモンスターを従えてこちらに向かってきていた。

 それを見て、友紘は両目が飛び出さん勢いで驚いた。



「ぎぃゃゃゃややややややや~っ!!」



 なぜなら、颯夏の後ろを付いてきていたモンスターはHNM『八岐大蛇』だったからである。おそらくPOPするとされている範囲ぎりぎりのポイントで雑魚モンスターを狩っていたのだろう。

 そして、唐突に沸いた八岐大蛇を雑魚モンスターと勘違い。挙げ句の果てに攻撃を仕掛けて、ようやく気付いたと行ったところか。



 ふと周囲の視線に気付く。


 友紘は泡を食ったような声で泰史に助けを求めた。



「お、お、お、おい、クロウッ!! 忍者の身代わりの術でオリエからヘイトを奪えっ!」


「あん……? 身代わりの術で?」


「そうだ!! 忍者と魔術士のクロスアビリティ『早駆け』で逃げればヘイト切れるだろっ!?」



 とっさに思いついた方法を提案する。

 忍者の身代わりの術とは、触媒を使って味方の敵対心(ヘイト)を奪って自分のモノにする術である。そして、奪った敵対心を魔術士とのクロスアビリティ『早駆け』で回避率と移動速度を上げ、瞬時にその場を離れて敵対心を着るというモノだ。

 それさえできれば、HNM待ちをしていた一党から恨まれることもなくなる。そう考え、友紘はひたすらに泰史の答えを待った。



 ところが――。



「無理。サポシっ!!」



 すぐに泰史から天使のような微笑みで返答が為された。

 しかも、右拳を握って親指を上向けている。

 ネタであれば、「うは、おk」とWの小文字を草原の如く文面に生い茂らせて返すべきところだろう。けれども、周囲の突き刺さるような視線がそうはさせてくれなかった。

 友紘は憔悴しきった様子で、泰史の身体を揺さぶって怒鳴りつけた。



「うぉぉおお~い! どーんすんだよ、この状況っ!!」


「し、し、知らねえよ! 俺だって、オリエさんがアレをただのモブだと勘違いして、釣っただなんて思わねえもん!」


「思わねえじゃねえっ、なんとか助けろ!」


「助けろつったってなぁ~」


「なんだよ……?」


「アレ見てみろ」



 と言われるがまま、右手の方を向く。


 すると、そこにはすでに亡骸となったオリエが倒れていた。

 完全にHPは0――ちょっと目を離した隙にやられてしまったらしい。しかも、必死に回復しようとしていたアウラに敵対心が移ったらしく、必死に逃げていた。

 だが、紙のような防御力のプリーストが逃げ切れるはずがない。

 アウラはむなしくも300メートル先のところで、八岐大蛇が拭いた炎に包まれて死んだ。

 それを見た友紘は叫ばずにはいられなかった。



「アウラさぁーんっ!!」



 結局、オリエはアウラを巻き込んで死んだ。

 幸いにも、友紘と泰史は攻撃を仕掛けていなかったため、反撃されることはなかった。代わりに押し寄せたのは背中越しに突き刺さる視線だった。

 友紘はすぐさま帰ろうとしたが、死んでしまった2人を放置しておくわけにもいかなかった。

 そんなとき、燦がログインしてきた。友紘はグループチャット越しに救援を請い、燦にどうにか蘇生してもらって帰宅の途に就いた。






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