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GLOBAL SHOUT!  作者: 丸尾累児
Chapter3「お嬢様、現実は厳しいモノでございます」
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第5節「リベンジと仲違い/その1」


「槻谷君にお話がありますの。お食事が済んでからで構いませんので、少しばかりお時間をいただけませんか?」



 と告げられたのは今朝方のこと。

 教室に入ってきた友紘は寒さに尿意を催し、鞄を席に置いてトイレへと急ごうとした。しかし、教室の後ろの扉のところで登校してきた颯夏と鉢合わせてしまう。


 もちろん、真っ先に浮かんだのは先日の一件だ。


 友紘はなんとなく気まずさを感じて、一言だけ謝って避けていこうとした。

 そんなときに呼び止められ、口に出された言葉がソレだった。



(まさか山吹さんの方から話しかけてくるなんて……)



 予想外の出来事だった――

 むしろ、聞かなきゃいけないのは自分である。

 友紘はそう思っていただけにとても驚かされた。しかし、逆を考えれば、きちんとやめてしまおうと思った理由を聞くことができる。


 その考えの元、そそくさと昼食を終えると颯夏と共に学習棟へと行く。

 それから、3階東奥にある多目的教室の前で面と向かい合った。ところが思うように言葉が出ず、二言、三言口にしただけで会話は続かなかった。

 颯夏も言葉が出ないのか、俯いた状態でチラチラと上目遣いで見ているだけだった。


 あまりの気まずさにどうにか話をしようと試みる。



「……さ、寒いね?」



 しかし、友紘が発することができた言葉はその一言だけだった。

 なにを話したらいいのかわからず、とりあえず的に切り出したものの、会話が長続きするとは思えなかった。それだけに友紘は話題の選択に失敗したと思った。



「え、ええ……。もう11月も後半ですし」



 ところが颯夏が話に食いついてきた。

 きっと颯夏なりの気遣いなのだろう。友紘はそれを口実に話をしようと語り出した。



「山吹さんは寒いの苦手? それとも暑い方がいいのかな?」


「苦手と言うほど、苦手ではありませんわ。確かに温暖の差でお腹を壊してしまうことありますけど、冬の雪が降ったときの真っ白な情景は好きですの」


「あ~わかる。雪の降った時ってさ、なんか妙に心なしか気持ちが騒がしくなるんだよね」


「そうですわね。幼い頃は、よく姉とお屋敷の庭で雪合戦をしたものです」


「雪合戦かぁ~。楽しそうだね」


「他にも家族でスキーに出かけることもありますわ」


「スキーもうらやましいな」


「あの槻谷君……。そろそろ本題に入ってもよろしいかしら?」


「あっ、ゴメン。そうだったね」



 あまりの話題の弾み具合につい本題を忘れてしまう。ようやく話をすることができたが、だいぶ脱線してしまっていたらしい。


 友紘は1度だけわざとらしい咳払いをして、颯夏の話を聞くことにした。



「お話というのは、エタファンのことです」



 と、颯夏が短く言葉を切り出す。


 友紘はそのことに「ああやっぱり」と心の中でつぶやいた。なにせファミレスのときは、一方的にやめる宣言されてしまったのだ。

 その理由を質さずにはいられない。

 友紘はまくし立てようとする気持ちを抑えつつも、ゆっくりとした口調で颯夏に問いかけた。



「どうしても、やめちゃうの?」


「……はい。実は皆さんには言っていなかったのですが、わたくしのお屋敷はとても古い考えを持った家柄なんです」


「古い考え?」



「簡単に言うなら、テレビは良識ある大人になるまで見てはいけないとか子供のうちはたくさんの本を読んだり、習いごとをして立派になるように努めなさいとか、そういう決まり事のことです」


「にわかには信じがたいけど……。そんな家ってホントにあったんだ」


「ええ、親しくしていただいた方には一応ご説明させていただいていたのですが」


「……あ、そっか。ネットゲーだと、あんまりリアルな話をしちゃいけないって言ったからだよね」


「その通りですわ」


「ゴメン、まさかそんな家の事情があるなんて知らなくて」


「いえ、槻谷君が悪いわけではないのです。むしろ、わたくしがきちんとお話ししなかった方が悪いんです」


「だけど、よくアイメットを買ったり、会社を買収したりなんて真似ができたね?」


「それはお父様の方でそういう話があったモノを誇張していっただけですわ――まあ家の名義で与えていただいた株を売却して買収に荷担したというのは事実ですが」


「……うん、それだけでもスゴいと思うよ」


「でも、アイメットを買ったこと自体は秘密だったんです」


「ってことは、フェニックス社を買収したのはカモフラージュかなにか?」


「はい。お父様にそう言っておくことで、会社の製品モニタリングという建前もできましたし」


「それで時間がかかってたのか」


「あのときは、本当に槻谷君に申し訳なかったですわ。でも、お父様の目を誤魔化すにはそれしかないと思いましたの」


「だけど、結果的に山吹さんはゲームを楽しめたじゃないか? なんとか事情を説明すれば、これからだって一緒にプレイできる可能性はあるんじゃないの」


「それがダメなんです」


「どうしてさ?」


「実はファミレスでオフ会をやっていた時点で、他の習い事がおろそかになりつつあったんです。しかも、あのときお姉様に見つかったせいもあって、お父様たちからは『もうやめなさい』ときつく言われてしまいましたの」


「それじゃあ、もう二度とできないってこと……?」



 友紘の一言に颯夏が目線をそらす。

 ここまで話を聞いて、友紘の中にはどうしても腑に落ちないことがあった。それは、言葉でいっさい語られていない颯夏自身の気持ちである。

 出てくる言葉は、家の事情だから仕方がないだとか、父親がやめろというからやめるというモノ。まるでそれらを盾に言い訳をしているようにも聞こえる。


 だから、友紘はどうしても颯夏の気持ちが知りたくなった。



「だとしても、山吹さん自身の本心はどうなのさっ!?」


「……わたくしの……本心ですの……?」


「そうだよ! 山吹さんは本心で語ってないじゃん。みんな家がそういうからとか、そんな話しかしてないよ?」


「ですが、家の決まり事は絶対ですし」


「絶対ってなに? そんなに守らなきゃいけないモノなの?」


「それは……」


「俺からしたら友達との関係をないがしろにして、家の事情だから仕方がないなんてあり得ないよ。ねえ、もう一度聞いてみることはできないの?」



 そう友紘が問いかけると、途端に颯夏は黙り込んでしまった。


 まるで「わかってる」と言いたげだった。

 だが、それは家の事情であるのだから変えようがない――そんな風に言っているにも思える。それでも、友紘はどうにか説得を試みることにした。



「せっかくレベルキャップ近くまでプレイしたんだよ? ここまで来てやめるなんてもったいないじゃないか」


「槻谷君のおっしゃりたいことはわかります。ですが、お屋敷のルールを乱すなんて、そんなことできませんわ」


「だったら、ご両親を説得してルールを変えてもらえるよう頼んでみようよ」


「ですから、無理なんですの。もし、保守的な両親がまたゲームをやろうとしてるなんて知ったら……」


「なにも話さないうちから諦めるなんておかしいよ。ちゃんと話して、それからだって――」



 と言いかけた途端。

 「もうやめてください」という語気を強めた言葉が発せられる。

 それは颯夏が友紘の言葉が拒否して言い放ったモノだった。

 理由はわからないにしても、説得を試みていた友紘がそれを聞いて茫然としないはずがない。唐突な颯夏の怒声にポカーンとした表情を浮かべていた。


 颯夏が立て続けにまくし立てる。



「槻谷君にはわかりませんわっ! ただわたくしは槻谷君とお話ししたかっただけなんですもの!」


「は……? 俺と話したかった?」


「ええ、そうですわ。なにもかも最初から槻谷君が目的でしたの――でも、肝心のアナタはなにもわかってらっしゃらない」


「わからないって……。そりゃあ言ってくれなきゃわかるわけないじゃないか」


「ええ、そうですわね。なにもかもわかってくれない槻谷君が悪いんですものね?」


「んだよ、その言い方は。だったら、最初からそう言えばいいだろっ!?」


「言えませんわ、そんなことっ! わたくしにも話すタイミングというものがあるんです……なのに、槻谷君はゲームの事ばかりお話になって、せっかくお話できたとしても知らぬ存ぜぬなんですもの」


「じゃあどうしろって言うんだよ!」


「少しぐらい待ってくれたって良かったじゃありませんか!」


「んなの、ちゃんと口で言わないとわからないだろ?」


「少しぐらい察してくださいまし。どうして、それがわからないんですか!」


「ああ、わかんないね。山吹さんのことなんて、これっぽっちもわからないよ」


「槻谷君の分からず屋っ」


「山吹さんには、言われたくないよ!」


「ええ、そうですわね! もう槻谷君のことなんか、これっぽっちも知りたいと思いませんし」


「こっちも願ったり叶ったりだ。一生、ゲームなんかやんな!」



 声に出して怒りを露わにする友紘。

 それぐらいいまの颯夏は憎たらしかった。

 憎たらしいからこそ、離れて歩きたくもなる。

 友紘は、颯夏を置いて1人で教室に戻ろうとした。しかし、不意に同じ方角に向かって歩いていることに気付かされ、その足を止めざるえなかった。

 とっさにその理由を颯夏に尋ねる。



「どうして付いてくんのさ」


「同じ教室なのですから、仕方がないことじゃなくて?」


「ああ、そうだね。だったら、俺は別の方向から帰るよ!」



 意地でも颯夏と一緒に帰りたくない。


 友紘はその気持ちを前面に押し出して、廊下を颯夏と競うように歩いた。それから、踊り場から1階まで階段を一気に駆け下りた。

 颯夏は2階にある空中廊下へ向かったらしい。「ふんっ」と怒りを露わにしていたが、同じ気持ちを抱いていた友紘にはどうでも良かった。


 友紘は、翌日からなるべく颯夏と顔を合わせないように努めた。

 当然、そうした態度は言動に出やすい。すぐに心配した泰史や祐鶴に問われることとなった。しかし、それでも友紘は「心配ないよ」の一点張りで通した。


 喧嘩したと丸わかりの態度であるにもかかわらずに――である。






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