第3節「海底大空洞に挑め!/その3」(15/04/02/ミリアをソニアに修正)
驚嘆する友紘をよそに祐鶴が2丁のハンドガンをホルスターにしまい込む。
その様子を見て驚いていたのは友紘だけではなかったらしく、サハギンの注意を引きつけようとしてたロイも感心した様子で近づいてきた。
「いまのって、双撃跳弾ですよね?」
「ああそうだ」
「ハンターの人って、銃器の威力が強すぎるからって理由で、パーティ戦じゃ使わないから初めて見ました」
2人が会話を交わす。
その内容を聞き、友紘は改めてハンターの強さに驚かされた。
「なにそれ……。どう考えてもチートじゃん、ソレ」
と、横から口を挟む。
それに対して、祐鶴が溜息交じりに言ってきた。
「開発側が目玉スキルとして用意したようだが、あまりにも強すぎてな。ソロ以外使い道のないスキルだ」
「だとしても、レベルが10以上差があるモンスター相手にそれは強すぎだよ!」
「まあそういう仕様なんだから、仕方あるまい」
「なんか納得いかないなぁ~。武術家は安定ダメが売りなだけに今ひとつ強いっていう必殺技がないんだよね」
「紅蓮連拳だって、十分強いではないか」
「アレは5連撃すべてがヒットした場合だよ。1撃しかヒットしなかったら、そりゃあもう最悪だし」
「とはいえ、STRとDEXでそれぞれ攻撃力と命中率に補正がかかるのだから、まだマシだと思うが?」
「そうなんだけどさ……」
いまいち納得ができない――友紘は、そのことを不満を漏らしそうとした。
しかし、祐鶴に言ったところで、なにも変わらないのも事実。
なにより、このゲームはオープンベータ期間中である。これから先のアップデートで何らかの修正が入れば、強くなる可能性も含んでいた。
気付けば、周囲も先行して引っ張ってきたサハギンを倒していた。それを見計らってか、光紗姫が今度は上手に3匹のサハギンを群れから引きはがしていた。
「次のお連れしま~すっ!」
その声と共に光紗姫がユニオンへと戻ってくる。
友紘は気持ちを切り替え、サハギンと対峙するロイに加勢しようと走った。そして、たどり着くなり、上から突き落とすかのごとく、拳をサハギンに叩き付ける。
さらに1撃、2撃、3撃、4撃――と、まるで先ほどの不満を打ち付けるかのように殴り続けた。
祐鶴の援護もあり、アッサリとサハギンは殲滅。
続いて、光紗姫が連れてきた残りの2体も倒し、行く手を阻んでいたモンスターはいなくなった。
「前進します」
と、ロイが声を張り上げる。
友紘がチラリと残り時間を気にすると、羅列された数字は「1:10:18」を打刻していた。その間も一団は奥へ奥へと突き進み、今度は左右と中央に道が枝分かれた広間へとたどり着く。
そこは、先ほどの通路のように横穴の中にモンスターが隠れてはいなかった。むしろ、大草原で各々群れをなす動物のように無数に固まっていたのである。
「うげっ、なにこれ……」
さすがの友紘も仰天せざるえなかった。
なにせこの大群を倒すともなれば、相当の時間もかかるうえに事故が起こる可能性も否定できなかったからだ。
しかし、よく見ると大群から離れて場所にポツポツと群れを形成するモンスターもいる。それらは、ソロで敵を倒せるジョブ、全員で各個撃破すれば問題ないレベルだった。
「ここは、まず隅の方で大群から遠く離れてるモンスターを殲滅します。あと、絶対に中央には行かないでください」
そうしたことを承知の上でだろう。
ロイの口からそのような説明がなされた。
言われるがまま、全員の後について広間の隅へと移動する。
「各員、ここを拠点として少しずつ殲滅していきますよ。戦闘するときは、できるだけこのスペースを有効活用して、モンスターの範囲攻撃が後衛さんたちに届かない距離で殲滅してくださーい」
移動後、ロイから指示があった。
その指示に従い、友紘は戦闘を開始することにした。
「釣りは任せろ」
ふとそんな声が耳に聞こえてくる。
チラリと振り返ってみると、祐鶴が弓を引いて構えていた。
弓弦からは、1本の矢を伴って「ギィィ」といまにも切れそうな小さな音がしている。しかし、すぐに祐鶴が押さえていた手を離すと飛び上がるように跳ね返った。
刹那、友紘の脇を矢がかすめる。
さらに見返って、飛んでいった方向を確かめる。すると、矢は見事に1匹のモンスターに命中し、ゾロゾロと仲間を引き連れて襲いかかってきた。
その矢の一撃に鼓舞された友紘は、
「みんな、一斉に攻撃だ!」
とメンバーに向かって攻撃を呼び掛けた。
仲間を連れ立って、一斉にモンスターへと立ち向かう。
友紘は雄叫びを上げ、宙に浮かぶ1匹の魚型モンスターに全体重を乗せた拳を叩き付けた。
そして、もう一発お見舞いしようと大きく仰け反ったところへ1撃――とはいかず、途端にモンスターの反撃に遭ってしまう。
とっさに間合いを取ったことで、どうにか避けられたもの、まだ戦闘は続いている。友紘は間髪入れず、モンスターに複数回の攻撃を加えた。
その甲斐もあって、モンスターのHPパラメータはあと一押しで殲滅できそうなところまで削ることができた。
トドメとばかりにクロススキルを叩き込む。
「クロススキル発動――氷柱穿孔脚ッ!!」
放たれた下段からの垂直蹴りは、円錐状の氷をまとって魚型モンスターの横っ腹を貫通。モンスターが消滅すると同時に覆っていた氷が瓦解する。
友紘はすぐさま別のモンスターの殲滅に取りかかろうと後方を振り返った。すると、ロイが複数の雑魚モンスターを引き連れていることに気付く。
どうやら、祐鶴に襲いかかろうとしていたモンスターをすべて自分の方に引きつけたらしい。他にも自分から誘導したであろうモンスターも引き連れており、その数は8匹に達していた。
「手の空いてる人は、どんどんモンスターを殲滅していってくださいねー!」
と、ロイからそのように呼び掛けられる。
友紘はアタッカーとしての役割を果たそうと、新たに2匹のモンスターをロイから引き剥がして殲滅することにした。
1匹目のカニが意気揚々と左側から襲いかかってくる。友紘はその攻撃をヒラリとかわすと、5メートルほど遠くへ蹴りとした。
さらに別の魚型モンスターが1匹。
そのモンスターに対しては、序盤からクロススキルを放って一気にHPを削いだ。すぐさまカニ型のモンスターが戻ってきたが、ほどよく削り終えていたために極端に長い戦闘になることはなかった。
やがて、魚型のモンスターが倒れる。
友紘はクルリと反転して、攻撃をかわすだけにしていたカニ型モンスターの殲滅に取りかかった。
チラリと周囲を見れば、あらかたの雑魚モンスターの殲滅が終えている。友紘は、そうした状況にわずかばかり急ごうとクロススキルを連続して発動させた。
10分後、周囲の砂を削ぐ山崩しがごとく、ホールにいたモンスターはいなくなった。
残すモンスターは、中央で石像のように立ち止まっている覆面型の兜を被った巨人とその配下とおぼしき複数のボーンアンデッドだった。友紘は無視して先に進めばいいんじゃないかとも考えたが、進行方向の通路奥に扉のようなモノがあることに気付かされた。
周囲もそのように思っていたようだったが、
「コイツを倒さないと、前の扉が開かないようになってるので倒しますよ」
というロイの話を聞いて、素直に従おうとしている。
友紘もその言葉に準じて、中ボスと思われる巨人の殲滅に取りかかることにした。
中ボスを睨みながら、ロイが友紘たちに語りかけてくる。
「では、説明しますね。まずウサ猫さんが雑魚モンスターをフロアの外周へと引きつけて、ボスから遠ざけてください」
「了解でっす!」
「初心者の方にわかりやすく言うと、これは敵を引きつけるための『マラソン』という行為ですね」
「私は1stやってたからわかりますよ」
「でしたら、このあたりは理解してくれてるかと思います。あと、今回はマラソンしながら、後方から後追いする形で2、3人のアタッカーさんに医師のモカカさんに随行してもらって殲滅します」
「ん? モカカちゃんがつくの?」
そう友紘が口を挟む。
友紘の問いに対して、ロイからは丁寧な説明がなされた。
「簡単に言うと、医師という職業がアイテム消費型ヒーラーであるということですね。プリーストだと、どうしてもMPの自然回復に時間がかかってしまうというデメリットがありますから」
「なるほど」
確かに一理ある。
友紘は、医師という職業が収集した草花や市販のアイテムを調合して調薬できることを思い出した。それを踏まえてなのか、ロイが期待するような言葉を発している。
「僕が見た限りでは、モカカさんは俗称で言うところの『ヤブ』ではないと思いますので」
「クックック、我に抜かりなどない」
「はい、その調子でお願いしますね」
2人のやりとりに友紘を含めた一同が笑う。
「ロイ君、このモンスターを倒さずにボスを倒したっていう報告もあるようだが……」
と、今度は祐鶴から質問が飛ぶ。
その質問については、友紘も興味があった。なぜなら、その戦術は事前に攻略速報板で調べた中にあったモノだからだ。
それゆえにロイがどのように返答するのかが気になった。
「夕凪さんの戦術は、僕らより人数が多い場合限定ですね」
「なるほど。盾役とヒーラーとごり押しできる魔術士の数の差というワケか」
「ええ、そういうことです。ですので、今回は殲滅しながら、別働隊でボスを倒そうと思います」
「了解した。しゃしゃり出てしまって、すまなかったな」
「いえいえ……。他の方も質問があったら、どんどん言ってください」
さすがユニオンリーダーを自ら担うだけのことはある。
友紘はそう思いながらも、ロイの話に聞き入った。
「では、次に本体のボスについて説明します――本体であるボスは、自分の前方にいる全プレイヤーに向かって範囲攻撃を仕掛けてきます。これが結構痛いらしいんですよ」
「どのぐらい?」
「1回に200ぐらいかなぁ~? なので、ヒーラーさんは上手に距離を取らないと即死しまいますので、ご注意を」
「はいな」
「あとは、フツーにガシガシ削るだけです。雑魚のボーンアンデッドの対応などの不意の事故がない限りは死なないと思いますので」
わかりました――全員が声を揃えて、そう返答する。
それから、中ボス攻略はすぐに始まった。
光紗姫がボーンアンデッドをかき集め、ロイが中ボスである巨人を引き抜く。ロインの戦術通り、そこからは安定して戦闘がなされた。
そんな中、友紘はロイの背後から抜け出るように波状攻撃を繰り返していた。付近には、ソニア、祐鶴、泰史などもおり、同じような戦術で戦っている。
ミカリンは、光紗姫の後についてボーンアンデッドを殲滅しているようだった。チラリと見た限りでは、Sレア武器で敵をガンガン倒している。友紘は思ったよりもミカリンがおかしな行動をしないことに安堵し、中ボスに向かって集中して戦い続けた。
戦いはすんなりと終わった。
巨人が倒れるなり、友紘の耳に「ゴゴゴ」という鈍重な音が聞こえてくる。どうやら、先へと進む巨大な扉が開いたらしい。
友紘はロイの後に続いて先へと急いだ。
上部に表示されたタイマーも「残り時間40分」を現しており、失敗しろと言わんばかりにプレッシャーを掛けてきている。
友紘は負けじと全員と共に進行上の敵を倒しながら、前へ前へと突き進んだ。
やがて、ラスボスのいる部屋の前へと到達する。
「は~い、ここから先はラスボスの部屋ですよ」
友紘がそれを知ったのは、ロイのその一言だった。
全員が固唾を呑む中、ラスボス攻略の説明がなされる。
「ここもさっきとだいたいやり方は一緒です。ただ、今回に限っては自分に向けられた敵意の喪失……つまり、ヘイトリセットがあるので、ボスと雑魚モンスターの距離やら対処やらが複雑です」
「はーい」
「ラジャーです」
「ガンバりましょう!」
「いよいよだね……」
個々が思い思いの言葉を述べる。
そうした気持ちを聞いて、友紘も最後まで引き締めて取り組もうと思った。
ふとミカリンの姿がないことに気付く。
(アイツ、いったいどこに行ったんだ……?)
さすがにここまで来てログアウトしたなどとは考えられない。
なにせ強欲でずるがしこいミカリンのことである。なにがなんでもSレア武器を含めたいいアイテムを手に入れて返ろうとするのだと、友紘は思っていた。
しかし、ロイが説明している間もミカリンの姿はどこにもなかった。
さすがの友紘も不審に思い、ロイにミカリンがいないことを報告した。
「ロイさん、ミカリンのヤツがいないんだけど」
「えっ、ウソ!?」
とっさにロイが驚いた表情を見せる。
もちろん、驚いたのはロイだけではない――周囲のメンバーも、突然のミカリンの失踪にざわめいている。
友紘は周囲を見回して、ミカリンの姿をくまなく探し出した。
刹那、「ドスン」という聞き慣れない音が幾度も聞こえてくる。
その音は後方から聞こえてきたモノで、徐々に友紘の方へと迫っていた。
「何事っ!?」
そう友紘が声を荒げる。
しかし、驚くまもなく次の瞬間――「ギャッ」という誰かの悲鳴が聞こえくる。
同時に巨大な物影が友紘の頭上を陰らせた。
正体を確かめようと振り返る。すると、天井まで届きそうな勢いのドラゴンが足元のミカリンに誘導されるように向かってきていた。
友紘はそうした光景に信じられないモノを見た気がした。
「おいっ、いったいなにをした!」
そして、怒号を挙げながら詰問をする。
けれども、ミカリンはなんら問題がないかのよう物影の正体を告げてきたのである。
「なにって……。ネプ矛のドラゴンでしょ?」
「な、な、なにしてくれてんだっ、オマエぇぇぇええ~~!?」
これには、友紘もビックリ仰天。
いなくなった理由と事前に決められたことも守れないミカリンの常識のなさにあきれ果てて叫んだ。しかし、そうしている間にも、蒼い鱗のドラゴンが暴れ回っている。
1人、また1人……と、ユニオンのメンバーが倒れていく。
そんな惨状を見せられ、友紘は頭を抱えずにはいられなかった。
動揺する心を抑えきれず、ついロイに助けを求めてしまう。
「みんな、落ち着いて! 死んだメンバーはできるだけ後方に引っ張って」
そんなロイもどうにか立て直そうと、周囲のメンバーに指示を出していた。
だが、憎むべきはこんな問題を引き起こしたミカリンである。とっさに友紘はミカリンに向かって駆けていき、その胸ぐらにつかみかかった。
「オマエ、最初にやらないって決めただろうがっ」
「いいじゃない? もう連れてきちゃったんだし」
「そういう問題じゃねえだろ」
「えっ、私的にはやらないってのはフリなんだけど……」
「コイツ、ふざけるなっ!!」
もはや、我慢の限界だったのだろう。
友紘は物凄い形相で、下劣な顔を浮かべるミカリンの頬を殴りつけた。ミカリンの顔は醜くゆがみ、とっさの反動で勢いよく後方へと倒れ込む。
もちろん、友紘の暴力にミカリンが黙っているはずがなかった。
すぐさま絶叫を挙げて、反撃とばかりに平手打ちが飛んでくる。当然、友紘もそれに応じたため、両者はまるで泥を掛け合うかのように争い続けることとなった。
「二人ともやめろっ、いまは争っている場合ではないだろ!」
とっさに身体を祐鶴に取り押さえられる。
羽交い締めにされた友紘は、おなじくソニアに取り押さえられたミカリンと睨み合う形で向かい合った。
「離してくれっ、俺はコイツがぁ……」
まったく制御が聞かなくなった友紘。
その耳には、微かにドラゴンによって死んで逝く仲間たちの悲鳴が聞こえていた。しかし、友紘の視線は目の前の憎き相手に注がれている。
(コイツが勝手なことを始めなければ、今頃はちゃんとクリアできてたハズなんだ!)
友紘はその思いから、絶対にミカリンを許すことができなかった。
そんな中、右の人差し指を口元で噛んでほくそ笑む『ある人物』の顔を見てしまう。その人物はミカリンなどではなく、後ろで取り押さえ続けているソニアだった。
なぜソニアが笑っていたのか……?
やはり、それも友紘には考える余裕はなかった。
なぜなら、いまはただミカリンを殴ることで頭がいっぱいだったからである。




