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GLOBAL SHOUT!  作者: 丸尾累児
Chapter2「お嬢様、オフ会にお急ぎください」
16/53

第5節「遺恨残れども/その1」


「あぁ~もう悔しい~っ!!」



 友紘がそんな叫び声を上げたのは、ユアたんにPKされた3日後のこと。


 その日、友紘はゲーム内の街角で露店を開いていた夕凪に出会った。

 現実の世界同様、ゲームの中もちょうど夕方にさしかかった頃で、白雲混じりの空が朱色に閉まっていた。そんな空の下、友紘は悔しさをにじませ、先日の一件に関する愚痴をぶちまけたのである。


 それに対して、夕凪は必死になだめようとしていた。



「いまさら起きてしまったことを気にしてもしょうがないではないか」


「んなこと、言ったって……。夕凪さんは悔しくないの? ワケもわからず殺されて、あげくには俺たち馬鹿にされたんだよ」


「私とて悔しくないわけではない……。だが、ああいう輩は例え経験値がわずかばかり減ったとしても、さして気にとめるべきではないと思うぞ」


「俺は気にとめるよ。それに『ユアたん』なんて名前をわざわざ使うなんて、面白がってプレイするにしてもたちが悪すぎるよ」


「それについては、私も同意見だ。エタファン1stを知ってる人間なら、よほどの阿呆じゃない限りは使わないだろうな――いや、そもそも同一人物であるはずがない」


「どうしてそう思うのさ?」


「考えてもみてくれ。一度警察に捕まった人間が同じ会社のゲームをプレイできると思うか? それにフェニックス社だって、ある程度該当する人物がいないかぐらいはチェックしてるはずだ」


「そうかなぁ~?」


「……ああ……じゃなきゃおかしいんだ……」


「なにか引っかかることでもあるの……?」



 と言い淀む夕凪に対して、友紘が問いかける。


 しかし、夕凪からはなんの返答もなかった。


 それどころか、ボーッとしたままなにも答えないつもりのようにも思える。友紘はそのことに疑問を抱き、すぐさま「夕凪さん?」と応答を求めた。

 すると、わずかして夕凪から「すまない」の一言と共に説明が為された。



「実は、先日であったユアたんが増殖ツールを使わなかったことが気になっていたんだ」


「たまたまなんじゃないの?」


「そう思うか……?」


「いや、確かに俺たちが襲われたときは使わなかったよ。でも、その問題が夕凪さんの気にしていることと、いったいどういう関係があるって言うんだよ?」


「私が調べた限りでは、まず増殖ツールは3年前に現れたユアたんが最も使ったツールだ。その名の通り、別のアカウント内に作成した複数のキャラクターを同時にログイン状態にさせ、ゲームを起動させているヘッドマントディスプレイ型コンピュータとは別のコンピュータからリモートする形で作動させられる」


「あのさ、それってよくわからないんだけど……いったいどうやってるの?」


「BOTと言えば、クルト君は理解できるか?」


「……BOTって、SNSコンテンツなんかで見かけるロボットツールのことだよね」


「ああ、そうだ。昔は単純な動きや言語をデータベースとして活用し、それらを組み合わせて言動を起こさせるだけだったんだ――ところが光コンピュータの誕生と小型化。さらにはロボット工学の進化もあって、現在では自律運用が可能になるぐらい人間に近い思考を持ったBOTが誕生している」


「ってことは、以前のユアたんはそういうプログラム関係に強い人間の仕業だったってこと?」


「3年前の報道をそのまま引用するなら、おそらくそうなのだろう――もっとも、チートツールはわりかし裏サイトあたりに行けば、定型的なモノがダウンロードできたりするモノだぞ?」


「そうなの?」


「ああ、そうやってチートツールを使いたがるヤツは拾ってくるんだ。だが、彼は自分専用のツールを1から作ったらしい」


「へぇ~そうなんだ……。夕凪さんって、ホント詳しいよね」


「……あんな事があった後だからな。私なりに色々と調べてみたんだ」


「だよねぇ~」


「まあ私はエタファン1stをやってないから、君みたいに直接の被害者ではないしな。その意味でユアたんというプレイヤーキャラについて調べておく必要があると思ったんだ」


「ふ~ん……」



 納得の答えに唸り声を上げる友紘。

 夕凪の言うとおり、「ユアたん」という名前は1stをプレイしていなければ馴染みのないキャラクターだろう。しかも、その抵抗感についても調べてようやく理解できるモノである。


 それだけに夕凪がユアたんの存在について、どう感じたかが気になった。



「言われてみると、確かに夕凪さんは1stからのユーザーじゃないんだよね?」


「ああ、以前は別のMMOをたしなむ程度にやっていたぞ――それがどうかしたか?」


「いま考えてたんだけどさ……。夕凪さんって、ユアたんというプレイヤーネームについて、どう思ってるの?」


「印象かい……? まあ強いて言うなら、この前襲われたプレイヤーに関しては、私は君と同意見でいけ好かないヤツだと思っている。ただ3年前のユアたんについては、実際に遭遇したことがあるわけではないから、よくわからないとしか言えんな」


「そうなるよねぇ~」


「ちなみに全然関係ないが、さっき言った別のMMOは、私にとって人生初のゲームだったりするんだ」


「え? そうなの……?」


「あまりリアルの話をするのもアレだが、私も本物のユアたんみたいに親からグチグチ言われているクチでね。そのストレスを発散する意味で始めたのがきっかけだったんだよ」


「ストレスがきっかけか……。もしかして、勉強かなにか?」


「んまあ、そんなところだ。3年前のユアたんも報道記事を見た限りでは、私と同じような悩みを持ていたらしいし、その絡みでPKなんて始めたんだろうな」


「確かにそれはあり得るかもね……。俺だって、親にしつこく『勉強しろ』だなんて言われたら、きっとゲームの中に逃げたくなるよ」



 と夕凪の意見に強く頷いてみせる。


 それだけ友紘にとって、エターナルファンタズムというゲームは重要な要素を占めていた。なにより、このゲームの楽しさは1stの頃から誰よりも知っていると自負している。

 だからこそ、リアルでイヤなことがあっても、現実逃避できるこの場所を訪れることは、至福の喜びだと言えるのだろう。

 友紘は改めてそのことを実感した。


 不意に夕凪が話しかけてくる。



「話は変わるが……。クルト君は私がオフ会を開くことに反対するか?」


「えっ、オフ会やんの……?」



 唐突に飛び出た言葉――それは『オフ会』というまさかの単語だった。



「ああ、そうだ。各員入会時期がバラバラとはいえ、そろそろ互いに通じ合う仲になってきた頃だと思う」


「……だとしても、なんでまたオフ会?」


「うーん、一番の理由は私が実際に会ってみたいと思っているからだな。幸いなことに風雷房は全員の仲がいい」


「言いたいことは、わかるけどさ……。でも、ぶっちゃけMMOだと顔見せはNGだって人もいるよ?」


「それについては承知している。私も顔見せNGだという人に参加を強制はしないさ」


「なら、いいけどさ……」


「どうだろう? クルト君から見て、私がオフ会を開くことに反対するか?」



 眉間にしわを寄せ、腕を組んで唸り声を上げる。しかし、すぐに「うん」と無意識に頷いて、友紘は自分の中で納得させたような表情をして見せた。

 それから、夕凪の質問に答えようと口を開く。


「俺は別に構わないけど……。ただ、みんながどう思うかだよね?」


「もちろん、全員に聞いてから考えるつもりだ」


「だったら、一度聞いてみるべきじゃない? 俺に聞くより確実かも」



 友紘がそう助言すると、夕凪は「そうしよう」と言ってクルリと背を向ける。

 そして、片耳を塞いで明後日の方向に語りかけるかのようにして、パスチャットの向こう側にいる風雷房の面々に話し始めた。



『みんな、ちょっと聞いてくれないか?』



 脳内に響いてきたのは、パスチャット越しに聞こえてきた夕凪の声だった。

 すぐさまログインしていたメンバーが反応を示す。



『おっ、なんだい――夕凪さん?』


『クックック……。我になに用か?』


 しかし、即座に応答したのは、泰史、モカカの2人だけだった――どうやら、颯夏と光紗姫のの2人はまだログインしていないらしい。

 そのことを気にしてか、夕凪が友紘の顔を伺ってきた。


 全員がいるときに話をすべきか迷ったのだろう。友紘は一言「いいんじゃない?」と返し、夕凪の判断に任せることにした。

 とっさに判断したらしい夕凪がパスチャットに向かって話し始める。



『実は、今度オフ会をやろうと計画しているのだが――その件に関して、反対する人はいるか聞いておきたいんだ』


『オフ会……? そりゃあなんでまた急に?』


『いや、私の中では前々から計画していたことなのだが……。まあどのみち話すのが遅かったのは申し訳ない』


『へぇ~そうだったんだ』


『クルト君からはメンバーに聞いてみてからにすればと言われたのだが、2人とも顔出しNGだったりするのか?』


『俺はそうでもないかなぁ――モカカちゃんは?』


『クックック、我も真の姿を見せぬほど狭量ではない――よかろう、その宴に参加してやろうではないか』


『そう言ってもらえると助かる。あと残りはオリエ君とウサ猫君だが……』


『ウチの妹なら、なんかリアルで用事があるみたいでまだ帰ってきてなかったぜ?』


『では、オリエ君待ちということか』


『すぐに来るんじゃない? 今日はお金稼ぎに付き合って欲しいって頼まれてたし』



 などと、会話をしていると「ごきげんよう」という声が脳内に響いた。

 どうやら、オリエがログインしてきたらしい。すぐさまメンバーのバラバラな挨拶が聞こえてきて、チャットにいつものメンバーが1人増えた。



『オリエ君、ちょうどいいところにログインしてきた』


『……はい、なんですの?』


『実は今度オフ会をやろうと思うのだが、オリエ君は顔出しはNGだったりするのかい?』


『オ、オフ……会っ!?』



 嗚呼、これはわかってないな――友紘はそう思ってしまった。

 ゲームのことだが、基本的に颯夏は一般的なネットに関する知識が乏しい。しかし、以前メールを送りつけてきたことを考えれば、そうではないように思える。


 ただ単純にそうした知識を誰からも教わらなかったのだろう。


 友紘はそのことを察したうえで颯夏に話しかけた。



『あのね、オリエ。オフ会っていうのは、リアルでみんなと顔合わせをして親睦を深めるイベントなんだ』


『まあっ!? それはとても素敵なイベントですわね!』


『ああ、うん。なんとなく喜ぶとは思ってたけどさ……』


『なにか問題がおありですの?』


『うーん、なんと言ったらいいのかなぁ~? 要はゲームはゲーム、リアルはリアルってことで人と顔合わせしたくないって人もいるんだよ』


『そんなの些細な問題ですわ。わたくしだって、父様のパーティに出席したときなどは知らない殿方にお会いすることだってございますもの』


『い、いや、そういう次元の問題じゃないんだよ』


『では、どういった問題ですの?』


『だからね、オリエみたいにみんな同じように考えるかって言ったらそうじゃないんだよ……あぁ~どう説明したらいいのかなぁ~?』



 さすがの友紘も今回ばかりは困窮せざるえなかった。

 いままでどんなことを教えても、一筋縄ではいかなかった相手の説明である。おもわず目の前にいる夕凪の目を見て、救いの手を求めずにはいられなかった。


 夕凪がとっさに溜息をつく。



 それは友紘の困り顔を見て、「しょうがない」と思ったからに他ならなかった。だから、致し方ないといった表情で、パスチャットの向こうにいる颯夏に話しかけていた。



『オリエ君。そういう輩っていうのは、無職で引きこもりのどうしようもないクソったれ野郎だ。そんな両親とすらまともに会話してないヤツがオフ会に来て楽しいと思うか?』



 ところが汚い言葉が飛び出したことで、友紘は驚かされてしまう。言いたいこととしては伝わるかもしれないが、颯夏相手に通じるとは思えなかった。


『なるほど。つまり、ゴミ溜め以下の方がいらっしゃってもお話にならないということですのね』


『えっ、いまので納得できんのっ!?』



 しかし、意外や意外――なぜか颯夏に通じてしまった。

 そのことをおもわず口に出して突っ込んだ友紘は、自分の苦労がなんだったのかと思い、その場で意気消沈するのだった。

 そうしている間にも会話が進められる。



『まあとにかくだ。私は個人の意見を尊重したいので、各自『出る、出ない』という意思表明をお願いしたいんだ』


『わかりましたわ――あっ、もちろんわたくしは参加させていただきます』


『よし。では、オリエ君は参加と言うことで……。クルト君はどうするんだい?』


『……俺? ああ、まあオリエが出るって言うなら出てもいいかな?』


『ならば、オフ会開催は決定だな』


『……あと聞いてないのは……妹だけ……?』



 と夕凪に聞き返す友紘。




 そんなところへ「にぃーた」というずっしりと重い声が聞こえてくる。しかし、その声は友紘の顔の右手に表示された「個別会話(インテル)」の現すとおり、友紘に直接語りかけてくるモノだった。




 ウワサをすれば影と言うべきか――声の主は、当のウサ猫だった。けれども、その声のトーンから聞いて取るに元気がない。

 友紘はそのことが気になって話しかけた。



『……お? どうしたよ?』


『うわぁ~ん、にぃーたぁぁぁ……』


『な、な、なんだよっ!?』



 唐突に泣き出す光紗姫。

 颯夏に説明するだけでも苦戦したというのに、今度は光紗姫の方に問題が発生したようである。友紘は、そのことを「またか」と自嘲気味に思いながらも光紗姫に問いかけた。



『いったいどうしたっていうんだよ……? 泣いてないで、ちゃんと兄ちゃんに話してみろ』


『……したら……に……れた……』


『は? なに言ってんだか、よく聞こえない』


『そしたら掲示板に晒されたのっ!!』


「はあぁぁぁぁ~~~っ!?」



 友紘は思わぬ発言に『またも』驚かされてしまう。

 あれだけ注意していたのも関わらず、光紗姫が自分にとって不都合な人間や他人の迷惑も顧みない人間の名前や言動を書き込む『晒し板』と呼ばれる掲示板に書き込まれてしまった。

 不用意に烏合の衆のようなコミュニティに入るべきではないと警告した末の有様。



 友紘は妹の醜態にガックリと肩を落としてうなだれるほかなかった。



「……なにかあったのか?」



 唐突に夕凪が話しかけてくる。


 光紗姫と2人で話し込んでいるうちにTCでのオフ会の話が一段落したらしい。目の前で露店を訪れた客にアイテムを売ったばかりのようだった。


 直後、友紘は光紗姫に「ちょっと待ってろ」と返事をかえすと、夕凪にいま聞いたことを話すことにした。



「ウチの妹が『そしたら掲示板』の『エタファン晒し板』に名前書かれたらしい……」


「おいおい、ソイツは穏やかじゃないな」


「程度は確認してないけど、どうも向こうのTCでなんかあったっぽいんだよね」


「いますぐ確認を取った方がいいぞ。とにかく、ウサ猫君に事情を聞くんだ」


「わかった。聞いてみる」



 と言うと、友紘は再び個別会話(インテル)に向かって話しかけた。



『悪りぃ。いまちっと夕凪さんにも話した』


『……うん。他にみんなにはまだ言ってないよね?』


『言ってねえよ。夕凪さんは相談のしがいがあるし、別に信頼してないってワケじゃないだろ?』


『わかってるよ。でも、あんまりみんなに広めないで……』


『泣いてるヤツの頼みは断らねえよ。それより、詳しい事情を兄ちゃんに聞かせてみろって』


『……あのね、今日たまたま学校でエタファンやってる子から聞いたの。その子は2アカ使って2つの鯖でプレイしてる子でね、たまに一緒にプレイすることもあるから私のキャラクターネームも知ってるの?』


『で、その子に名前を晒されたってんじゃないだろうな?』


『違うよぉ~その子はすごく優しくていい子だもん。そんな子が私の悪口言うために晒し板なんか使わないよ!』


『じゃあ誰がオマエのキャラネーム晒したっていうんだよ?』


『……たぶん……クローバーラウンズの人……』


『クローバーラウンズって、あれか。オマエが入ったって言う別のTCの……?』


『……うん……』


『言わんこっちゃない。アレだけ注意しろよって言っただろうが』


『だってぇ~私もそろそろにぃーたの後ろ付いていかないで、新しい場所で1人でプレイしてみたかったんだもぉん』


『……んまあ、気持ちはわからなくでもないよ。次からはもうちょっと人間を見極めるってことをできようになってからにしろよな?』


『……わかった……』


『――で、どーすんだ?』


『なにが……?』


『なにがじゃなくて、クローバーラウンズから脱会するのかって話だよ』


『……わかんない』


『わかんないって……オマエ、ホントにどうしたいんだよ? これじゃあ、兄ちゃん手助けできないじゃん』


『だって、TCのみんなにそんな理由で脱会したいなんて言えないし、疑ってるなんて思われたくないもん!』


『光紗姫さ、もうちょっと理由をひねって考えようよ。「お兄ちゃんのいるTC1本で活動したいので退会させてください」って言えばいいじゃん?』


『あっ、そっか……』


『大丈夫かよ……。ちゃんと言えるか?』


『……うっ……無理ぃ……』


『うぉ~い、しっかりしてくれ』



 と、弱気の光紗姫におもわず深い溜息を漏らす。


 いつもは恬淡(てんたん)なぐらい明るくハキハキとしているにも関わらず、ちょっとした問題で弱気になって自分を頼ってくることに友紘は頭を痛めていた。


 しかし、それでも目に入れても痛くないのが妹――

 仲が悪いわけではなく、むしろ昔から互いにブラコン、シスコンと呼ばれるほどに仲かが良かった。友紘はそれだけに弱気の妹を放ってはおけなかった。



『とにかく、その話は兄ちゃんの部屋でじっくり話そう』



 友紘はそう言うと、二言三言、光紗姫を励まして個別会話を終えた。


 途端にゾンビのように前のめりになってうなだれる。

 きっと気を張り続けていたせいだろう――

 泣いている妹の前で兄らしくしようとする建前、これからのことを考えると友紘は頭を悩ませずにはいれられなかったのである。



 そんな友紘の膝を誰かがポンポンと叩いた。


 わずかに身体を起こして、叩いた人物の顔を見てみる。すると、先ほどから何度も会話をしている夕凪がなにかを言いそうに右手を挙げていた。


 何事かと思い、すぐさま言葉を交わす。



「――夕凪さん、なに?」


「ああ、ちょっと言づてがあってな……。ウサ猫君の話は終わったのかい?」


「とりあえず、もう一度話し合うことにしたよ」


「そうか。晒し板の件はなにかと後腐れが残るからな……必要であれば、私もウサ猫君が所属してる別のTCオーナーから話を伺おう」


「助かるよ――それで、俺に言づてってなに?」


「オリエ君からだ。個別会話中で聞こえていないと伝えたら、『20時過ぎに国境の町の町長の家の前で待ってる』と言っていたぞ?」


「あっ、クエストの件か」


「約束してたんだろ?」


「まあね。オリエがローレンツェアでできるクエの繰り返しだけじゃなかなかお金が集まらないって言ってたから、そろそろ国境の町のクエストもできるんじゃないかと思って勧めておいたんだ」


「……もしかして、『潮干狩り』クエかい?」


「そうだよ」



 友紘の言う潮干狩りクエストとは、国境の町で繰り返し行うことができるクエストのことである。


 内容は、「近くの海岸で見つかる真珠貝を持ってこい」というモノだ。

 根気よくやれば、アタリとして出る真珠の大きさに応じた報酬をもらえ、なおかつ近場の海岸で安全に潮干狩りができるということで、レベルが20代半ばを過ぎたにはもってこいのクエストだった。

 友紘はそのクエストを颯夏と一緒にやろうと約束していたのである。



「アレは根気がいるが、資金集めとしては悪くないクエだしな」


「……だよね。でも、ぶっちゃけある程度生計スキルを身につけちゃえば、副職を始めちゃった方が効率がいいんだけどね」


「そうか。ようやくこのゲームになれ始めたオリエ君の現状を考えると、副職に関する説明まではしていられないというワケか」


「そういうこと……。じゃあ、そろそろいったん落ちて食事してくるね」


「了解。ウサ猫君の件については、いつでも言ってくれ――もし相手方に行くようことがあれば、私も同行しよう」


「わかった。ありがとね、夕凪さん」


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