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GLOBAL SHOUT!  作者: 丸尾累児
Chapter1「お嬢様、ゲームのお時間でございます」
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第9節「結集!チーム風雷房」


 それでも友紘にとっては生死を左右する逃走だった。


 食らいつくゴブリンたちからのがれようと、必死で国境の町に向かってひた走る。わずかに振り返ると、笑顔で手を振っていた颯夏がいつのまにか青白く燃える火の玉になっていた。


 どうやら、死んでしまったらしい。

 死亡したことを証明するようにアバターが火の玉の形を模している。


 きっと本人も倒されたことに気付いていないだろう――しかし、いまはそれどころではない。自分もああなってしまう瀬戸際である以上、必死で逃げなければならなかった。



 だが、襲い来るモンスターたちとの距離は徐々に狭まってきている。

 そのことを感じさせたのは、1匹のゴブリンらしきモンスターが「ギャギャッ」とけたたましい叫び声を上げていたからだ。


 再度後ろを見返し、ゴブリンたちとの距離を測る。


 すると、1匹のゴブリンが間近まで迫ってきていた。しかも、すでに手の届きそうな範囲までやってきており、友紘を攻撃しまいと手に持った棍棒を振るおうとしている。





 もはや絶体絶命――友紘は死を覚悟した。





 ところが急にゴブリンの動きが止まる。

 さらに後方にいたモンスターたちも向きを変え、あらぬ方角へと走っていく。友紘はなにが起きたのだろうと思い、足を止めて後方に倒れ込んだゴブリンを見た。

 驚いたことに頭には一本の矢が刺さっている。しかも、それが致命傷だったのか、ゴブリンの骸は瞬く間に跡形もなく消え去った。


 さすがにその状況を理解できなかったのだろう。


 友紘は不可解そうな面持ちで、ゴブリンが消え去ったあたりを眺めた。

 さらに状況を把握しようと、視線を転進していったモンスターたちの方へと向ける。すると、5メートルほど離れた場所で複数のモンスターを狩る一党の姿が目に入ってきた。



「『ソニックモーション』からのぉ~『ワンショットトリップ』ッ!!」



 などと叫んで、一党の1人がクロスアビリティらしきモノを発動させている。


 だが、それ以上に重要だったのは、その技を発動させていた人物の顔だった。なぜなら、その人物は顔見知り以上に顔見知りの女の子であったからである。

 友紘はその子に助けられたのだと理解した。



 そして、ゆっくりと女の子の方の元へ歩いて行く。

 手元までたどり着くと、友紘はその名前を呼んで礼を言った。



「サンキュ、ウサ猫――助かったぜ」



 友紘の言葉に女の子が見返り、その容姿をあらわにする。



 後ろの首元で2つに束ねられた癖っ毛の強い土色の髪。

 さらにその髪の左右の頭の上から長い耳を垂れさせている。顔は童顔で年齢を表しているのか、身長や見た目の雰囲気も相まって幼い感じを醸し出していた。しかし、その顔において1点だけ違うのはエメラルドに輝く双眸がはしゃぎたくてしょうがないという活発な性格を現していたことだろう。


 その正体は妹の光紗姫だった。


(リアルじゃキョドりまくりの人見知りのくせに、コイツゲームの中じゃ猫被ってんだよな)


 まるでどこかにスイッチでも隠しているのではないか。友紘がそう思わざるえないぐらいエル・ヴィオラにおける光紗姫は違っていた。


 手にしたナイフを鞘に収め、光紗姫が話しかけてくる。



「もうっ、にぃーたってばなにやってんのさ!」


「まあ事情を話せば長くなるんだが……。それより、オリエは大丈夫か?」


「オリエさんならあっち」



 と言われ、光紗姫が指で示した方向を見る。



 そこでは、光紗姫とは別の3人のPCがモンスターたちを殲滅していた。

 1人は大弓と短銃を交互に使い分け、1人は巨大な剣を振り回して敵を倒している。残り1人は死亡したオリエの蘇生を試みているようだった。

 しかも、よく見るとかなりレベル差があるのか、モンスターを狩っている2人に向けられる攻撃は当たっていない。


 友紘はそれらの様子を見て、おもわず声に出してしまった。



「おっ、なんか風雷房のメンツ揃ってんじゃん」



 『風雷房』――そう口にした面々は友紘が所属するトーキングコミュニティーのメンバーだ。

 きっと光紗姫や泰史に促され、様子を見に来たのだろう。


 友紘はオリエが蘇生されたのを見て近寄っていった。



「オリエ、大丈夫?」


「――ええなんとか……それにしてもいったいなんでしたの?」


「それはこっちが聞きたいよ」



 この期に及んでも状況がまるでわかっていない颯夏に向かって溜息をつく。

 友紘は続けざまに隣にいたコビットと思われる頭巾のような帽子と白衣を身につけた顔立ちの幼い女の子に話しかけた。



「ゴメン、なんかオリエが迷惑掛けちゃったみたいで」


「フッ、例には及ばぬ。これも大アルカナが示した運命――この生きる屍すらも生者に戻す『深淵の蘇生者(ダークネス・ソウルリヴァイバー)』こと、ドクター・モカカに蘇らせられないものなのないッ!!」


「……いや、単純に医術スキル使って蘇生アイテム『不死鳥の涙』作っただけじゃ?」



 と決めポーズを構える女の子にツッコミを入れる。


 このモカカという女の子も颯夏に負けて劣らず珍妙な性格をしているようだ。

 なにより、風雷房というTCは一癖ある人物が集まりやすいらしい――そのことを痛感し、友紘は左手で頭を抑えて嘆息を付いた。

 追求することを諦め、戦闘を行っている2人の方に顔を向ける。すると、足下に颯夏が引き連れてきたすべてのモンスターが倒れ込んでいた。



 友紘は戦闘が終了したと知り、一言ねぎらおうと声を掛けた。



「お疲れ。なんか手惑わせちゃってゴメンね」


「気にすんな。大方こんなことになってるとは思ってたけどな」


「――だな。クルト君が苦戦する相手と聞いていたから、なんとなくは想像していたが……。まさかこんなことになってるとはな」


「いや、ホントにクロウにも夕凪さんにも感謝してるよ」


「んじゃあ、救出料1人1000ペカリでいいぜ」


「俺に愛はねえのかよ」



 とイヤそうな顔つきで言い返す。


 友紘はクロウという男も大雑把でいい加減な性格だということを改めて思わされた。『改めて』というのも、この短髪で鋭い目をした中肉中背のキャラクターの中身が泰史だったからである。

 故に悪友の冗談も本気と取りかねなかったのだ。


 夕凪が話に割り込んでくる。



「――で、そろそろ紹介して欲しいんだが、彼女が君の言っていたオリエさんか?」


「あ、そうだった。いま紹介するよ」



 友紘は夕凪の言葉に後押しされる形でオリエを紹介することにした。

 一同の衆目がオリエに集まる。



「この子がメンバーに加えたいって言ってたオリエさん。種族は見ての通りアルヴで職業はナイトね」


「ナイトキター! これで勝つる!」


「うむ。私たちのコミュニティにもようやく盾役が来たというワケだな」


「これで冒険の幅が広がるね、モカちゃん」


「フワッハッハ、その通り……。我が闇の医術の見せ所が増えるというモノだ」


「――うん。まあみんな色々思いはあるだろうけど、とにかく仲良くしてあげてね」



 それから、友紘は颯夏に向かって「自己紹介して」と挨拶を促した。

 ところが颯夏はどうしたらいいのかわからず、オロオロしてる。友紘はそんな様子に優しく笑って頷き、「大丈夫」と言って背中を押すように安心させた。

 すると、一息深呼吸した颯夏が仕切り直しとばかりに咳払いをする。さらに喉の調子を確認するように「えー」とか「あー」とか声に出して、ゆっくりと自己紹介をし始めた。



「えっと、皆様……。改めて初めまして、オリエと申します。クルトさんがおっしゃったとおり種族はアルヴ、職業はナイトを生業としておりますの。以後よろしくお願いしますわ」



 と颯夏が会釈をする。

 それから、友紘が各自に代わって紹介し始めた。




 最初に紹介したのは、その名前を夕凪と呼んだ女の子だった。

 パッツンと切りそろえた黒い前髪に合わせるように横紙と後ろ髪もすべて水平に切りそろえられており、その頭上には鳥追笠のような三角帽が添えるように被さっている。



「まずこの人が夕凪さん」


「夕凪だ。職業はハンター、主な獲物はこの大弓と腰の2丁の短銃。ちなみにこのトーキングコミュニティ『チーム風雷房』のオーナーをやっている――よろしく頼む」


「こちらこそ」


「じゃあ次行くね」



 と続けざまに隣にいた忍び装束をまとった泰史のアバターを指差す。



「コイツはスケアクロウ。中の人の話をちょっとだけすると、いつも学校で俺とつるんでるヤツって言えばわかるかな?」


「もしかして、あの方なんですの?」


「そうだよ」


「……あのクルトさん。そういうお話はここではしてはいけないとおっしゃっていたではありませんか」


「あぁ~もちろん、そうなんだけどさ……」



 とっさのことに困惑の表情を浮かべる。



(しまったぁ~。手っ取り早く説明するつもりが裏目に出ちゃったよ)



 友紘がそう考えたのにはワケがある。

 それはゲームをプレイするに当たって、颯夏にいくつかのネチケットを教え込んでいたからだ。しかし、泰史や光紗姫のようなつながりのある人間がプレイしていることを教えてはおらず、こうした場合の対処法までレクチャーしていなかったのである。

 それゆえ、颯夏の発言は友紘を困らせた。


 ところが友紘の杞憂は、唐突に出された泰史の助け船によって解決を見ることとなる。



「お気遣い無用だぜ、オリエさん。俺とクルトは一応学生だっていう話はコミュニティのみんなも知ってる話だし、その程度のことだったらリアルでホントに知り合いでもない限りはわかんねえからさ」


「そうなんですの?」


「まあね」



 と泰史が言う。


 友紘は思わぬ言動にすぐに視線を泰史の方へと向ける。すると、それを見越していたかのように泰史が親指を立て、左目を閉じてウィンクしてきたが――



「ただし、この男は大層助平でな。みんなからはスケベクロウだとかスケベ野郎だとか言われてるから気を付けろ」



 と夕凪が口を挟んできたため、格好良く決めたのも台無しになった。

 すぐさま泰史が夕凪に対して絡んでいく。



「うぉい! 勝手にヘンなこと教えないでくれよ」


「いや……? 私は事実を述べたまでだが?」


「やぁ~いっ、スッちんの助平~助平~」


「まったくだな……。エロスの神の尖兵など、我が神殺しの劇薬(カンダレラ)の餌食にしてやらねば」


「み、みんなしてなんだってんだよぉ~」


「……と、このようにクロウをからかって遊ぶのが常態化してるんだ……」


「クルトまでなんだよ!」


「……次行くね」



 抗議する泰史を無視して、苦笑いを浮かべる友紘。

 それから、何事もなかったかのように次の人物の紹介に移ることにした。



「次はウサ猫。一応みんなは知ってるから言っておくけど、コイツはリアルで俺の妹なんだ」


「ウサ猫ですっ、よっろしく~! 種族はライカネルっていう犬型人間の種族で、ジョブはシーフをやってまぁ~す!」



 ウサ猫が明るく声を振り立てる。

 そうした声調に颯夏は微笑んでいた。横目で見ていた友紘は仲良くできそうな雰囲気につい「次はリアルで会わせよう」と考えた。

 さらに次の人物の紹介へと移す。



「最後にこの小さな身体の子はモカカちゃん。見た目通りのコビットで職業は医師。ウチのコミュニティの唯一の回復役と言っていい子」


「フッフッフ……。ようこそ、我が天と地の境界に座する我が深淵のラボラトリーへ」


「……ただし、中二病まっさかりの残念な子」



 とガックリと肩を落とす。


 いつものことだが、モカカが関わるだけで気が滅入った。


 というのも、モカカはリアルでもこんな調子らしく、会話のキャッチボールがいっこうにできないのだ。しかも、なんらかの手伝いをコミュニティのメンバーに要求することがあっても、中二病掛かった言葉で頼んでくる。

 友紘はそんなモカカの様態を苦笑して応対するしかなかった。



 唐突に颯夏が問いかけてくる。



「あの……。深淵のラボラトリーとは、いったいなんですの?」


「それについては本人に聞いて」



 と思わず飛んできた言葉のボールをモカカの方に投げつける。


 それぐらいモカカの言語は理解できなかった。

 だから、友紘は直接モカカに説明させた方が早いと思ったのである。わずかして、言葉のボールを受け取ったモカカが一笑しながら答えた。



「深淵のラボラトリーとは、我が内なる第三世界が生み出せし、不可視なる大規模実験施設――この施設があれば、ありとあらゆる薬の調合や賢者の石の錬成が可能になるのだ!」


「ふ、不可視なる大規模実験施設……? なんだかよくわかりませんが、すごそうですわね!」


「……理解しなくていいよ。モカカちゃんのは、ゲームにない設定だから」


「そうなんですの……?」


「……そうなの……」



 もはや頭に手を押さえて答える以外なかった。

 友紘は4人全員の紹介を終えたことを確認すると、突然夕凪にあることを頼み込んだ。



「夕凪さん。悪いんだけど、オリエにアレを上げてくれないかな?」


「うむ、アレだな――承知した」



 などと、2人で思わせぶりな会話をする。

 すると、「アレ」という言葉に反応した颯夏が首をかしげて、キョトンとした表情を見せた。友紘はその表情を意地悪そうに面白がり、夕凪がアレを取り出すまでのわずかな間だけ楽しんだ。



 やがて、夕凪から颯夏に小さな紋章のようなモノが手渡される。



 当然、颯夏はそのアイテムに対してもなんなのか理解していない様子だった。

 左の手のひらに載せて、ジロジロと観察している。さすがの友紘もこれ以上意地悪しては悪いと思ったのか、すぐにその正体を教えてあげることにした。



「付けてごらん」


「……これをですの?」


「うん、その方がすぐに理解できるし」



 そう告げた直後、颯夏が胸元にバッジを付ける。

 友紘はバッジを付けたのを確認すると、右の耳元でまるでなにかのダイヤルを回すような仕草をしてみせた。同時に頭の中で複数の人の声がするようになり、テレパシーで共有し合っているような状態になった。


 友紘はその状態で頭の中の声に向かって話しかけた。



『――いらっしゃい、オリエ!』


「ひゃっ! な、なんですの……? 頭の中でクルトさんの声が聞こえますわ!」



 突然の出来事に驚いたのだろう。

 颯夏が目の前でオロオロとたじろいでいる。友紘は落ち着かせようとアイコンタクトをしながら、頭の中で颯夏に向かって語りかけた。



『落ち着いて、オリエ。とりあえず、耳に手を当てて頭の中に向かって話しかけてみて』


『こ、こうですの……?』


『お、来た来た――いらっしゃい、オリエちゃん!』


『ようこそ、オリエ君』


『うぇるかむ~とぅ~風雷房~! よくぞおいでまし、オリエさん!』


『クックック、ようやく来たか』


『……あの、クルトさん。これはいったい……?』


『これが同じコミュニティバッジを付けた人間だけができるパスチャットだよ』


『パ、パスチャット……』


『つまり、どんなに遠くに離れていてもお互いテレパシーで通じ合うがごとく会話ができるアイテムなんだ』


『補足するなら、これがトーキングコミュニティの会員証みたいなモノだろうな』


『そういうこと!』


『……会員証……みたいなモノ……』


『そうだよ――それがあれば、いつでもみんなと会話できるから持っておいて』


『わかりましたわ』


『ああ。それから、もう1つ言わなきゃいけないことがあるんだ』


『言わなきゃ行けないこと? いったいなんですの……?』


『んっとね……』



 唐突に友紘が口ごもる。


 それは全員にアイコンタクトを取る必要があったからだ。

 ログイントークンを拾うという奇妙な縁から始まった颯夏のゲームライフを友紘はどうしても祝ってやりたかった。

 同時にこれから仲間になる颯夏を出迎える。

 そういう意味で言葉にする必要があると思った。だから、ひとりひとりの顔を見て、友紘は了解を取り付けると共に口を揃えてある言葉を贈ろう思った。



 友紘たちが告げる。






『『『『『――ようこそ、風雷房へ――』』』』』






 声を重ねて口にした途端、自然と笑みがこぼれた。

 それは友紘だけでなく、他のメンバーも笑顔を浮かべている。


 さすがの颯夏もそうした友紘たちの気持ちを察して驚いたのだろう――

 とっさに拍子抜けしたような顔を見せた。

 しかし、うれしさがこみ上げてきたらしく、すぐに明るい表情を取り戻した。同時に胸元で両手を合わせ、歓迎されていることに顔をほころばせる。




 そして、その喜びをとっさに言葉にして表した。



「……はいっ、ありがとうございます!」



 その笑顔はまるで柔らかな日を照らす太陽みたいだった。


 ゲーム開始から数日。

 友紘はようやく見せた颯夏の笑顔に「これからもっと楽しんでくれるといいな」という期待感を抱いた。しかし、颯夏がゲームを始めた本当のワケをまだことのときは知る由もなかったのである。





 

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