待ちに待ったゲーム
【前編あらすじ】
超能力の1種であるテレパシーが擬似的に再現され、直接脳内に映像や音楽が送り込まれる無線LAN技術が利用され始めた近未来。
その技術を世界で始めて搭載した光コンピュータ内蔵のゲーム機『アイメット』が発売されることとなった。
同時に前作200万人のユーザーを抱えた超大作VRMMO「エターナルファンタズムⅡ」のオープンβ版開始が発表され、全世界を熱狂させる。
ごく普通の高校生『槻谷友紘』もそのゲームの発売を待ち望んでいたが、アイメットの発売が発表された日に交通事故で全治5ヶ月の怪我を負ってしまう。
すでに友人『竹中泰史』が見舞い品として持ってきた雑誌にも特集が組まれるぐらい話題になっている。
退院後、「今日こそは帰ってプレイするぞ」と意気込む友紘だったが、不覚にも視聴覚室への移動途中にログイントークンをなくしてしまう。授業の合間に必死に探しに行ってみる友紘だったが、どこにも見つからず途方に暮れるしかなかった。
ところが放課後――
視聴覚室から教室へと戻ってきた友紘の目の前になくしたはずのログイントークンを手にする人物が現れる。
その人物は意外にも庶民の遊びとは無縁な超VIPなお嬢様『山吹颯夏』だった。
偶然落としたログイントークンからゲームに興味を示したお嬢様が始めるVRMMO。そして、その楽しみ方を教えるよう請われた友紘が颯夏と織りなす抱腹絶倒のゲームライフ&ラブコメディ!
しかし、颯夏がゲームをやりたかった理由は友紘との意外な過去が関係していた!?
『それからもう1つ』
と壇上のスティーブン・ワークスが話す。
それだけでもパイナップル社の基調講演に来た連中は「なにか発表があるぞ」という気持ちにさせられた。
いや、むしろその言葉を待っていたのかも知れない。
電車の中でその講演会の模様をケータイのワンセグで見ていた槻谷友紘でさえ興奮したのだ。
実に発表が待ちきれなかった。
だから、友紘はワークスの次の言葉が待ち遠しかった。
補佐役とおぼしき女性がヘルメットを手に現れる。ワークスはそれを受け取り、両手で顔の位置までヘルメットを上げて聴衆に見せびらかした。
『おっと? これはなんだろう、ヘルメットかな?』
(いったいなにをもったいぶってるワークス。そのヘルメットはなんだ?)
誰もがそう思っただろう。
おなじく友紘も固唾を呑んでことの成り行きを見守った。
『違うね。コイツは単なるヘルメットじゃない――これはアイメット。今回、我々が新たに発表する次世代テレパス通信技術を取り入れたまったく新しい発想を持ったゲーム機なんだ』
(ゲーム機キター、これで勝つる!)
おもわずガッツポーズ――
ところが、とたんにそこが電車の中だと気付き、慌てて周囲の視線に気付かされる。その不可解なガッツポーズに「何事?」と思ったのだろう。
恥ずかしさのあまり、友紘はうつむいて周りを見ないようにした。
だが、ずっと噂の域しか出なかったブレインビューワー技術対応のゲーム機が発表されたことはうれしい。
友紘はその喜びを隠しきれず、再度小さくガッツポーズした。
ちなみにブレインビューワーとは、脳内に直接音声や映像を送り込む技術のこと。
長年、この技術は実用化可能と言われてきた。
しかし、10年ほど前アメリカ軍の軍事兵器の脳波コントローラとして開発が進み、現在では民間へ技術移転が進むまでになったのである。
もちろん、それ以前にもは類似した技術はあった。
けれども、それらは首の脊髄に送受信用のチップを移植したり、電極を介して脳の特定部位への送受信を試みたりするというモノで、倫理的な観点から脳を傷つける恐れがあるとして世界的に問題視されていた。
それらの問題を取っ払い、脳へ直接映像データを送り込む技術として確立されたのが、テレパス通信技術である。この技術はいわば超能力の一種として数えられるテレパシーを光コンピュータで再現モノだ。
つまり、そうしたテレパス技術ができたことで盲目の人間が見ることができなかった視覚的な世界を機械を通して見ることができたり、ゲームが直接頭の中でリアルな体験として楽しめるようにしている。
「目で見るんじゃない、感じるんだ!」
大昔にそんな言葉があったが、新世代のゲーム機『アイメット』はまさにそれだ。
さらにこのゲーム機対応のソフトもすでに開発されていており、来月には友紘が待ちかねている超人気オンラインゲームソフトが発表されるらしい。
そのゲームの名前は『エターナルファンタズムⅡ』
ヘッドマウントディスプレイ型ゲーム機が主流の時代に合って、長年人気を博した同名オンラインゲームの第2弾のことである。そして、友紘も前作「エターナルファンタズム」をずっとプレイしていた。
最盛期には全世界200万人が同時にプレイしたと公式発表がなされている。
(あんときゃあ凄かったな~。いろんなヤツと出会って、いろんな冒険をして……とにかく楽しかったな)
と長年プレイした往時を懐かしむ友紘。
頭の中では、数々の冒険や仲間たちのことが走馬燈のように蘇っていた。
そんな感動を今度はアイメットで体験できる――
友紘にとって、それは待ち遠しくて仕方のないことなのだろう。待ち遠しさのあまり恍惚としてしまい、自分が降りる駅すら忘れるところだった。
ふと発車のチャイムが鳴り響く。
友紘はとっさに我に返り、慌てて電車を降りた。そして、急いで改札を抜け、学校までの道のりを走った。