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25世紀のジョブスとウォズニアック

作者: 山鼠

はるか未来では、パセリは巨木の大きさになり、けものは人の言葉を話すのだろうか?


ジョブスはスクールの授業を聞き流しながら、そんなことをノートの端に書いた。「進化論」にはすこしだけ興味があったのだ。


スリーマイル原子力発電所の事故から500年がたった。


ネットワークは老朽化によって機能不全に陥り、かろうじてヤーパンとチャイナの間に有線モールス通信が成り立っていた。ペキンには世界で唯一の証券取引所があるとか。



「まったくやになっちゃうな。僕のひい爺さんの、そのまた10代前くらいの親父が、スティーブ・ジョブスなんだもんな」


実際、マウント・フジが噴煙を上げたときから、人類はうすうす感じていた「いやな予感」が的中しはじめたことを知った。これは世界の終わりなんじゃないか?と誰もが思った。


そのころの最新の学説じゃあ、人は本能よりも文化を優先しているフシがあるから、自爆テロでも何でもやってのける。だから、どうやら、文化ってのは、人間に寄生した、なんか変な幽霊みたいな存在だといわれてたらしい。


じゃあ、どうして文化が衰退したり繁栄したりするのか。気候変動か。それはマウント・フジの噴火も含めてか。


まあ、それはさておき、ジョブスの10代くらい前のひい爺さんであるところの、スティーブ・ジョブスが生きていたころは、インターネットの文化があった、らしい。


「おい、ジョブス、スティーブ・ジョブスはアップルコンピューター伝説のCEOだぜ?なんとなくお前が子孫だってのは、ホントなのかは疑問だったのは事実なんだが」


となりの席のウォズニアックが話しかけてくる。


「ふざけんな、とはいえ実は俺も疑問だ。だからこの前オヤジにきいた。そしたら、まあ0.1パーセントくらいは血が混じってるかもな、つってた。直系傍系親戚の、そのまた親戚くらいだから調子に乗んなってさ」


「じゃあ俺の名前はどうなんだ」


「ウォズニアックだけだったら、何千人もいるんじゃねえの?親戚ですらないただの人、ただの人だって」


「嘘つけ、おれは絶対スティーブ・ウォズニアックの子孫だ。そのうち戸籍みて確認してやる。二人でプロジェクトやろうぜ」


「僕、金ない」

「お前の古いキャデラック売っぱらえ」

「そんならお前も対数計算尺を売れ」

「オーケー。ご先祖もそうしたらしい。そうしよう。金をつくって……そんでどうするんだ?」

「わからん。つうかお前にアイデアないんじゃ、プロジェクトにならんだろ」

「ヤーパンじゃ国産でコンピュータつくる計画があるらしいぞ」

「日本に行くの?その金で」

「むろん。ゼン・マインドを学んで帰ってくる」

「どっかで聞いた話だな」

「図書館の百科事典にのってるからな」

「ウィキペディアの写本か」


二人がそのあたりまで話したところで、ホワイトボードの前に立っているスクールの講師の顔が険しくなってきた。二人は目線を合わせて、話をやめることにした。


でも、とジョブスは思う。ウォズはすごいやつだ。間違いないく何かにはなる。それが、テクノロジストなのか、チーフ・エグゼクティブ・オフィサーなのかは分からないが。図書館の本とはんだごてだけで、短波通信機を作ってしまい、自宅に巨大なアンテナを立ててユーロの放送を聞こうとする18歳なんて、そうはいない。


そのアンテナは実に、「ウォズのピラミッド」と地元の人々の間では呼ばれ、その用途がなんだか分からないために不審がられ、なかば好奇の目で見られていた。10メートルくらいあるので、たおれてきたらかなわんよ、早くどけなさい、とウォズの母親は説教をする。


そのたびにウォズは、これでドイツ語もしくはフランス語の、ユーロから流れてくる放送を聞くんだ!と怒鳴るのだが、他人に分かってもらったためしがない。


電波などめったに入らないのだ。


その日、ジョブスとウォズはいつものように、NO.21と書かれた非難区域に戻り、電波塔の下で、短波通信の木箱をセッティングしていた。


「おい、スピーカの音量を上げろ!針が振れている」ウォズが怒鳴った。

「やってるよ。これ以上あげると「割れる」ぜ」


ノイズが聞こえた。増幅器を通して、スピーカーは雑な音をたてていた。


歌が聞こえた。


Ich liebe dich mit reitzt deine schone Geschtalt...


「なんだよこれ、音楽だよな」

「イッヒ・リーベ・ディッヒ、だってさ。海の向こう側からか?」


その歌がシューベルトの「魔王」であるということは、二人には、知る手立てがなかったのだったが、繰り返される「イッヒ・リーベ・ディッヒ」に、二人は少し顔を赤らめ、海洋の彼方の大陸から流れてくる電波に思いをはせた。


「海の向こうでさ、女の子がさ」

「僕をさ」

「俺をだよ、電波塔つくってるの俺だから」

「だれか女がいて、愛しているっていうのか?」

「ファンタスティックだな」


そうこうしているうちに、歌が終わり、スピーカーからはまたノイズだけが聞こえるようになった。あたりは急に暗くなり、雨が降ろうとしているのがわかった。空気が湿っていたからだ。



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