ドタバタの朝
朝ってなぜかバタバタする。余裕を持って起きたとしても、時間は一瞬で過ぎていく。
朝七時。私は朝食を食べながらニュースを見ている。
ハニートースト、コーンスープ、サラダ、ヨーグルト。時間に余裕がある者だけが口にできる、理想の朝食だ。
「うーん!やっぱりハニートーストは最高だよねぇ〜」
ハニートーストをかじりながら笑みを浮かべる。
「もう…。そんなことしてたらまた時間ギリギリになっちゃうよぉ?」
どこからか、語尾がふにゃっとした可愛いらしい声が聞こえてくる。
「大丈夫大丈夫。まだ三時間もあるんだよ?さすがに遅刻しないって。」
今日はこれから通う学校、白峰高等学校の入学式の日。
白峰高等学校(生徒たちの間では白高と言われてるらしい)は、言ってしまえばどこにでもありそうな県立の高校。偏差値は普通くらい。半年前に改装されたので校舎はすごく綺麗らしい。
友達はできるかな。勉強について行けるかな。楽しい学校行事はあるのかな。様々な不安と期待がふくらんでいく。いろいろ考えてたらご飯を食べ終えるのもあっという間。ささっと片付け、身支度に取り掛かる。
シワ一つない白いワイシャツ、紺色のスカート、襟元につけた赤いリボン、ピカピカのローファー。新しいものは見ているだけでテンションが上がる。あ、せっかくだから今日は、前から練習してたヘアアレンジを頑張ってみようかな。胸元まで伸びたサラサラの髪をシンプルなヘアゴムでまとめる。いや、ちょっと待て。今日は入学式だ。きっとみんなは気合いを入れて、可愛いヘアアクセサリーをつけてくるだろう。それなら私も可愛くしたい。
「ステラ〜!洗面所の棚に置いてるピンクのシュシュ取ってきて〜!」
「何でぇ〜?嫌だよぉ〜。ボクはまだご飯食べてるんだから…」
小さなウサギ、「ステラ」は、むしゃむしゃとパンをかじりながら不満そうな顔をする。
「はぁ…。仕方ないな…。」
そう言いながら私は人指し指をくるんと動かす。瞬く間に、リボンは宙を泳ぐようにして指先に引き寄せられていった。そしてそのまま髪につける。何これ?こんなの人間が出来ることじゃない。大抵の人はそう思うだろう。
はい、その通り。私は人間ではない。
精霊と神のすみか、天界と呼ばれる場所から来た精霊のひとつ。名前はついていない。今は女性の格好をしているけど、元は性別なんてない。ちなみに、さっきからちゃっかり喋ってる「ステラ」も、ウサギに見えるけどウサギではない。
精霊といってもいろんな種類がいる。それぞれが違った役割を担い、様々なかたちで人間たちに幸をもたらす。それが精霊の使命。私は、「縁結び」の役目を果たすためにこの地に降り立った。
遡ること一か月前…
その時の私はまだ天界にいた。まだまだ見習いキューピッドなので、先輩の任務に同行したり、人間界のことについて勉強する日々を過ごしていた。そんなある日、家に桃色の花付きの封筒が届いた。桃色の花付きの封筒は、任務を依頼された合図。初めての任務に心踊らせながら封筒を開ける。
「任務のお知らせ」
・場所 ⚪︎⚪︎県 ××市 県立白峰高等学校
・期間 入学から卒業まで(およそ三年間)
・内容 一 長期間にわたる学生の恋愛事情調査
二 生徒として学校に潜入し、生徒の縁結びをする
・設定等 花村恋羽。今年四月に白峰高等学校に入学する生徒。数年前の事故で親を亡くし、一人暮らしをする少女。という設定で潜入………
「え…?さ、さんねんかん…?初めての任務なのに…?」
震える声でつぶやく。普通の任務は一日二日くらいで終わるのが普通。長くても一か月ほど。三年間の任務なんて、よっぽどのことが起きない限りはない。
つまりこれは、かなりイレギュラーな任務なんだろう。
え?これは先輩がやるべきじゃない??
まだ私、「普通」の任務すらやったことないのに。どうするべきなんだろう…
一週間以上悩みに悩んだ結果、引き受けることにした。(というか引き受けるしかなかった。)
人間界へ旅立つ当日、準備を整え、もう出発しようとしたその時、誰かに呼び止められる。いつも任務に同行させてくれて、アドバイスももらった、一番お世話になった先輩だ。
「三年間の任務なのに、あなた一人じゃ心細いでしょう?」
こくりと頷く。覚悟は決めたつもりだったが、やはり慣れない土地に一人ぼっちなんて辛いものだ。
「大丈夫、一人にはさせない。この子を連れて行くといいわ。」
先輩は小さな生き物を連れて来た。
「この子はステラっていうの。魔動物の一種で、すごく賢い子だからね、きっとあなたをサポートしてくれると思うわ。」
話を聞くと、ステラは、任務のサポートだけでなく、文通を届けたり受け取ったりして、天界と人間界を結ぶ連絡役になってくれるそうだ。
それなら本当に心強い。先輩たちとも連絡が取れるし、良い話し相手にもなってくれそう。
「先輩、ありがとう!行ってきます!」
そう言って笑顔を見せた後、ステラを抱きしめたまま、人間界へと降り立った。
そんなこんなで今はこの地で過ごしている。
生活にはだいぶ慣れてきて、今日はいよいよ入学式。
つまり、任務開始ということだ。
今日くらいは早めに登校しようかなと思い、壁にかけてある時計に目をやる。
「え、やばっ。もう九時半!?」
入学式は十時から。受付はすでに始まっている。朝七時に起きたのに準備が間に合っていない。天界にいた頃から、時間の使い方は誰よりも下手なのだ。家からダッシュすれば多分間に合うが、せっかく整えた髪が台無しになってしまう。けど今はそんなこと言ってられない。入学早々遅刻して悪目立ちするのだけは避けたかったから。
「ステラ!もう行かなきゃだからバックに入って!」
「なんでだよぉ〜。バックって狭いじゃん…」
「いいから早くっ!!」
入学式まで残り三十分。彼女、花村恋羽とステラは急いで家を出て、学校までの道を走り出した。
次回は入学式のこと書きます。
恋羽、遅刻しないといいね…




