EP 8
100均スナイパー、防衛線を死守する
「グォォォォォォッ!!!」
時速60キロを超える岩の戦車――変異種ロックバイソンが、僕を目掛けて突進してくる。地響きで足元が揺れ、巨大な赤い角が目前まで迫る。
(落ち着け……死ぬほどビビってるけど、計算は済んでる!)
僕は引き絞った矢を、バイソンの足元……あらかじめ地面に設置しておいた『100均のステンレス製ボウル』(100円)に向けて放った。
キンッ!
正確にボウルを弾くと、中から飛散したのは、昨日から準備していた『超強力・潤滑シリコンスプレー』(100円)と『洗濯洗剤』を混ぜ合わせた、悪魔のローションだ。
「……滑れ!」
ドゴォォォォンッ!!
前脚が着地した瞬間、摩擦係数を失ったバイソンの巨体が、派手にスライディングを開始した。
「ブモォォ!?」
制御を失った数トンの質量が、僕の横を猛スピードで通り過ぎ、そのまま村の頑丈な石壁へと激突する。
「今だ、サンガさん!!」
「応よっ! よくやったタロウ!!」
ひっくり返って無防備な腹を晒したバイソンに、闘気を全開にしたサンガさんの鍬が振り下ろされた。
「『土竜・開墾斬』!!」
ドォォォォン! と爆音が響き、森の主が沈黙する。
だが、休む暇はない。バイソンの後方に控えていたゴブリンやウルフたちが、主の敗北に逆上して一斉になだれ込んできた。
「タロウさん、危ないっ!」
サリーが叫び、僕の背後に向けて杖を振る。
「光の盾!」
背後から飛びかかってきたフォレスト・ウルフの牙を、サリーの魔法が弾いた。
「助かった、サリー! 援護を頼む!」
僕は次々と矢を放つ。だが、ただの矢じゃない。
一射ごとに、100円ショップの叡智(?)を詰め込んだ特殊弾だ。
『目潰し・胡椒矢』 100均の詰め替え用『ブラックペッパー』を先端に仕込んだ矢。着弾と共に粉末が舞い、嗅覚の鋭いウルフたちが鼻を抑えてのたうち回る。
『足止め・結束バンド矢』 矢尻に結束バンドの輪を固定。走るゴブリンの足首に引っ掛け、自重で転倒させる。
「なんだこの戦い方は……! 魔法でも闘気でもないのに、魔物の群れが手も足も出ねぇ!」
自警団の男たちが呆然と立ち尽くす。
僕は村の入り口にある見張り台に駆け上がり、戦場全体を俯瞰した。
「まだだ……あいつを止めないと!」
群れの最後尾に、一際知性の高そうな個体――ゴブリン・シャーマンが杖を掲げているのが見えた。
あいつが広域魔法を放てば、僕の仕掛けた100均トラップもろとも焼き払われる。
距離は150メートル。通常の弓の射程ギリギリだ。
僕は最後の一本、特別な細工をした矢を番えた。
矢尻には、100均の『超強力ネオジム磁石』(100円)と、『防犯用カラーボール』(100円)の染料を改造したものを括り付けている。
(……風を読め。サンガさんの特訓を思い出せ!)
僕は深呼吸し、背中の筋肉で弓を引き絞った。
ターゲットはシャーマンが持つ「鉄製の杖」だ。
「……いけっ!」
ヒュォォッ! と空気を切り裂き、矢が放たれる。
磁石の力でわずかに軌道を補正された矢は、正確にシャーマンの杖に着弾。
パァンッ! と鮮やかな蛍光オレンジの染料が飛び散り、シャーマンの視界と杖を真っ赤に染め上げた。
「ギギャッ!? ギャアアアッ!」
顔面に染料を浴び、詠唱を中断してのたうち回るシャーマン。
その隙を逃さず、サンガ率いる自警団が突撃を敢行し、残党を森の奥へと追い散らした。
* * *
静寂が戻ったポポロ村。
そこら中に100均のゴミ(残骸)が散らばっているが、村人の死者はゼロ。
奇跡的な勝利だった。
「ふぅ……。なんとかなったな……」
僕は弓を置き、その場にへたり込んだ。
「タロウさん!」
サリーが駆け寄り、僕の手を握る。
「すごいです! 本当に、タロウさんが村を救っちゃいました!」
「いや、みんなのおかげだよ……。でも、分かった気がする」
僕は自分の震える手を見つめた。
魔法も闘気もない。ただの100円ショップの店員(候補)だった僕でも、この世界の強敵と渡り合える。
100円という小さな力を積み重ねれば、世界をひっくり返す大きな力になるんだ。
だが、村人たちの歓声を聞きながら、僕はふと村の惨状を見た。
踏み荒らされた畑。壊れた柵。
そして、これだけの大立ち回りを演じた僕に残された、財布の中の『残金』。
(……このまま、この村に甘えてちゃダメだ)
僕は、ポポロ村を救った「英雄」としてではなく、一人の「冒険者」として、次の一歩を踏み出す決意を固めていた。




