EP 4
帝国正騎士団、襲来。そして秒殺
ルナミス帝国正騎士団・数万の軍勢が、アルクス領『リトル東京』の外縁部に到達した。
地平線を埋め尽くす、魔法金属の鎧に身を固めた重装騎兵の列。彼らが掲げる皇帝の紋章旗が、風にパタパタと音を立てている。
その圧倒的な軍勢を率いるのは、帝国正騎士団長、ゼルグ・ヴァルモント伯爵。彼は白馬に跨り、鼻を高く鳴らしながら、ネオンが輝くリトル東京の街並みを見下ろした。
「……フン。 成り上がりの小童め、成金趣味のガラクタの塔など建ておって。我が精鋭騎士団の突撃の前には、紙細工のように崩れ去るわ!」
ゼルグ団長は、自らの剣を天高く掲げ、全軍に号令をかけた。
「全軍、突撃!! アルクス領の男は一人残らずプロテインの粉末に変え、女は我が帝都へ引きずり出せ! 反逆者タロウの首を上げ、皇帝陛下の御前に捧げるのだぁぁッ!!」
「「「「オオオオオオオォォォォッ!!」」」」
数万の重装騎兵が一斉に地を蹴った。
地響きがリトル東京のネオンサインを微かに揺らす。その突撃は、並の領地なら城壁ごと蹂躙し、灰燼に帰すであろう『絶対的な暴力』の奔流だった。
* * *
一方、アルクス領の防壁の上。
「タロウ、敵が突撃を始めたわ」
ライザが愛剣の柄に手をかけ、鋭い視線で迫り来る鉄の波を見つめる。
「……あ、あわわわ、あんなにたくさんの騎士様たちが……!」
サリーが杖を握りしめ、ガタガタと震えながら僕の袖を掴む。
「……ふぅ。せっかくの食後のコーヒータイムが台無しだな」
僕は100均の『マグカップ』を地面に置き、背中に負った神殺しの弓『雷霆』を……構えなかった。
代わりに、防壁の上に並んだ数十門の『必殺の大砲』と『量産型・必殺のバリスタ』に、静かに片手を向けた。
「野郎ども、準備はいいか」
僕の声に、砲座に座るテカテカにオイルを塗ったマッスル兵士たちが、ニヤリと下品な笑みを浮かべた。
「ヒャッハー! 大胸筋のパンプアップ、完了だぜぇぇっ!」
「タロウ様! いつでもこの『必殺の矢』で、奴らをプロテインの粉末に変えてやるだぁぁっ!!」
彼らは装填された100均のおもちゃの火薬(※ガンドフが超圧縮・錬金術加工済み)が詰まった砲弾と、巨大な矢(爆発槍)を、愛おしそうに撫でる。
「……よし。 安全第一、距離優先」
僕はスッと片手を振り下ろした。
「――ぶち込め」
「「「「オオオオオオオォォォォッ!!」」」」
マッスル兵士たちが、一斉に大砲の火門に火をつけた。
ドガガガガガガガガガアアアアアンンッッッ!!!!!!!!!!!!
次の瞬間。世界が、轟音と共に爆発した。
100均のおもちゃの火薬、塩ビパイプを芯にした砲身。しかし、そこにドワーフの神業技術と、神弓・雷霆の『最適解の計算』が加わったその威力は、中世ファンタジーの常識を完全に超越していた。
数十の『必殺の大砲』から放たれた砲弾が、音速を超えて帝国正騎士団の中央へと着弾する。
ズドォォォォォォォンッ!!! ズドォォォォォォォンッ!!!
「ギャアアアアアアアッ!?」
「な、なんだこの爆発はぁぁっ!!?」
中央に着弾した砲弾が、魔神王の爆発すら凌駕するほどの特大の爆炎を上げ、周囲の重装騎兵たちを鎧ごと、文字通りの『粉末』に変えて吹き飛ばした。
「……ひぃっ!?」
団長のゼルグは、目の前で起きた地獄絵図に絶句した。
彼の愛馬は爆風に驚いて竿立ちになり、彼は無様に地面へと転がり落ちた。
「ガ、ガラクタの塔に……なぜ、このような、古代魔法のような……」
ゼルグが這いつくばりながら見上げた、その時。
「次は、俺たちの番だぜぇぇっ!」
防壁の上から、『量産型・必殺のバリスタ』が一斉に掃射された。
シュォォォッ! シュォォォッ!
数百本の『必殺の矢(爆発槍)』が、雨霰のように敗走する騎士たちに向かって降り注ぐ。
矢の一本一本が、ベヒーモスを討ち取った『爆発矢』の量産型だ。
ドォォォン! ドォォォン! ドォォォン!
防壁の前は、漆黒の爆炎と土煙に包まれた。
剣を交えるどころか、魔法を唱える隙すら与えない。
数万の帝国正騎士団は、アルクス領の城壁に指一本触れることもできず、わずか『秒』で、文字通りの『秒』で、完全に蹂躙され、壊滅したのだ。
* * *
土煙が晴れた後。
そこには、かつて『正騎士団』と呼ばれた、数万の鉄の塊(鎧の残骸)が転がっていた。
「……嘘でしょ。私、剣を抜く暇すら……」
ライザが、呆然と愛剣を鞘に納める。
「わ、わぁ……タロウさん、凄いです! 誰も怪我をせずに、悪い人たちを……」
サリーが目を丸くして、僕を見つめる。
「ふぅ……。さて、コーヒーの続きを飲むか」
僕は地面からマグカップを拾い上げた。
『クハハハハッ! 素晴らしい! 圧倒的な火力の前には、伝統も誇りも無意味! これぞ我が見込んだ主の泥臭き力!』
雷霆が、僕の背中で歓喜の紫電を散らした。
「団長ぉぉぉっ!! 大変ですぞ!!」
その時、売上計算をしていたセバスが、鼻息を荒くして走ってきた。
「帝国の正騎士団を秒殺したという噂が……ゴルド商会の緊急ネットワークを越え、すでに大陸中に激震をもたらしております!!」
セバスは、お約束の片眼鏡をギラギラと光らせ、天に向かって拳を突き上げた。
「大陸中に激震が走りました! ルナミス帝国騎士団がボロ負け! 英雄太郎王に弓を引くとは何事か! と、各地で皇帝への反乱が起きておりますぞぉぉっ!!」
「えっ」
僕はコーヒーを吹き出しそうになった。
「ボロ負けって……僕はただ、安全第一で防衛しただけなんだけど……」
「これぞ、タロウ様の覇道の始まり! さぁ、今こそ憎きルナミス皇帝の本国へ乗り込みましょう!!」
セバスとマッスル兵士たちの熱狂的な歓声に包まれながら、僕は、自分が意図せずして『大陸を揺るがす英雄王』へと押し上げられつつあるのを、ひしひしと感じていた。
僕の望む平和なスローライフは、またしてもはるか遠くへ、ニンニクの匂いの彼方へ去っていくのだった。




