EP 3
量産型『必殺の矢』。無敵の防衛網構築
「フンース! フンース!! タロウ様ぁぁぁっ!!」
アルクス領『リトル東京』の高層マンション最上階。
バンッ! と勢いよく扉を開けて飛び込んできたのは、極度に興奮し、バッファローのように荒い鼻息を吹き出しているセバスだった。
「どうしたセバスさん。そんなに鼻息を荒くして。また新しいマンションの入居希望者か?」
僕が100均の『マグカップ』でコーヒーを飲みながら振り返ると、セバスは片眼鏡をギラギラと光らせ、床に膝をついた。
「違います! ゴルド商会の緊急ネットワークより凶報! ルナミス帝国本国が、我がアルクス領の異常な発展を『反逆』とみなし、帝国が誇る『正騎士団』数万の軍勢を差し向けてきたとのことです!!」
「……数万の、正騎士団」
隣で報告を聞いていたライザの顔つきが、スッと険しい騎士のものに変わった。
「本国最大の武力よ。全身を魔法金属の鎧で固め、高度な集団戦術を使う精鋭中の精鋭。……いくら『アルクス・ビルダーズ(筋肉自警団)』が強くても、数万の軍勢に囲まれれば、この街は火の海になるわ」
「ひぃっ……せっかくみんなで一生懸命作った、綺麗なお家が……!」
サリーが青ざめ、窓の外に広がる平和なネオンの街並みを見つめる。
だが、セバスの様子は違った。恐怖どころか、彼の顔にはかつてないほどの『好戦的な笑み』が浮かんでいた。
「ふははは! 恐れることはありません! むしろ好機! 愚かなるルナミス皇帝は、自ら墓穴を掘ったのです! タロウ様!!」
セバスはドンッ! と胸を叩き、これ以上ないほどの大声で叫んだ。
「いつでもタロウ様が、ルナミス帝国の覇者になる準備は出来ておりますぞ!!」
「いや、覇者って……僕はただ、美味い飯を食って平和なスローライフを送りたいだけなんだけど」
僕が呆れ気味にツッコミを入れると、背中に負った神殺しの弓『雷霆』が、脳内に直接笑い声を響かせてきた。
『クハハハハッ! 良い臣下を持ったではないか、主よ! 降りかかる火の粉は全て、その泥臭い手段で理不尽に焼き払ってやろうぞ!』
「……まぁ、そういうことなら仕方ない」
僕はコーヒーを飲み干し、立ち上がった。
「せっかく作ったこの『リトル東京』に、土足で踏み込んでこようって言うなら……剣が届かないはるか遠くから、圧倒的な火力で絶望させてやるまでだ」
* * *
僕はすぐにドワーフのガンドフを呼び出し、マンションの地下に作った巨大な工房へと向かった。
「数万の軍勢を、城壁に近づける前に粉砕する防衛網を作る。ガンドフさん、あのベヒーモスの口の中で爆発させた『必殺の矢』の構造を教えてくれ」
「おう! あれは俺様の錬金術と、特殊な火炎鉱石を圧縮したモンだが……手作業だから、一本作るのに三日はかかるぜ?」
「三日じゃ間に合わない。賢者君、火炎鉱石の成分を解析して、100均の物資で代替・量産化するラインを構築しろ!」
『ピピッ。解析完了。マスターのスキルで召喚可能な【おもちゃの火薬銃(100円)】の火薬成分と、【大型クラッカー(パーティー用)】の構造を掛け合わせることで、同等の爆発力を有する弾頭の量産が可能です』
「よし! ガンドフさん、僕が弾頭を無限に出すから、あんたはそれを射出するための『筒(砲身)』を作ってくれ! 100均の【塩ビパイプ(極太)】を芯にして、外側を鉄で補強するんだ!」
「ガッハッハ! そりゃあ面白ぇ! ドワーフの腕が鳴るぜ!」
そこからは、徹夜の兵器開発ラッシュだった。
ガンドフの神業的な鉄工技術と、僕の『100円ショップ』から無限に供給される火薬と資材。
そして、雷霆の『最適解を導き出す能力』が、兵器の命中精度や射角の計算を完璧にサポートしていく。
数日後。
アルクス領の外縁部、巨大な防壁の上に、それはズラリと並べられていた。
「完成だ……『量産型・必殺のバリスタ』と、『必殺の大砲』の防衛ライン!」
防壁の上に並んだ数十門の黒光りする大砲と、巨大な矢(爆発槍)を放つ連装バリスタ。
砲座に座るのは、ライザのスパルタ教育と過剰なプロテインによって、全員がハルクのように巨大化した『アルクス・ビルダーズ』の面々だ。
「ヒャッハー! この大砲の重み、大胸筋にビンビンくるぜぇぇっ!」
「帝国のヒョロガリ騎士共なんざ、この『必殺の矢』で全員プロテインの粉末に変えてやるだぁぁっ!」
彼らはテカテカに光る筋肉を見せつけながら、砲弾を軽々と装填していく。
『……素晴らしい。敵と刃を交えるリスクすら負わず、一方的に命を刈り取るその臆病にして冷酷な兵器。我はますます主が気に入ったぞ!』
雷霆が、僕の背中で歓喜の紫電を散らした。
「安全第一だからね。さて……」
僕は防壁の最上部に立ち、地平線の彼方を見据えた。
土煙を上げながら、太陽の光を反射してギラギラと輝く、数万の帝国正騎士団の軍勢が、地響きと共にこちらへ迫ってきている。
「僕たちの箱庭を脅かす奴らは……ここで全滅してもらう」
圧倒的な近代的火力が、中世ファンタジーの軍勢を理不尽に蹂躙する『防衛戦』の火蓋が、今まさに切って落とされようとしていた。




