EP 2
自給率100%の奇跡と、迫り来る帝国の影
「……人口が数万人に膨れ上がったのは素晴らしいが、深刻な問題が一つある」
高層マンション(※外壁は100均のリメイクシート大理石風)の最上階。
ふかふかのソファに深く腰掛けた僕は、深刻な顔でセバスが持ってきた報告書を見つめていた。
「食糧、ですね」
ライザが腕を組み、鋭い視線で窓の外を見下ろす。
「これだけ急激に人が増えれば、これまでのシープピッグ(羊豚)の狩りや、細々とした畑の収穫だけでは到底追いつかないわ。餓死者が出る前に、他領から法外な値段で食糧を買い付けるしか……」
「いや、そんな金がもったいない(&面倒くさい)ことはしない。僕たちの『リトル東京』は、自給自足の完全独立都市を目指すんだ」
僕は立ち上がり、スキル『100円ショップ』を起動した。
ポンッ! ポンッ! とテーブルの上に現れたのは、小さな紙の小袋の山と、ピーピーと鳴く黄色い毛玉の入ったカゴだった。
「園芸コーナーの定番、【野菜の種(2袋で100円)】だ! さつまいも、大根、白菜、ネギ! 寒さや痩せた土地でも育つ頑丈な品種ばかりを選んできた」
「タロウさん、この可愛い黄色い鳥さんは……?」
サリーが目を輝かせてカゴを覗き込む。
「ふふふ、100均のペットコーナー(?)で奇跡的に取り扱っていた【ひよこ】だ! 卵から肉まで、あらゆる食卓をカバーする最強の家禽さ。……さぁ、サリー。君の出番だ」
「はいっ! お任せください!」
僕たちはマンションの裏手に広がる、巨大な開拓用農地へと移動した。
サリーは種を蒔いた大地と、放し飼いにした数千羽のひよこたちに向かって、聖女の杖を高く掲げた。
「生命を育む大地の精霊よ。私の魔力と慈愛をもって、全てを健やかに育てたまえ! ――『極大・豊穣の光』!!」
神々しい光が、農地全体を包み込んだ。
僕が100均の【万能肥料】をばら撒き、サリーが細胞の成長を強制的に促進させるヒールをかけ続けるという、神の摂理を完全にガン無視したパワープレイ。
ボコッ、ボコボコォォッ!!
「……相変わらず、とんでもない光景ね」
ライザが呆れ半分で呟く。
目の前で、さつまいものツルが狂ったような速度で地表を覆い尽くし、大根が地面からミサイルのように頭を突き出していく。
さらに恐ろしいことに、ピーピーと鳴いていた数千羽のひよこたちが、光を浴びた瞬間にポンッ! ポンッ! と音を立てて巨大化し、立派なトサカを持つ丸々と太ったニワトリへと一瞬で成長を遂げたのだ。
「コッコッコッコッ!!」
ニワトリたちは元気よく走り回り、その場でボコボコと大量の新鮮な卵を産み落とし始めた。
「よし! これで【食料自給率100%】達成だ!!」
その日の夜、アルクス領の広場では盛大な大宴会が開かれた。
ホクホクに焼き上がった黄金色の『極甘さつまいも(100均品種)』に、老いも若きも涙を流して舌鼓を打つ。
そして、炊きたての米麦草に、産まれたての新鮮な生卵を落とし、あの醤油草のカエシをたらりと垂らした『究極の卵かけご飯(TKG)』が振る舞われた。
「美味ぇぇっ! なんだこの濃厚な黄身は! さつまいもって奴も、甘くて最高だぁぁっ!」
マッスル兵士たちが、ラーメンの後のデザート(?)としてTKGを無限に飲み込んでいる。
飢えの恐怖から完全に解放され、アルクス領の民衆の幸福度は限界を突破していた。
* * *
しかし。
アルクス領が歓喜の歌に包まれていたその頃。
大陸の中心、ルナミス帝国本国の帝都では、重苦しく、そしてひどく血生臭い空気が玉座の間を支配していた。
「……辺境のアルクス領が、夜も光り輝く巨大な『魔石の塔』の群れになっているだと……?」
豪奢な玉座に深く腰掛けたルナミス皇帝が、報告書を握り潰しながら低く唸った。
「は、はい! しかも彼らは未知の魔法具を用い、食糧すら無尽蔵に生み出しております! 税は一切納められず、我が帝都の民すらも『あちらの方が飯が美味くて安全だ』と、次々とアルクス領へ逃げ出している始末で……!」
冷や汗を流す宰相の言葉に、玉座の間に並ぶ貴族たちがざわめいた。
「おのれ、成り上がりの小童め……! 皇帝たるこの私の威光を無視し、富を独占するなど、万死に値する!」
皇帝の目が、嫉妬と怒りでドス黒く濁っていく。
アルクス領の異常な経済力と武力は、もはや帝国の基盤そのものを脅かす『ガン細胞』になりつつあった。彼らにとって、自分たちより豊かで幸せそうな領地など、絶対に存在してはならないのだ。
「反逆者だ。奴らは帝国への反逆を企てている! 今すぐ『正騎士団』を出撃させよ!!」
皇帝のヒステリックな絶叫が響き渡る。
「数万の精鋭をもってアルクス領を完全に包囲し、一人残らず蹂躙しろ! あの光る塔も、美味なる食糧も、全て我が帝国のものだ! 逆らう者は、男は殺し、女は奴隷として引きずり出せ!!」
「ははっ!! 直ちに、全軍に出撃の命を下します!!」
欲望と嫉妬に狂ったルナミス帝国本国が、ついにその巨大な牙を剥いた。
完全武装の帝国正騎士団・数万の軍勢が、地響きを立てて帝都を出発する。
僕たちが必死に作り上げた『リトル東京』の平和な夜空に、凄惨な戦火の影が、すぐそこまで迫りつつあった。




