第四章 リトル東京と最終決戦
爆速スローライフ。アルクス領『リトル東京』化計画
S級ダンジョン『天魔窟』の完全攻略。そして神殺しの弓『雷霆』の獲得。
その恐るべき偉業は、僕たちがアルクス領に帰り着く頃には、ゴルス商会の独自ネットワーク(と、酔っ払ったガンドフの自慢話)を通じて、すでに大陸中に知れ渡っていた。
「タロウ様ぁぁぁーーーッ!!」
領主の館に戻った僕たちを待っていたのは、書類の山に埋もれて白目を剥きかけているセバスだった。
「どうしたセバスさん。また税収の計算が合わないのか?」
「違います! 移民です! タロウ様の偉業と、『アルクス領は飯が死ぬほど美味くて安全』という噂を聞きつけた難民や他領の民が、津波のように押し寄せてきているのです!!」
セバスが指差す窓の外を見て、僕は絶句した。
広場から領地の境界線に至るまで、見渡す限りのテント、テント、テント。
豚神屋のラーメン(ヤサイマシマシ)を啜る冒険者たちに混じって、荷車を引いた家族連れが所狭しとひしめき合っている。
「……す、すごい人だわ。帝都のお祭りの日より多いんじゃないかしら」
ライザが呆然と呟く。
「このままでは、領地のキャパシティが限界を突破して崩壊します! タロウ様、早急に巨大な居住区画の整備を……ッ!」
「分かった、落ち着けセバス。僕たちの『箱庭』をスラム街にするわけにはいかないからな」
僕はニヤリと笑い、ポケットからルチアナのスマホを取り出した。
「出番だぞ、賢者君。この数万人を収容できる、高層・高密度の近代的な居住施設の設計図を頼む。もちろん、耐震・防音の完璧なやつをな」
『ピピッ。現在の地形データと人口増加率を照合。……完了。地球の建築様式に基づく【高層マンション群】および【大規模団地】の建設プロセスを策定しました。マスターのチートスキルと、現地の労働力をリンクさせます』
「よし! 野郎ども、筋肉の準備はいいか!!」
僕が館のバルコニーから叫ぶと、広場で待機していた『アルクス・ビルダーズ(筋肉自警団)』の面々が、一斉に大胸筋をピクピクと脈打たせて雄叫びを上げた。
「「「「オオオオオオオォォォォッ!!」」」」
「ライザ、サリー、手伝ってくれ! 一気に街(リトル東京)を作るぞ!」
ここから、アルクス領の常識を覆す『爆速の土木工事』が幕を開けた。
サリーが強大な大地の魔法『アース・クリエイト』で地面を平らに均し、強固な岩の基礎を一瞬にして打ち立てていく。
そこへ、僕がスキル『100円ショップ』で限界まで召喚した【速乾セメント】【プラスチック製レンガ型枠】【水平器(レーザーポインター付き)】などのDIYツールを、マッスル兵士たちに次々と持たせる。
「いいか! 賢者君のレーザーの赤い線に合わせて、レンガを積んでセメントを流し込め! 筋肉の超回復を信じろ!」
「応ッ! 俺たちの上腕二頭筋が、高層建築を求めているぜぇぇっ!」
彼らの異常な膂力と魔法の融合により、本来なら数年かかるはずの高層マンションや団地が、まるでタケノコのようにニョキニョキと生え始めた。
外壁はサリーの魔法で硬化させ、内装の壁紙やフローリング用の木目調シートは、僕が100均の【リメイクシート(大理石風・木目風)】を大量に出して貼り付けまくる。
「タロウさん、お風呂の設備はどうしますか?」
「100均の【携帯用シャワーヘッド】と【耐熱ホース】を、魔導石の給湯システムに直結させる! 水洗トイレのパーツも100均のDIYコーナーで揃うぞ!」
昼夜を問わぬ突貫工事(もちろんマッスル兵士たちには、労働後に豚神屋のラーメンとプロテインが支給されるため誰も文句を言わない)の結果。
わずか数週間後。アルクス領の景色は、中世ファンタジーから完全に『現代日本』へと変貌を遂げていた。
* * *
「……信じられない。ここ、本当にアナステシア世界なの?」
夜。完成したマンションの最上階のバルコニーから下を見下ろし、ライザが目を丸くして立ち尽くしていた。
眼下に広がるのは、整然と立ち並ぶ巨大な団地群。
そして、その街並みを眩いばかりに照らし出しているのは、僕が街中に張り巡らせた100均の【LEDテープライト】と【ネオンワイヤー】の輝きだった。
赤、青、黄色。極彩色のネオンが夜の闇を彩り、まるで地球の歌舞伎町か秋葉原のような、不夜城の煌めきを放っている。
「ふははははっ! タロウ様、素晴らしいですぞ! 全ての住戸が瞬く間に満室! 家賃収入だけで帝国の国家予算を上回る勢いでございます!」
セバスが、ネオンの光に片眼鏡を光らせながら狂喜乱舞している。
「これぞ、僕の求めていた究極のスローライフの形……名付けて『アルクス領・リトル東京』だ」
僕は満足げに頷き、100均の缶ビール(発泡酒)のプルタブを開けた。
「ふぁぁ……なんかもう、天界よりこっちの方が全然住みやすいわね。ネオンサインの下で飲むストゼロ、エモくて最高……」
下の階のベランダから、芋ジャージ姿のルチアナが顔を出し、赤い顔で上機嫌に手を振ってきた。
「タロウさん、凄いです! お部屋の中も隙間風一つなくて、すごく暖かくて……私、こんな素敵なお城に住めるなんて夢みたいですっ」
サリーが、フカフカのクッション(100均の500円商品)を抱きしめながら、幸せそうに微笑む。
安全で、快適で、インフラが完璧に整った近代都市。
圧倒的な武力(筋肉と神弓)と、狂気的な経済力を持ったこの『リトル東京』は、もはや一つの独立国家としての威容を放ち始めていた。
しかし、この異常すぎる発展と富の集中を、大陸の覇者である『ルナミス帝国本国』が黙って見過ごすはずがなかった。
僕たちの箱庭に、最大の危機が静かに忍び寄ろうとしていた。




