EP 6
戦術的『弓』の特訓(後編)と、100均アイテムの悪魔的融合
「いいかタロウ、弓士にとって矢は単なる飛び道具じゃない。相手に『絶望』を届ける配達人だ」
サンガさんの言葉は、日に日に物騒になっていた。
特訓開始から一週間。僕の背筋と腕には、弓を引き続けたことでガッシリとした筋肉がつき始めていた。だが、どれだけ練習しても、僕の放つ矢の威力はサンガさんの放つ「闘気を纏った一撃」には遠く及ばない。
「……なら、矢そのものに『機能』を持たせるしかない」
僕はスキルウィンドウを開き、100円ショップの広大な商品棚を片っ端から検索し始めた。
ターゲットは、重さ数グラム。矢のバランスを崩さず、かつ着弾時に最大級の嫌がらせができるもの。
「よし、これだ。……サンガさん、これを見てください」
僕が取り出したのは、100均の定番防犯グッズ**『大音量防犯ブザー』**(100円)。
「なんだ、その小さな白い箱は?」
「使い方はこうです」
僕はブザーのピンを抜くと同時に、それを矢の先端付近に結束バンドで固定し、空へ向けて放った。
「ピィィィィィィィィィーーーッ!!!」
静かな森に、鼓膜を突き刺すような電子音が鳴り響く。
空を飛んでいたトライバードたちが、驚いて一斉にパニックを起こし、あちこちの木に激突しながら逃げ惑った。
「なっ、なんだこの凄まじい叫び声は!? まるで魔物の悲鳴か、天使の警笛か……!」
「これを使えば、聴覚に優れた獣人や魔獣を混乱させ、魔法使いの集中(詠唱)を強制的に途切れさせることができます」
サンガさんは目を見開き、プルプルと震えながら僕の肩を掴んだ。
「……お前、性格悪いな」
「褒め言葉として受け取っておきます」
僕の「悪魔的改造」は止まらない。
『瞬間接着剤・矢』 矢尻の代わりに接着剤のボトルを装着。着弾と同時に飛散し、敵の翼や関節を固める。
『煙幕・矢』100均の強力なパウダー(重曹やチョーク粉)を袋に詰め、着弾時に視界を奪う。
『リフレクター・矢』高輝度の反射シールを矢羽に貼り、飛竜騎士の目を眩ませる。
「タロウ、お前の戦い方は『武士道』とは程遠い。だが……」
サンガさんはニヤリと笑い、自らの愛弓を僕に差し出した。
「『生き残るための戦法』としては満点だ。もはやお前はただの素人じゃない。狡猾な猟師だ」
特訓の仕上げとして、僕は村の裏山に向かった。
標的は、最近村の家畜を狙っているという、足の速い『フォレスト・ウルフ』。
僕は茂みに身を隠し、気配を消した。サンガさんの教え通り、呼吸を整え、森の風と一体化する。
100メートル先。ウルフが鼻をヒクつかせ、僕の存在を探っている。
(……今だ)
僕はあえてターゲットの数メートル横に、『防犯ブザー矢』を放った。
「ピィィィィィ!」
突然の爆音に驚き、ウルフが反射的に逆方向へ跳ぶ。その着地点は、僕が事前に計算し、100均の『ワイヤーネット』と『結束バンド』で構築した簡易落とし穴の上。
「キャンッ!?」
足を取られ、一瞬動きが止まったウルフ。
その喉元を、僕が放った本命の矢が正確に貫いた。
「……ふぅ。仕留めた」
弓を下ろし、大きく息を吐く。
喧嘩すらしたことがなかった僕が、自分の力で、知略を尽くして獲物を狩った。
その充実感は、大学の単位を取るよりも、バイトで昇給するよりも、ずっと生々しく僕の魂を震わせた。
「お見事です、タロウさん!」
パチパチと拍手をしながら、木陰からサリーが駆け寄ってくる。
「すごい……! 魔法も闘気も使わずに、あんなに強いウルフを倒しちゃうなんて!」
「ありがとう、サリー。……でも、これでおしまいじゃないんだ」
僕は自室にある1万円札の入った財布を思い浮かべた。
僕のスキル、僕の戦術。これが、この広く、残酷で、面白い世界でどこまで通じるのか。
だが、そんな平穏な修行の日々は、突如として破られることになる。
村の方角から、聞いたこともないような不気味な叫び声――「ギャーーー!」という、あの大音量の人参マンドラの合唱が響いてきたのだ。
「……何!? 村で何かが起きてる!」
僕とサリーは顔を見合わせ、全力で村へと走り出した。




